タクシー配車アプリ戦争が激化している。以前は各タクシー事業者独自の配車アプリがスタンダードだったが、この1~2年でDeNAが配車サービスの本格展開を開始し、海外配車サービス大手のDiDiやUberも参入するなど、業界外の動きが一気に活性化し、タクシー事業者を巻き込んだ勢力争いが激化の一途をたどっている。
そこで今回は、勢いがある配車アプリをピックアップし、業界の新たな勢力図を描いてみよう。
記事の目次
■JapanTaxi:日本交通が開発、国内配車アプリの先駆け
アプリのダウンロード数が2018年7月に500万件を突破したJapanTaxi。振り出しは、日本交通グループのシステム部門である日交データサービスが開発し、2011年にリリースした日本初のアプリ「日本交通タクシー配車」に端を発する。
タクシーの配車依頼をスマートフォンアプリのみで完結でき、全国のタクシー事業者が参加できるよう開発したものだ。翌2012年には日本初となるネット決済サービスを導入するなど、国内タクシー配車アプリの草分け的存在だ。日本交通タクシー配車アプリとは別に2012年に「全国タクシー配車」アプリ(現JapanTaxiアプリ)もリリースしている。
日交データサービスは2015年にJapanTaxi株式会社に商号変更し、システム開発やサービス展開を加速。2017年には、オリジナル機能のQRコード決済「JapanTaxi Wallet」も導入している。
提携事業者も年々増加しており、2016年4月に業界大手の飛鳥交通グループや阪急タクシー株式会社など9グループ、2017年12月に帝都自動車交通株式会社、2018年7月に東京無線協同組合とそれぞれ提携を交わすなど、拡大路線が続いている。
2019年3月時点で889の事業者計62,320台が利用可能で、対応エリアは全47都道府県を網羅している。
また、異業種との連携も加速しており、2018年2月にトヨタ自動車とタクシー事業者向けサービスの共同開発などを検討する旨の基本合意書を締結し、75億円の出資を受けている。同年3月には、トヨタ自動車とKDDI株式会社、アクセンチュア株式会社と共同で、スマートフォンの位置情報ビッグデータを利用した人口動態予測やイベントなどの情報を掛け合わせて予測したタクシー需要を配信する「配車支援システム」を開発し、東京都内で試験導入を開始したことも発表している。
同年6月にはクラウド型タクシーコールセンターサービスを展開する株式会社電脳交通と資本業務提携を結び、電脳交通がクラウド型タクシー配車サポートを行う中小規模タクシー会社に対し、JapanTaxiへの加盟がより手軽で簡単になるよう提案・運用を実施することとしている。
また、2019年2月には、乗務員向けタブレット「JapanTaxi DRIVER’S」において既存のタクシー配車システムとの一元化を行うべく、株式会社システムオリジン、株式会社JVCケンウッド、株式会社電脳交通、新潟通信機株式会社、日米電子株式会社、モバイルクリエイト株式会社の計6社と開発及び検討を開始したことを発表。「JapanTaxi DRIVER’S」の2019年4月全国展開開始にあわせ、年内の配車システム連携開始を目指すこととしている。
【参考】乗務員向けタブレットの一元化に向けた取り組みについては「JapanTaxiの乗務員向けタブレット、既存配車システムと一元化へ」も参照。
広告関連では、フリークアウト社と2016年にデジタルサイネージの開発や広告販売を手掛ける株式会社IRISを設立し、いち早くタクシー車内における動画広告配信サービスに着手している。
新世代デジタルサイネージ「Tokyo Prime」端末を2017年内に日本交通グループの都内タクシー全車両 約3500台に増設したほか、2018年6月からグループ以外のタクシー会社車両への設置を開始し、全国の主要都市を中心に1万台超に導入されている。今後も段階的に端末を導入し、2020年末までに合計5万台のネットワークを目指すこととしている。
Tokyo Primeは月間延べリーチ数700万人で、長尺動画に対応する「PREMIUM VIDEO ADS」や乗客の性別で絞った広告配信を実現する「TARGET VIDEO ADS」など6種類のメニューが用意されている。導入当初から人気を博しており、販売枠はすぐに埋まってしまうようだ。
2018年5月には、東南アジアで配車サービスを手掛けるGrab(グラブ)と提携し、シンガポールにおいてグラブが所有する車両に搭載するプレミアム動画メディア「SPLIT」のトライアル提供を開始したことを発表している。Tokyo Primeをベースに、ライドシェアモデルに最適化を施した新たな動画広告商品という。
【参考】JapanTaxiの戦略については「【インタビュー】JapanTaxiの自動運転時代の戦い方とは 岩田和宏CTOに聞く」も参照。
■MOV:第一交通などが参加、神奈川・東京から大阪にも進出
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)が2017年に実用実験を開始したのが「MOV(当時はタクベル)」だ。AIによる需要予測や乗務員用の専用端末とユーザー向けのアプリを直接連動させるなど、運行中の車両から収集するビッグデータとタクシー需要に関連する各種データを解析することで、乗りたい時にすぐ乗れる利便性や、タクシーの稼働率向上などを目指している。
2018年4月に神奈川県タクシー協会の協力のもと正式にサービスをスタートし、同年7月に神奈川県広域にエリアを拡大。2018年7月時点で同協会に加盟する82事業者が導入している。
2018年12月には、荏原交通株式会社、日の丸自動車グループ、平和自動車交通株式会社、東都自動車株式会社、平和交通羽田株式会社、第一交通産業グループの協力のもと東京23区などへエリアを拡大したほか、2019年1月には株式会社国際興業大阪との協業を発表し、春から大阪府でサービス展開することとしている。
【参考】MOVの大阪進出については「DeNAのタクシー配車アプリ「MOV」、大阪でのパートナーは国際興業大阪に」も参照。
株式会社システムオリジン、西菱電機株式会社、株式会社JVCケンウッドと配車システムの連携を目指す検討を開始することも発表。乗務員がMOVの乗務員専用タブレットで電話などの配車依頼も一元管理できるようシステム開発などを進めていくこととしている。
また、2019年1月には新潟通信機株式会社とも同様に配車システムの連携を目指すことを発表している。
広告関連では、「0円タクシー」のインパクトが大きい。新たな移動体験をさまざまな形で実現する取り組み「PROJECT MOV」の第一弾として企画したもので、スポンサーとMOVの広告宣伝費によって乗客が支払う利用料金を無料にした。車体ラッピングや車内の専用タブレットに流れるプロモーション動画による広告費を、乗車料金に転嫁する仕組みだ。
2019年2月には、タクシーの車内タブレット端末に動画広告を配信するサービス「Premium Taxi Vision by DeNA」を正式にスタートしている。東京・神奈川に各4000台、春に京阪神2000台の計1万台の車両にサイネージを設置し、タクシー車内という視界を遮られることのないパーソナルな空間で、至近距離に設置された大画面で音声付きの訴求が可能で、高い広告到達率、認知度向上が期待できるとしている。月間の延べリーチ数は260万人としている。
広告メニューは最大60秒の動画を発車直後に流す「Top Movie」と最大30秒の「Standard Movie」の2種類を用意している。滑り出しは順調で、2018年10月下旬の発表直後から250件以上の問い合わせが相次ぎ、2~3月の広告枠は申し込み開始から約1カ月半で満稿になったっという。
【参考】MOVについては「タクシー配車アプリ「MOV」を徹底解説!DeNAが展開、プロモーションは?」も参照。
■みんなのタクシー:大和自動車など東京5社が設立、個人タクシー組合とも提携
「タクシー事業者によるタクシー事業者のためのプラットフォーム」という理念のもと、ソニー株式会社とソニーペイメントサービス株式会社、株式会社グリーンキャブ、国際自動車株式会社、寿交通株式会社、大和自動車交通株式会社、株式会社チェッカーキャブの計7社で立ち上げたのがみんなのタクシーだ。
2018年9月に事業会社化し、AI(人工知能) 技術を活用した配車サービスや需給予測サービスなどの開発と提供などを手掛けることとしている。まず、2018年度中にタクシーの配車サービスや決済代行サービス、後部座席広告事業の提供を予定している。
グリーンキャブらタクシー事業者5社が保有するタクシーは1万台を超えており、同年11月には約7500台が加盟する東京都個人タクシー協同組合とも提携を交わし、配車や決済代行、後部座席広告のサービスを提供することで合意した。
これを足掛かりに全国個人タクシー事業連合会に加盟する各団体へのアプローチも図り、全国で最大2万2000台の個人タクシーへのサービス提供を目指している。
広告関連では、総合PR会社大手の株式会社ベクトルとタクシー車両における後部座席IoTサイネージ事業に関するパートナー意向確認書を締結したことを2018年11月に発表。タクシー事業者5社が所有するタクシー車両の後部座席IoTサイネージ事業をベクトルが担当し、新型IoTサイネージ端末設置、メディア運営、広告枠販売に至るサービス提供を行うこととしている。広告枠の受付は、2019年2月に開始している。
【参考】みんなのタクシーについては「【最新版】みんなのタクシー株式会社とは 会社概要は?ソニーが参加し配車アプリ開発」も参照。
■DiDi:大阪で展開、東京への本格進出間近
世界400都市以上で1日当たり3000万回アプリが使用されている世界最大級の交通プラットフォーマーのDiDi。日本では、ソフトバンクの出資のもとDiDiモビリティジャパンを2018年6月に設立し、9月に第一交通産業株式会社の協力のもと大阪府内でトライアルサービスを開始し、「DiDi – AIによるタクシー配車」アプリをリリースした。
同月中に計12社のタクシー事業者との提携のもと正式にサービスを開始しており、11月時点では、「大阪神鉄豊中タクシー株式会社」「ケーエフ株式会社」「栄交通株式会社」「珊瑚交通グループ」「敷島交通株式会社」「第一交通産業グループ」「大宝タクシー株式会社」「タックン大阪株式会社」「東宝タクシー株式会社」「ドリーム&トラストジャパン株式会社」「仲川交通株式会社」「株式会社なみはやオーシャン交通」「株式会社南港マリン」「日本交通株式会社」「大和川交通株式会社」「ワンコイン八尾株式会社」の16社と提携を結んでいる。
2019年1月には先行サービスのような形で東京エリアにも進出しており、近く正式にサービス展開を図っていくものと思われる。
【参考】DiDiの配車アプリについては「DiDiのタクシー配車アプリの日本での使い方は? プロモーションは? 大阪で展開」も参照。
■Uber:業界最大手の第一交通とタッグで全国展開へ
米配車サービス大手の「Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)」が提供する配車アプリ「Uber」は、2018年7月に兵庫県淡路島で配車アプリ導入に向けた実証実験を開始し、日本国内での配車アプリ事業を本格化。同年9月にフジタクシーグループとの提携のもと愛知県名古屋市で正式に配車アプリ事業をスタートした。
2019年1月には、未来都との協業により大阪市で事業をスタート。また仙台中央タクシー、西条タクシー、成長タクシーともパートナーシップを結んでおり、2019年2月に仙台市内でもサービスを開始している。
また、同年3月には第一交通産業と戦略的パートナーシップを締結し、広島市内などでタクシー配車サービスの提供を開始すると発表した。両社は広島だけではなく全国で順次サービスを開始していくこととしており、タクシー業界最大手との強力タッグで全国展開を目指す構えのようだ。
【参考】ウーバーについては「ウーバータクシー配車アプリの利用方法!名古屋や大阪で展開、プロモーションは?」も参照。
■その他のアプリ:多数参加&決済機能を備えたアプリは少数派 広告関連は新規参入も
通信・アプリケーションサービスの開発などを手掛けるモバイルクリエイト株式会社と、その子会社の株式会社トランが2016年12月にリリースした配車アプリ「らくらくタクシー」は、リリース時点で全国の約200社が参加を申し込んでおり、第一興津産業グループも参加しているようだ。日時を指定したタクシー予約やキャッシュレス決済機能などを備えている。
このほかにも各社独自の配車アプリなどさまざまなアプリが登場しているが、多数のタクシー事業者が参加しており、かつ決済機能を備えたアプリはそれほど多くない。
また、広告関連では、マーケティング支援システム事業などを手掛ける株式会社ジーニーが、タクシー配車サービス向けに広告配信プラットフォームの開発を2018年11月に発表するなど、現在進行形で新規参入が相次いでいる状況だ。
【参考】ジーニーの広告配信プラットフォームについては「ジーニー社、タクシー配車サービス向けに広告配信プラットフォームを開発」も参照。
■【まとめ】5強体制形成か、大手タクシー事業者の動向にも注目
まだまだ混沌としている状況だが、有力な新規参入組の影響でアプリの淘汰も始まっているようで、JapanTaxi、DeNA(MOV)、DiDi、Uber、みんなのタクシーの5強体制が構築されつつある印象を受ける。
いずれも決済機能など一通りの機能を備えたアプリを提供しているが、国内3社は広告面にも力を入れており、別角度から収益面の増強を図っている点が特徴的だ。
各アプリに協力する第一交通産業や、自社開発アプリで先行する日本交通など、大手タクシー事業者の動向も見逃せない。
2019年中にも一定の勢力図が構築される可能性が強いが、この5強の牙城を崩すような新規参入や新サービスの登場にも期待したい。
【参考】関連記事としては「【最新版】タクシー配車アプリや提供企業を一挙まとめ 仕組みも解説」も参照。