国土交通省が公募していた新モビリティサービス推進事業の選定先がこのほど決定した。日本各地の自治体らが官民協働で取り組む19事業が選定され、日本版MaaSの実現に向けた先行モデルとして実証実験を進めていく。
今回は新モビリティサービス推進事業の概要とともに19事業の中身に迫り、国内各地域でどのような取り組みが進められていくのかを見ていこう。
■新モビリティサービス推進事業とは
新モビリティサービス推進事業とは、国土交通省が中心となり、全国各地のMaaSなど新たなモビリティサービスの実証実験を支援し、地域の交通課題解決に向けたモデル構築を推進する事業だ。
2019年4月から公募を実施し、全国各地から寄せられた51事業の中から、事業の熟度が高く、全国の牽引役となる先駆的な取り組みを行う先行モデル事業として19事業が選定された。
事業は「大都市近郊型・地方都市型」「地方郊外・過疎地型」「観光地型」に類型され、それぞれの地域特性にあった事業を進め、実証実験終了後3年以内の本格的な導入に向け、計画を作成することとしている。
また、意欲がある団体については、経済産業省と連携したスマートモビリティチャレンジ推進協議会における情報共有・助言などを通し、取り組みの実現に向け支援していく。
【参考】新モビリティサービス推進事業については「国交省が「地域版MaaS」の実証実験支援 最大5000万円補助」も参照。
■大都市近郊型・地方都市型
大都市近郊型・地方都市型には下記の6事業が選定された。
- 神奈川県川崎市・箱根町「神奈川県における郊外・観光一体型MaaS実証実験」
- 兵庫県神戸市「まちなか自動移動サービス事業実証実験」
- 茨城県日立市「日立地域MaaS実証実験」
- 茨城県つくば市「顔認証やアプリを活用するキャンパスMaaS及び医療MaaS実証実験」
- 群馬県前橋市「社会実装に向けた前橋版MaaSの実証」
- 静岡県静岡市「令和元年度静岡型MaaS基幹事業実験」
神奈川県の川崎市・箱根町では、小田急グループとともに、スマートフォン向けMaaSアプリの構築・提供を通した、MaaSアプリサービスの効果や需要に関する実証を2019年10月から2020年3月まで行う。
対象交通手段は鉄道、バス、ロープウェイ、ケーブルカー、観光船、タクシー、カーシェア、レンタカーで、タクシー、カーシェア、レンタカーは通常料金だが、定額制のデジタルフリーパスの設定をはじめ、生活サービスや観光施設の利用などをセットにしたMaaSアプリ専用の料金体系の提供を目指すこととしている。
また、他地域のMaaSとの連携に向けた取り組みとして、オープンな共通データ基盤「MaaS Japan」を構築し、他の交通事業者や自治体などが開発するMaaSのアプリケーションに活用できる形態とする。
一方、茨城県つくば市では、モビリティイノベーションによる移動に顔認証・アプリを組み合わせ、統合的社会サービスの重点ユースケースとしてキャンパスMaaSや医療MaaS実装に向けたコンセプト検証ならびに実証実験を、筑波大学を中心とする地域で実施する。
具体的には、バス停にサイネージポストを設置し、顔認証システムを活用したバス乗降時のキャッシュレス決済の実証実験や、AIの利活用による人流予測、乗車待機時間を最小化するバス運行の最適化支援システムの設計検討、バス乗降時の顔認証による病院受付・診療費会計処理サービス、「つくばモデル」アプリ活用による交通弱者の乗降車支援・シェアサービスなどを挙げている。
「つくばモデル」アプリでは、スマートフォン向けアプリの開発・展開による移動情報の収集・共有をはじめ、予約・受付・決済までの新たな社会サービスの創出を図るほか、筑波大学のスーパーコンピュータなどを活用してIoT産学官データプラットフォームを構築することとしている。
■地方郊外・過疎地型
地方郊外・過疎地型では下記の5事業が選定された。
- 三重県菰野町「こもののおでかけをMaaSで便利にするプロジェクト」
- 京都府南山城村「相楽東部地域公共交通再編事業」
- 京都丹後鉄道沿線地域「京都丹後鉄道沿線地域での地方郊外型WILLERS MaaS事業におけるQRシステム導入実証」
- 島根県大田市「定額タクシーを中心とした過疎地型Rural MaaS実証実験」
- 広島県庄原市「庄原地区先進過疎地対応型MaaS検討・実証プロジェクト」
京都府南山城村では、既存の村営バスの再編や自家用有償旅客運送登録制度を活用したライドシェア(自家用有償運送)の導入などによって村内の交通網を整備し、これらの交通網とJR関西本線などを組み合わせ、シームレスな移動を生み出すための過疎地型MaaSの実証実験を行う。
具体的には、地図アプリを活用した経路検索システムの導入や予約・決済システムの連携、運賃の定額サービスや回数券、付加価値による外出の誘発、生活情報や観光情報の提供などを行う予定だ。
一方、島根県大田市では、コンサルタント業の株式会社バイタルリードや福光タクシー、石見交通、広島大学、島根大学、鳥取大学などが連携し、過疎地における生活交通の確保策としてAIを活用した配車・予約制御システムを備えた定額タクシーの実証実験を行う。運行状況の確認や予約・決済が可能なMaaSアプリを開発するとともに、貨客混載や生活サービスなどとの連携の仕組みを構築することとしている。
「Rural=農村」を意味するRural MaaSシステムでは、一定区域における定額タクシーの実証運行を行うほか、農産品集出荷やタクシー救援事業の予約・決済などの仕組みを構築するほか、地域の小さな拠点における特産品の製造販売や健康増進プログラムなどとも連携し、住民の生きがいづくりや外出機会増加を図ることとしている。
■観光地型
観光地型では下記の8事業が選定された。
- 北海道釧路・オホーツク地域自治体などによる「ひがし北海道観光型MaaSにおける移動及び車両データ収集、利活用実証」
- 福島県会津若松市などの「会津 Samurai MaaS プロジェクト」
- 静岡県伊豆地域自治体の「伊豆における観光型MaaS実証実験」
- 三重県志摩市などの「志摩地域観光型MaaS実証実験」
- 滋賀県大津市などの「大津市中心市街地及び比叡山周遊の活性化を目指した大津市版MaaS実証実験」
- 山陰地域自治体などの「山陰エリア(鳥取県・島根県)における観光型MaaS実証事業」
- 香川県高松市などの「瀬戸内の復権へ:海・陸・空の自由な移動網による国際観光先進都市の創造」
- 沖縄県石垣市・竹富町などの「八重山MaaS化事業【Phase1:観光型MaaS構築に向けた実証実験】」
大津市では、京阪グループや京都大学らが連携し、同市の一部と京都市の一部を実験地域とし、自動運転バスと四種の既存公共交通、ホテル、観光施設、小売店、飲食店などを便利に利用できるMaaSを提供し、公共交通を活用した利用者の周遊促進を図る。
具体的には、中心市街地で導入する自動運転バス路線など計9路線をMaaSに組み込み、観光施設・小売店・飲食店・物販店・ホテルなどの情報やクーポンといったサービスとの連携を図る。
決済面では、MaaSアプリ内で購入可能な1日定額制のデジタルフリーパスやデジタルクーポンを導入する。アプリは日本語・英語の2カ国語対応とする。
香川県高松市では、ANAやJR四国、ことでんグループなどが連携し、高松空港から入る香川・瀬戸内観光客を対象に、海上タクシーを含む海・陸・空の交通機関やツアーバスなど観光事業者とAPI連携した旅程提案型MaaSを提供する。
海・陸・空の交通連携は極めて珍しく、MaaSアプリ「Horai」の連携基盤システム開発実験を中心に、「海上・陸上交通の連携に向けた障壁の克服」の実現を目指すとともに、空港やエアラインも巻き込み、海陸空のシームレスな移動を目指したデータ・事業者の統合を図っていくこととしている。
■【まとめ】地域に芽吹くMaaS
基本的には各地域がMaaSアプリを構築し、交通事業者の連携を図りながら予約や決済といった作業の統合を図っていく流れで、住民や観光客らの移動の利便性を高めていく狙いだ。
商業や医療と連携した取り組みや、自動運転車やライドシェア(自家用有償運送)を活用した取り組み、空路・海路と連携した取り組みなど、地域の課題解決に向けさまざまなアイデアが盛り込まれており、秀逸なものはモデル事業として各地に広がっていく可能性が高い。
また、実証に終わらず本格的な導入を前提としているのもポイントだ。各地域でMaaSの種が芽を出し始める、まさにMaaS元年と呼ぶにふさわしい一年となりそうだ。
今回の事業以外でも、フィンランドのMaaS Global社が提供する「Whim」の日本進出の動きをはじめ、民間各社がMaaS構築に力を入れている。
【参考】関連記事としては「MaaSとは? 読み方や意味・仕組み、サービス・導入事例まとめ|自動運転ラボ」も参照。