世界初の自動運転レベル3(条件付き運転自動化)搭載量販車として注目を集めた独Audi社の上級セダン「Audi A8」が、ついに日本国内での販売を開始した。同社が誇る最新のフラッグシップセダンの登場を待ち望んでいたアウディファンも多いことだろう。
しかし、国内で販売されるAudi A8には残念ながら自動運転レベル3のシステム「Audi AIトラフィックジャムパイロット」は搭載されない。今回は、その理由とともにA8の概要や実装されている自動運転システム、今後の動向などについてまとめてみよう。
記事の目次
■アウディ社の概要
アウディの歴史は、創業者のアウグスト・ホルヒ博士が1899年に自動車修理工場「ホルヒ社」を設立したことに始まる。1901年に自動車生産を開始し、1910年にアウディ社を立ち上げた。1959年にダイムラー・ベンツ、1964年からはフォルクスワーゲン(VW)の傘下となり、現在はVWグループの中核を担っている。2017年における世界販売台数は過去最高の187万8100台で、8年連続で数字を伸ばしている。
自動運転に関しては2000年代早期に開発に着手しており、2016年に自動運転レベル2(部分運転自動化)の運転支援システム「トラフィック・ジャム・アシスト」を「Audi Q7」や「Audi A4」に搭載。2017年には、市販車として世界初となる自動運転レベル3のシステム「Audi AIトラフィックジャムパイロット」を搭載した新型Audi A8を発売した。
【参考】自動運転レベルの定義については「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説」も参照。
■Audi A8の概要と自動運転技術
Audi A8の概要:アウディが誇る最先端技術を搭載したフラッグシップ
1994年登場の初代から技術の最先端を歩み続けてきたフラッグシップセダンで、2017年に発売された新型は第4世代となる。全長5000ミリを超すダイナミックなシルエットに、引き締まったシングルフレームグリルが圧倒的な存在感を誇る。
ユーザーインターフェースは、インフォテインメント用と空調操作や手書き文字入力用の2つの高解像度タッチディスプレイを搭載しており、車両のセッティングやインフォテインメントを直感的に操作できるほか、スマートフォンとダイレクトに接続できるAudiスマートフォンインターフェイスや、Wi-Fiホットスポットとしても機能するAudi connectも装備している。
排気量2994ccで最高出力250kW(340PS)のV型6気筒3.0TFSIエンジンを積んだ「55 TFSI quattro tiptronic」が1140万円、3996ccで最高出力338kW(460PS)のV型8気筒4.0 TFSIエンジンを積んだ「60 TFSI quattro tiptronic」が1510万円(いずれも税込み)などとなっている。
Audi A8に搭載された自動運転技術:量産車として初のLiDAR装備
量産車として世界初の搭載事例となるLiDAR(ライダー)をはじめ、ミリ波レーダー、カメラセンサー、超音波センサーを合わせて最大23個搭載しており、センサーからの膨大な情報を統合的に分析して高度な周辺環境モデルを構築する「セントラルドライバーアシスタンスコントローラー(zFAS)」を採用している。
右折時のドライバーの死角をレーダーが監視し、ブレーキを自動的に作動させるターンアシスト、車線変更や右左折の際、死角にいる車両や自転車などの存在を警告するアウディサイドアシスト、駐車スペースなどからバックで路上に出る際、左右から接近する車両を監視するリヤクロストラフィックアシストなどを搭載する。
また、新たに見通しの悪い交差点で左右から接近する車両との衝突の危険性を警告するフロントクロストラフィックアシストや、全方位からの事故を予防し被害を軽減するプレセンス360、従来のアダプティブクルーズコントロール(ACC)、アクティブレーンアシスト(ALA)、トラフィックジャムアシストの3つの機能を統合したアダプティブドライブアシスト(ADA)などを備えている。
噂の自動運転レベル3:「Audi AIトラフィックジャムパイロット」とは
高速道路や中央分離帯のある片道2車線以上の道路で、時速60キロメートル以下の低速で交通が流れている場合に、ドライバーに代わってシステムが全ての運転操作を引き受ける。
ドライバーはクルマの状況を常時監視する必要がなく、ステアリングホイールから手を離すことができるが、システムの限界に達した際には、ドライバーに運転操作を再開するよう警告を発する。運転操作の再開には基本的に約10秒の猶予時間が与えられ、警告は3つの段階を踏んで実施されるという。
また、万が一事故などのトラブルが発生した際、誰が運転していたのかを明らかにするため、自動運転に関わるデータを記録するデータログ記録システム(DAF)も搭載している。
■日本上陸では「レベル2」に留まったことについて
レベル3の「Audi AIトラフィックジャムパイロット」を公道で利用するためには、各国の既存の法律や法令に照らして問題がないかを明らかにするとともに、実験を通じて、安全性を徹底的に検証しなくてはならない。
道路交通に関する国際統一規則を定めたジュネーブ道路交通条約に「自動車はドライバーが乗車しコントロールすること」が規定されており、この条約を批准する日本においては、ハンドルから手を放す運転行為は一部例外を除き認められていない。
このため、日本国内においてレベル3実装車両を流通させるためには、ジュネーブ条約や国内法の改正が必要となる。
なお、もう一つの国際条約であるウィーン道路交通条約は、自動運転システムが国際基準に適合している場合などは許容する改正案が2014年に採択されており、批准国では各国内法の改正について議論を進めている。
こういった背景により、アウディは各国における法対応を注視しつつ段階を踏んでシステム搭載を実施していくとしている。
【参考】自動運転レベル3については「【最新版】自動運転レベル3の定義や導入状況は?日本・世界の現状まとめ」も参照。
■自動運転レベル3での日本での流通は早ければ2020年
内閣府が2018年4月に発表した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム研究開発計画」によると、2020年を目途に自動運転レベル3の市場化が可能となるよう検討を進めている状況で、計画通りに進めば2020年にも自動運転レベル3搭載車の流通が始まる見通しだ。
わずか2年後の話だが、そのころには他国においても法整備が整い、アウディ以外にも世界の各自動車メーカーが自動運転レベル3搭載車を発表している可能性は高く、自動車社会や交通環境が劇的に変化していく大きな節目になるものと思われる。
アウディも、現段階の「Audi AIトラフィックジャムパイロット」が宝の持ち腐れにならぬよう、さらに高機能化を図ったレベル3技術を改めて市場に投入してくるだろう。
【参考】アウディの戦略については「アウディの自動運転戦略まとめ 車種一覧やA8が備える機能」も参照。