ジョルダンのMaaS系・自動運転系事業まとめ 最新の取り組み状況は?

モバイルチケットサービスで決済分野にも本格進出

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MaaS(Mobility as a Service)プラットフォームの構築に向けた動きが各所で活発化する中、MaaSサービスの根幹をなす経路検索・乗り換え案内サービスを手掛けるジョルダン株式会社(本社:東京都新宿区/佐藤俊和社長)も大きく動き出している。

交通サービスのプラットフォーマーとして交通事業者やサービス事業者らとの連携を深め、地方型MaaSの事業化に向けた取り組みを推進しており、将来的な「日本版MaaS」の実現も視野に入れている。

今回は、同社のMaaSや自動運転に関連した取り組みを一つひとつ解説していく。

■ジョルダンの会社概要・乗換サービスについて

情報サービス会社として1979年に創業したジョルダンは、1994年に乗り換え案内サービス「東京乗換案内 for Windows 3.1」を発表したのを皮切りに乗り換え案内事業を続々と拡大し、経路案内や時刻表サービス分野の国内大手に成長した。

2019年3月における有料会員数とソフトバンクモバイルが提供するアプリ取り放題サービスにおける乗換案内アプリの利用者は計35万人、月間検索回数は2億3000万回に達している。

近年はMaaS事業に大きく力を入れており、乗換案内の機能強化などによる事業推進とともに、その周辺領域である位置や移動に関する各種事業への展開を進め、時間短縮や効率化・省資源化といった価値を提供していく方針。その上で「移動に関するナンバーワンICTカンパニー」としての地位を確立していくことを経営戦略として打ち出している。

■MaaSインフラ構築へ「J MaaS株式会社」設立

ジョルダンは2018年7月、MaaS事業への本格参入に向け全額出資の子会社「J MaaS株式会社」の設立を発表した。2021年には、ジョルダンが行っているMaaS事業をJ MaaSに移管させ、本格的なビジネスを展開する予定だ。

J MaaSでは、ジョルダンが行っているMaaS事業を乗換案内の基盤を活用して実際の移動手段の提供をさらに進め、利便性の向上と新たな収益源の獲得を目指す構えで、移動手段を保有する各交通機関などとの提携拡大を推進していく。

長期的にはフィンランドでMaaSプラットフォーム「Whim」を展開するMaaS Global社のように鉄道会社をまたぐサブスクリプションモデルでの展開を目指すこととしており、移動に関わるすべてのサービスの提供をスマートフォンで完結する「MaaSサプライヤー」への進化を図っていく。

2019年8月には、J MaaSと株式会社野村総合研究所と資本業務提携に向けた基本契約の締結について発表した。野村総合研究所が保有する企画力やシステム開発などの協力・協調を進め、MaaSビジネスの拡大を図っていく方針だ。

【参考】野村総合研究所との提携については「ジョルダン子会社のJ MaaS、野村総合研究所と資本業務提携で基本契約」も参照。

■公共交通データHUBシステム発表

ジョルダンは2018年8月、「J MaaS」事業の一環として、全国の公共交通情報のデータを配信するシステムである公共交通データHUBシステム「PTD-HS」を提供開始することを発表した。第1弾として、株式会社みちのりホールディングス傘下の公共交通事業会社8社の情報提供を行うとしている。

PTD-HSは、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け気運が高まっている公共交通情報のデータ標準化に向けて、公共交通事業者の負担を少なく、かつ定期的・安定的にデータ提供を可能とするシステム。データフォーマットは、国土交通省が提供している標準的なバス情報フォーマット「GTFS-JP」と「GTFS-RT」を採用しており、システム対応が困難な公共交通事業者や自治体が所有するデータを、形式を問わず同社が受け取り、整形・調整することで標準フォーマットに対応するという。

■バス接近情報データを配信

ジョルダンは2018年7月、全国の公共交通情報の時刻表機能、経路検索機能に加え、接近情報機能(バスロケーションデータ)を配信するサーバー「J MaaS-RT」の構築を開始し、その一環として、バスやハイヤー事業を手掛ける国際興業株式会社から提供されるバスロケーションデータを変換し、ジョルダンの公共交通事業者向けパッケージソリューション「MovEasy(ムーブイージー)」に、バス接近情報のリアルタイム配信機能を追加することを発表した。

「MovEasy RT」は、運賃や時刻表データだけでなく、多くのバス事業者からの要望の高まりに応え、バスの位置情報などのリアルタイムデータをGTFS-RTに変換し配信する。現状の「経路検索/運賃表示」や「時刻表表示」「バスロケーション表示」といった「MovEasy」の機能に、世界的な標準フォーマット「GTFS(General Transit Feed Specification)」形式でのデータ書き出し機能を追加している。

これにより、ジョルダン「乗換案内」をはじめ大手地図サービスへの提供をスムーズに行い、「バスが今どこを走っているか」をリアルタイムに検索することが可能になる。

今後、「MovEasy」で対応中のバス会社のほか、国際興業の協力を受け、2018年度中に7社、約15社をターゲットに配信を予定しているという。

2019年9月には、バスロケーションシステム「ジョルダンスタイル バスロケーションシステム」で収集するバス関連情報について、ジョルダンが運営する乗換案内サービスにリアルタイムに連携する機能を搭載し、2020年春から乗換案内サービスでバス接近情報の提供を開始することを発表している。

「ジョルダンスタイル バスロケーションシステム」は、GPSの位置情報や系統別の経路情報に基づいてバスの運行情報を管理し、遅延や乗り継ぎを考慮した経路検索サービスを提供することができるシステム。箱根登山バス株式会社など複数のバス事業者に提供されている。

ジョルダンが独自に開発した専用車載器をバスの車体に取り付けるだけで運用が可能で、ファームウェアの更新やメンテナンス、端末の稼働状況の監視などは、ジョルダンが一括で運営、管理している。また、搭載したAIによって収集されたデータを解析することで、バス停到達予想や渋滞予測、遅延を考慮したバス乗換検索なども提供することが可能という。

自動運転バスのサービス体験実証

ジョルダンは2018年から10月、株式会社みちのりホールディングスと日立電鉄交通サービス株式会社、国立研究開発法人産業技術総合研究所とともに、茨城県日立市で実施された自動運転バスサービスの提供を想定した一般市民向けの実証実験に参加している。

実証は、将来のバスの自動運転化を見据え、ルート検索やチケット購入、タッチレス乗車など、サービス体験の変化を実際に利用者に感じてもらい、サービス提供における課題抽出と改善策の検討を進めるもの。専用のスマートフォンとアプリを準備し、自動運転実証に合わせたサービスを提供した。

具体的には、スマートフォンアプリによって乗車前のルート検索から事前のチケット購入、乗車時のタッチレス乗車、車内トラブル時の案内表示など、将来的な無人バスサービスの利用体験を提供したほか、バスの接近情報や待ち人数、乗車人数の表示、バス停でQRコード決済が可能なスマートバス停体験などを提供した。

■観光型MaaSなどで必須のインバウンド対応も

観光型MaaSなどでは必須となる訪日外国人観光客をターゲットに据えたサービスにも、早い段階から取り組んでいる。

2012年に英語版で配信をスタートしたインバウンド向けの乗換案内サービス「Japan Transit Planner」は、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語など徐々に対応言語を拡大しており、2018年1月には、新たにフランス語、ロシア語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、同年6月にはアラビア語版の提供も開始している。

また、2017年10月には、同社の「乗換案内Visit」と、ジーリーメディアグループが運営する台湾や香港に日本の情報を伝えるウェブメディア「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」との連携を開始し、ラーチーゴーに日本国内の経路検索機能を提供するなど、海外との連携も強めている。

2018年11月には、「乗換案内Visit」のコンテンツとして、二次交通を利用して最適なルートで周れる旅程を作成可能な「Trip Blender」なども提供開始している。

■モバイルチケットサービスの提供

ジョルダンは2019年1月、公共交通チケットサービスを提供している英Masabi社と日本における総代理店契約の締結を発表した。Masabiが提供するシステムを各交通事業者が用いることで、利用者はスマートフォン上でチケットの購入から乗車までをシームレスに行うことが可能になる。

Masabiは2012 年、同社が提供するSaaS(Software as a Service) プラットフォーム「Justride(ジャストライド)」を通じて、米国初となる交通機関へのモバイルチケッティングサービスを開始している。現在ではアカウントベースのバックオフィスも含め、事業者が携帯電話や非接触の銀行カード、スマートカードなどを用いてサービスを提供することを可能にし、同時にMaaSを実現しているという。

このJustrideを採用した新モバイルチケットサービスは、同年5月に全国の自治体や観光施設、交通事業者を対象に提供を開始した。交通による移動に加え、観光や買い物、飲食などの企画切符や高速バス切符の機能をスマートフォンで完結することができ、利用者はスマートフォン上でチケットの購入、乗車までをシームレスに行うことが可能になる。購入したチケットは、予約客のスマートフォン画面に2次元コード(Azteコード)あるいは目視可能な状態で表示され、スマートフォンだけで移動することが可能となっている。

同年6月には、株式会社昌栄交通が「Justride」を採用し、東京~長野間の高速バス16便において「ジョルダン乗換案内」アプリでモバイルチケットが利用できるようになった。

また8月には、国内自治体としては初めて愛知県豊田市が「観光型MaaS」のモバイルチケット「ENJOYとよたパス」の提供を開始した。豊田市を含む国内12都市を会場に9月に開幕するラグビーの国際大会において、国内外から多くの来場者が同市を訪れることを想定し、多言語に対応したアプリで「ENJOYとよたパス」の購入からバス・飲食店・観光施設の利用が可能となるようサービスを導入した。

【参考】新モバイルチケットサービスについては「ジョルダン、スマホ向け「電子切符」の提供開始へ 自治体や交通事業者対象」も参照。豊田市におけるサービスについては「スマホで便利!ジョルダン、豊田市でバスモバイルチケットの提供開始」も参照。

■北九州市交通局とMaaS連携で協定締結

ジョルダンは2019年6月、北九州市の地域活性化と市民サービスの向上に寄与することを目的に、北九州市交通局とMaaS実現に向けた包括連携協定を締結したと発表した。

MaaSを通じて公共交通を充実させるとともに市民や観光客の利便性の向上を図るため、北九州市営バスダイヤデータの標準化の実施やオープンデータ化の検討、1日乗車券などの電子化の実施・多言語対応の検討、デジタルフリーパスの検討、MaaSアプリの2次元コードによる運賃精算の検討などをテーマに協力体制を構築することとしている。

2019年度の秋頃から北九州市営バスの1日乗車券などをジョルダンのMaaSアプリ「乗換案内」上で販売する実証実験を行う予定。また、両者は今後、北九州市内の各交通事業者や施設、飲食店などと共同で「(仮称)北九州市MaaS協議会」設立の準備を進め、北九州市におけるMaaS実現を目指すこととしている。

【参考】北九州市交通局との連携については「ジョルダン、MaaS実現へ北九州市交通局と包括連携協定」も参照。

ジョルダンはこのほか、国土交通省の「新モビリティサービス推進事業」の先行モデル事業に選定された茨城県日立市と群馬県前橋市におけるMaaS構築に向けた取り組みにも参加している。

日立市では、茨城交通やみちのりホールディングス、電鉄タクシー、茨城大学、日立製作所、常陽銀行などが協議会を結成し、既存の交通モードと先行して実施しているデマンドサービスや自動運転をシームレスにつなぐアプリの提供や、サービスを支える情報技術基盤を実証する。

また、前橋市では、群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センターやNTTデータ、NTTデータ経営研究所、NTTドコモ、未来シェア、各交通事業者とともに、鉄道やタクシー、デマンドバス、自転車をはじめ、自動運転バスを含むさらに多くの交通モードを統合したMaaSアプリを開発し、予約が必要となるタクシー、デマンドバスにはAI配車システムを搭載し、一括経路検索や予約、チケッティング、決済を可能とする。サービスの構築を進めていく。

■【まとめ】経路検索サービスの優位性を発揮、MaaSプラットフォーマーに名乗り

J MaaSの設立に象徴されるように、加速度的に経営戦略をMaaS事業にシフトしている印象が強く、MaaS分野における存在感も徐々に高まっている。

現状、国内では地域ごとにMaaS構築に向けた取り組みが進められているが、プラットフォーマーの主導権争いは依然として混とんとしている。

鉄道事業者をはじめとした大手交通事業者や、タクシー配車サービスなどで実績を持つプラットフォーマー、そして経路検索サービスなどを手掛けるジョルダンやヴァル研究所といった面々が有力だが、各事業者間の連携が何よりも重要なため、共同出資による新会社設立の可能性も高い。

いずれにしろ、さまざまな移動手段を統合した経路検索サービスに大きな優位性を持つ同社の存在は、MaaS分野において今後も高まっていく。他社との連携や新サービスの発表など、引き続き要注目だ。

【参考】関連記事としては「MaaS(マース)の基礎知識と完成像を徹底解説&まとめ」も参照。

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