究極の形から始める…DeNAの0円タクシー、会見後に語られた真の狙い

自動車事業部門トップ・中島宏氏に聞く



オートモーティブ事業本部長の中島宏執行役員(中央)=撮影:自動運転ラボ

「こういった究極の形からはじめていく」

DeNAがタクシー配車アプリ「MOV(モブ)」の東京展開において、広告宣伝費で乗車料金を無料にする「0円タクシー」という衝撃的なマーケティング施策を発表した2018年12月5日。記者会見後、個別インタビューに応じたオートモーティブ事業本部長の中島宏執行役員は、自動運転ラボの最初の質問にこう答えた。


自動運転ラボの最初の質問はこうだ。「0円タクシーはPR戦略としては素晴らしいと思いますが、単なるショットのプロモーションではなく、ビジネススキームとしては成り立つのですか?」

その質問に対する回答の中で中島氏は0円タクシーを「究極の形」と形容した上で、「(実施を通じて)タクシーに対する敷居の高さを崩していき、料金体系としてのサブスクモデル、広告モデル、というものを受け入れやすくする土壌を育てる」と狙いを語った。

どんな市場においても、変革やパラダイムシフトはユーザーの感動や意識や価値観の変化などがテコとなって起こる。その変革の強烈なスタートダッシュとしての「0円タクシー」。中島氏の回答からはそんな意気込みが伝わってきた。

ちなみに0円タクシーでは、DeNA社内でも相当議論をしたようだ。



■中島氏「号砲が鳴った」

「タクシー配車アプリ戦争の号砲が鳴った」とも中島氏は語った。

大阪ではソフトバンク陣営の中国・滴滴出行とウーバーが配車サービス事業に乗り出し、DeNAがこの日から事業展開をスタートさせた東京では、ソニー系の「みんなのタクシー」も2018年度中にサービスを提供予定だ。中島氏が言うように、熾烈なシェア獲得戦争の火蓋は既に切って落とされている。

ここで言うシェア獲得戦争とは、ユーザー側の利用シェアについてだけではなく、協力タクシー会社をいかに増やすか、という戦いの意も含む。

配車アプリではどれだけ参画企業を増やしていくかが肝だ。せっかく配車アプリを使っても全然タクシーが来なければ、ユーザーは離れていく。提携するタクシー会社を増やすために中島氏は「いくつかの武器が必要」と語る。その一つがこの日の記者発表で発表したAI(人工知能)支援だ。

タクシー会社が保有する乗降に関するビッグデータを解析するなどして需給予測システムが出来上がれば、タクシー事業者側の売上向上に貢献する。ベテラン世代が続々定年を迎える今後、特に新人ドライバーにとっては強い味方だ。「タクシー事業者側の生産性向上の圧倒的メリットを強く打ちだすことで、参画頂く事業者様を増やしていきたい」(中島氏)

このAI需給予測は「AI探客ナビ」という名称(予定)で既に導入に向けて開発が進んでいる。「来年(2019年)の後半くらいにはいけると思っている」と中島氏は語る。

0円タクシーの第1弾となる「0円タクシー by 日清のどん兵衛」の車内=撮影:自動運転ラボ
■複層のマーケティング・提携戦略

「0円タクシー」で変革を加速させ、「AI需給予測」で参画企業に大きなメリットが生まれるようにする——。この複層のマーケティング・提携戦略が、外資を巻き込んだ配車アプリ戦争におけるDeNAの初期の戦い方のようだ。

2018年4月からタクシー配車サービスを神奈川で展開し、実車回数やタクシー会社との提携でも着実に成果を挙げていることもあり、DeNAの東京展開には大きな注目が集まる。そして京都や大阪、神戸では2019年春にサービスを展開予定だという。


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