ライドシェア、「推進派全滅」で完全解禁は棚上げか 新デジタル相「ほぼゼロ回答」

当面は岸田路線を継承?議論は水面下で継続



石破茂氏が第102代内閣総理大臣に就任し、閣僚人事も落ち着いた。これまで河野太郎氏が担っていたデジタル大臣や規制改革に関わる内閣府特命担当大臣には、新たに平将明氏が着任した。


解散総選挙を経て情勢が変わる可能性もあるがそれは置いておき、平氏はどのような路線を歩むのか。規制改革面ではライドシェア議論が現在進行形で進められているが、河野・小泉進次郎両氏が総裁の座を逃し、推進派は意気消沈している可能性がある。

石破×平の新体制は、ライドシェアにどのような姿勢で臨むのか。平氏の記者会見などをもとに今後の動向に触れていこう。

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■平将明大臣の記者会見

ライドシェアについてはほぼゼロ回答?

平氏は石破新内閣において、デジタル大臣、行政改革担当大臣、国家公務員制度担当大臣、サイバー安全保障担当大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革)に就任した。


大臣就任記者会見では、「デジタル庁を中心に、社会全体のデジタル化の司令塔として行政の縦割りを打破し、全ての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を構築すること。また、DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)の構築に向け世界をリードすること、関係大臣と協力してAIに関する競争力強化と安全確保に向けた取組を進めること」について石破総理から指示を受けたとし、「誰一人取り残されない人に優しいデジタル化を進めるよう、AIなど新しい技術の活用も含め関連する取り組みを強力に進めてまいりたい」と所信を表明した。

会見では、記者から「規制担当大臣として、前政権ではライドシェアの推進などもあったが、そういった諸課題についてどう取り組むか」といった質問が出た。

平氏は「レギュレーションのデザインとイノベーションの進化は大事。そういったものを俯瞰して政策を作れる部署が必要と思う。ライドシェアについては党でもいろいろな議論があり、今、基本的な方針が固まっていると思う。そのスケジュールに沿って対応していきたい」と回答した。

つまり、特段の「平カラー」は発揮せず、これまでに示された基本的な方針に従って対応していくという慎重姿勢を示した格好となった。


ライドシェア解禁に関しては現状、岸田文雄前総理の指示で期限を設けず議論を進めていく方針が示されており、レギュレーション=規則とイノベーション=本格版ライドシェアのバランスを見定めながら対応していく――といった印象だ。

平大臣はライドシェア肯定派?否定派?

平氏自身は、ライドシェア肯定派か否定派か……の2択で言えば、恐らく肯定派と思われる。自身の考えがあるかもしれないが、まずは既定路線で様子見するのかもしれない。

タクシー事業を所管する国土交通大臣は公明党の斉藤鉄夫氏が続投しており、こちらは明らかな慎重派だ。推進派の河野太郎氏は主だった役職がなくなり、影響力・発言力が薄れることは必至だ。

一方、自民党内では同じく推進派の小泉進次郎氏が選挙対策委員長に就き、菅義偉氏が副総裁に就任した。菅氏の要職復帰が唯一の強調材料といったところだろうか。

石破総理は肯定派?否定派?

出典:首相官邸

当然ながら、石破総理の考え方に拠るところも大きい。党内の取りまとめや外交、経済……など喫緊の課題が多く、ライドシェアまで頭が回らないかもしれないが、その一存で情勢は大きく変わる。

石破氏が2015年に内閣府特命担当大臣を務めていた際、平氏は副大臣の任に就き、小泉進次郎政務官とともに「近未来技術実証特区検討会」を設置し、自動運転などの将来技術の実証プロジェクトを進めた過去がある。

可能性は低そうだが、石破総理が一言口を挟めば、議論を大きく加速させることができる。果たして、石破総理の動向やいかに……。

■ライドシェア解禁をめぐる動向

日本では長らくライドシェアは「ダメ!ゼッタイ!」状態だった

地方における移動サービス不足は早くから問題視されており、まず2006年に自家用有償旅客運送が施行される。一定条件を満たせば、タクシーなどの事業用自動車以外の自家用自動車を有償運送の用に供することを可能にする内容だ。

その後、2010年代にUber Technologiesなどが相次いで台頭し、マッチングプラットフォームを主体とした現在のライドシェアサービスが本格化することになるが、日本では「白タク行為」に該当するものとして固く禁じられてきた。

Uberの日本法人が2015年、福岡県福岡市でライドシェアの検証プログラム「みんなのUber」を開始した際も、ほどなくして国土交通省から指導が入り中止を余儀なくされている。

2016年の第190回国会では、特区における自家用有償旅客運送の対象に観光客などを追加する国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案が可決されたが、この際、附帯決議として「ライドシェアの導入は認めない」ことが明記された。

日本では、タクシー事業者以外が管理する本格版ライドシェアについては長らく禁忌とされていたのだ。

インバウンド急増で情勢が一変

こうした流れは、コロナ禍が明けた2023年に一変することになる。コロナ禍でタクシードライバーが減少していたところ、インバウンドの急増などにより都市部や観光地などでタクシーの供給不足が顕著となったのだ。

菅氏をはじめ、与党系有力議員がライドシェア解禁の是非に言及したことなどが相まって議論が急加速し、規制緩和の在り方をめぐる議論が規制改革推進会議で正式にスタートした。

需要と供給のミスマッチをいかに解消するかが主な論点で、タクシー業界は「タクシー不足は業界の規制緩和により解消する見込みで問題解決の近道」とし、二種免許教習の効率化や地理試験の廃止などを要望した。

一方、全国の知事や市町村長らで構成する活力ある地方を創る首長の会は、自家用有償旅客運送事業を実施している首長のうち94%が移動の足問題を解決できていないことなどを挙げ、一部からはライドシェア解禁を要望する声も上がり始めた。

自家用車活用事業を新設

2023年12月の中間答申では、タクシーの規制緩和や自家用有償旅客運送制度の改善などとともに、自家用車・一般ドライバーを活用する新たな制度の実施と、タクシー事業者以外の者によるライドシェア事業の法律制度の議論を進めることが示された。

自家用車・一般ドライバーを活用する新たな制度は「自家用車活用事業」と名付けられ、通称「日本版ライドシェア」として2024年4月に事業が始まった。

タクシー事業者による運行管理のもと、一般ドライバーがタクシーサービスを提供する新事業だ。あくまで需給不足の解消を前提としているため、事前に配車アプリのマッチング率などで客観的に供給不足をデータ化し、その上でサービス提供可能なエリアや時間帯などを定める手法が採用された。

サービス提供主体はタクシー事業者限定で、一般ドライバーは同事業に参加するタクシー事業者に雇用される形で契約し、サービスを提供する。

その後、悪天候時やイベント開催時などの柔軟なサービス提供や、配車アプリを使用しないサービス提供、貨客混載に関する取扱いなど順次改善を図りながら事業は拡大している。

2024年10月までにサービスエリアは全国48地域に広がっている。配車アプリの利用が多く、一般ドライバーも集まりやすい大都市部では一定の成果が上がっており、札幌や仙台エリアでは配車アプリのマッチング率90%未満の時間帯枠は消滅している。

一方、苦戦する地方も目立つ。例えば、7月下旬にサービスを開始した青森エリアでは、登録ドライバーは5人で9月末までに23回運行しており、1台1時間当たりの運行回数は0.1に留まっている。

8月末にサービス開始した岐阜(美濃・可児)エリアでは、登録ドライバーが12人いるものの1カ月間の運行回数はわずか1回だけとなっている。

同事業の成果を踏まえ、タクシー事業者以外の者によるライドシェア事業に関する取りまとめを6月を目途に行う予定となっていたが、岸田総理は時期尚早と判断し、期限を設けず引き続き議論を進めていくことを指示した。

こうした動きに対し、超党派ライドシェア勉強会を立ち上げた小泉氏らは、「期限を設けないのはやらないのと同じ」とし、法整備に向けた検討を進め年末に結論を出すことを進言している。

6月に閣議決定された規制改革実施計画では、自家用車活用事業のモニタリング・検証・評価とともに、タクシー事業者以外の者が行うライドシェア事業に係る法制度を含めた事業の在り方の議論について直ちに開始することが示され、規制改革推進会議に設けられたサブワーキング・グループで非公開のもと議論を続けているようだ。

本格版ライドシェア議論の行く末は?

タクシー事業者以外が運行主体となる本格版ライドシェアの解禁においては、事業者自身の利用者に対する法的責任や安全・犯罪対策、新たな働き方の尊重、副業・兼業推の推進、地域・時間帯・台数の不制限、自由度の高い料金規制――などが論点となる。

Uberなどのプラットフォーマーを介して一般ドライバーがサービス提供する海外で主流のライドシェアは、各プラットフォーマーが定めた要件を満たすドライバーが参加可能なTNC型や、国が定めるライセンスの取得などを要件とするPHV型など、さまざまな運用方法がある。

TNC型は運転手の管理や運行管理をプラットフォーマーが担う一方、PHV型は各ドライバーが規制当局に対しライセンスの取得や登録などを要し、自ら車両や運行管理を行うものとなる。個人タクシーに近いイメージだ。

万が一の際、最終的に誰が責任を負うのか――といった問題は最重要課題だ。例えば、ドライバーが犯罪を起こす、あるいは犯罪に巻き込まれた場合、ドライバー自身が負うべき責任では賄いきれないケースもある。

仮に解禁された場合、プラットフォーマーをただの仲介役とせず、一定の責任を負わせる枠組みはおそらく日本では必須になるものと思われる。

また、自家用車活用事業と同様、サービス提供可能なエリアや時間帯などに制限を設けるか否かも重要だ。推測だが、日本においては当面の間制限が設けられる可能性が高いのではないか。

全面解禁によって体力の少ない地方のタクシー事業者などが淘汰されれば、そのエリアには事業継続性に乏しい一般のライドシェアドライバーしか残らなくなる。これは本末転倒だ。

既得権を守る必要はないが、エリアごとに安定したサービスが提供される体制だけは守らなければならない。

制度設計次第で各論点の解決は可能と見るが、果たして日本ではどのような結論を迎えることになるのか。現在水面下で進められている議論も、期限を設けないとは言えどこかのタイミングで取りまとめを行わなければならない。年内を目途に中間とりまとめなどが公表されるのかも注目したいところだ。

【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業まとめ」も参照。

将来的には自動運転タクシーが上位互換に?

先の未来の話となるが、自動運転タクシーもいずれ関わってくることになる。無人運行が可能な自動運転タクシーは、その技術が確立すればライドシェアサービスの上位互換サービスとなり得る。

自動運転タクシーも基本「配車」が原則となるため、ライドシェアからドライバーを排除したサービスと同一となる。運転能力は均一に保たれ、ドライバーによる犯罪もなくなる。

柔軟で安全な運転能力をどの段階で達成できるかがカギだが、遅かれ早かれその時はやってくる。この自動運転タクシーにおいても、万が一の事故の際、その責任をサービス提供事業者が負うのか、開発事業者が負うのか――などが論点となる。

ライドシェア議論においては、こうした未来を見据えた議論を望みたいところだ。

■【まとめ】水面下で議論継続、とりまとめがいつ公表されるのか注目

解散総選挙を経てどのように情勢が変わっているかもポイントとなりそうだが、当面現在の体制が維持される可能性が高い。

まずは年末ごろをめどに中間とりまとめなどが報告されるのか。その内容から、解禁に向けた姿勢が浮かび上がってくるはずだ。内容次第では、タクシー業界が本腰を入れて反対運動を展開する可能性も考えられる。

全面解禁が棚上げ状態になったとは言え、議論は引き続き進められている。今後の動向に要注目だ。

【参考】関連記事としては「ライドシェア推進派の政治家一覧(2024年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
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