Twitterに投稿されたある説が話題となっている。その説は「東京都内などの大都市では駐車料金が高い。燃費の良い自動運転が普及すると、駐車せず無人で走らせ続けたほうが安くなる」というものだ。
交通工学教授「東京とかは駐車料金が高いので、自動運転が普及すると燃費の良い車だと駐車させるより無人で街中を走らせる方が安くなり、その結果(無人車で溢れかえって)渋滞が発生する可能性がある」
ワイ「草🌱🌱🌱」
— TNGC-K.T. ⇔ טאַניגוטסי🍵 (@phi496) May 31, 2019
本当なら駐車場ビジネスを展開する会社などにとっては由々しき事態だ。自動運転ラボは緊急企画として、「ガソリン車で1時間走行」「EV(電気自動車)で1時間走行」「東京都心で1時間駐車」の3パターンの費用を比較し、この説が本当なのか確かめてみた。
■ガソリン車は1時間約307円
まずはガソリン車を1時間走らせる場合の費用を考えてみよう。一般的に車が市街地を走る際の平均速度は時速30〜40kmで計算されることが多いが、東京都内は信号も多く車の流れは悪くなる傾向があるので、今回は時速30kmで計算する。
2019年6月8日現在のガソリン全国平均価格は144円だ。Twitterの投稿では「燃費の良い自動運転で」と明記してあるので、リッター25kmの燃費で計算してみる。この場合、まず1時間の走行で消費されるガソリンの量は…
30km(1時間で走れる距離) ÷ 25km/リットル(燃費)=1.2リットル
となり、1時間走行するために掛かる必要経費は下記の通りとなる。
1.2リットル × 144円(ガソリン代)=172.8円
これに加え、自家用車の場合は走行距離に対してタイヤやオイル交換、車検代といったメンテナンス費用も必要となる。2000cc以下の一般的な乗用車にかかる費用相場から、おおよその費用を計算してみよう。(ほかにもヘッドライトバルブやワイパーブレードなどの消耗品も考え出すときりがないが、今回は車検代を多めに見積もっておいたのでそこで補うものと仮定する)
オイル交換:5,000円 ÷ 5,000km(交換の目安)=1円/km
タイヤ交換:30,000円 ÷ 30,000km(交換の目安)=1円/km
車検や税金:100,000円(2年) ÷ 40,000km(2年間の走行距離)=2.5円/km
上記を合計すると4.5円/kmとなるので1時間走った場合の諸費用としては「30km × 4.5円=135円」だ。ガソリン代と合計すると1時間走行した場合の合計金額は307円程度となる。
■EV車は1時間約235円
EV車を1時間走らせた場合の費用も算出してみよう。ガソリン車と違い、EV車の効率は1kWh(キロワット・アワー)で走れる距離「電費」で表される。この場合、1時間走行させたときに消費される電気は…
30km(1時間で走れる距離)÷ 6km/kWh(電費)= 5kWh
…となり、1時間走行するために掛かる必要経費は下記の通りとなる。
5kWh × 20円/kWh(電気代)=100円
この電気代に、先ほどガソリン車のコストを計算する際に見積もったメンテナンス諸費用を足すと、EV車を1時間走らせる場合の費用は「100円 + 135円 = 235円」となる。
■東京都中央区の駐車料金は1時間1,000円以上
次に、東京都内で車を1時間駐車する場合の金額を調べてみよう。現在、東京都内で最も地価が高いのは中央区となっている。その中でも駐車料金が高そうな東京駅周辺のパーキングを調べてみると、1時間2,000円の場所が見つかった。駅から離れた安いパーキングでも1,000円が相場のようだ。
今回は最も安い価格帯となりそうな「1時間1,000円」と、ガソリン車やEV車を自動運転で走行させる場合に掛かる費用を比べてみると、下記のようになる。
307円:ガソリン車を1時間走らせる費用
235円:EV車を1時間走らせる費用
1,000円:中央区で1時間駐車するための費用
つまり東京都中央区では、自動運転のガソリン車とEV車どちらの場合でも、駐車場に停めるより無人で走らせていた方がお得だという結果になった。東京23区内の特に都心部では1時間300円以下の駐車場を見つけるのはなかなか難しいため、都心部全域に同じことが言えるだろう。
ただこうした結果をみて、「自動運転車じゃないいまの車でも同じじゃないか!」と言う人もいるかもしれない。いまのクルマでも走らせ続けた方が東京都中央区で駐車場に入れるよりはガソリン代や電気代が掛からないからだ。
ただ今のクルマを走らせ続けるためには「人」が必要になる。東京都の現在の最低賃金は985円だ。そのことを考慮すれば、いまは東京都中央区であっても駐車場にクルマを停めておく方が安い。
■走り続けさせるのは環境的にNG?
ただしいくら費用が安いからといっても、環境的な観点で見ると自動車を走り続けさせるのはあまり良いことだとは言えないだろう。太陽光発電などクリーンエネルギーの普及が進めば状況は変わってくるかもしれないが、走り続ける自動車が増えるということは渋滞も誘発する。
ただ次世代技術がこうした逆転現象を引き起こすというのは興味深いことだ。駐車料金が安い地方都市ではこの記事で紹介した説は成り立たないかもしれないが、都市部では既にこうした現象がリアルなものとなっているのだ。
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る|自動運転ラボ」も参照。
【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る https://t.co/wGPYiXnZEg @jidountenlabさんから
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 22, 2018