日本は中国を見習うべきか…自動運転の環境整備、躊躇一切なし

一大国家プロジェクト「自動運転シティ構想」着々

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米国を中心にポールポジション争いが今なお続く自動運転開発レース。しかし近年、中国がものすごい勢いで台頭し、米国の座を脅かし始めている。

国家主導のもと大胆な施策で自動運転社会の未来像を手繰り寄せている中国。一方で日本はどうか。自動運転レースにおいて他国を出し抜くことは今後できるだろうか。

自動運転に関する両国の取り組みを比較し、レースに勝つために必要なものを探ってみた。

■中国の自動運転関連施策
2015年5月の「中国製造2025」

中国政府は2015年5月に発表した戦略「中国製造2025」で、製造強国となるための今後30年間の目標を設定しており、この中で重点分野の一つに自動車産業を位置付けている。

自動車産業は製造業の重要な革新プラットフォームであり、情報化と工業化が融合するための重要な受け皿として、自動車の品質ブランドの強化や低炭素化、電動化、インテリジェント化、国際化などを図っていくこととしている。

2016年の「省エネルギー車と新エネルギー車の技術ロードマップ」

これを受け、中国の自動車設計技師の学会「中国汽車工程学会」は2016年に「省エネルギー車と新エネルギー車の技術ロードマップ」を発表。新エネルギー車とインテリジェント・コネクテッドビークル(ICV)を突破口にエネルギー動力システムの最適化・高度化を図り、省エネルギー車の割合を2020年に30%、新エネルギー車を10%、ICVにおいては運転補助システム、部分自動運転システム、条件付き自動運転システムの搭載率50%以上などとする目標を掲げた。

2017年4月の「自動車産業中長期発展計画」

また、中国政府は2017年4月に「自動車産業中長期発展計画」を発表し、目標年次を2020年と2025年に定めた産業計画を提示。2020年までに動力電池やコネクテッドカー分野の製造業イノベーションセンターを建設し、国際競争力の強化に努めるとともに、動力電池やセンサー類、搭載チップ、電力制御システム、軽量化素材などのボトルネックを克服し、先端的モデルや高付加価値なハイエンド部材の発展を奨励し、さらに2025年までに生産額規模が世界トップ10に入る企業グループを複数形成することなどを盛り込んだ。

2017年7月の「次世代AI発展計画」

同年発表の「次世代AI発展計画」では、2020年までにAI(人工知能)の技術水準を先進国並みにし、AI産業が新しい経済成長の要となることを目指すこととし、自動運転、スマートシティ、医療、音声認識の4分野を最初に実現すべき重点分野と位置付けている。

各分野をリードする企業として、自動運転は百度(バイドゥ)、スマートシティはアリババ、医療分野はテンセント、音声認識はアイフライテックがそれぞれ選定された。

2018年1月の「知能自動車創新発展戦略」

2018年1月には、「知能自動車創新発展戦略」を発表。コンピューターやセンサー、AI、通信、自動運転システムなどを搭載した「知能自動車」を2020年までに中国で販売される新車の50%、2025年には100%にする目標が掲げられている。

■習国家主席肝いりの自動運転シティ構想とは
2017年に発表

前述した各施策の集大成といえる、習近平国家主席肝入りの国家プロジェクトが2017年に発表されている。スマートシティ実現に向け大規模開発がスタートした「雄安新区」は、自動運転前提の都市開発が進められている新都市だ。北京の南西100キロメートルあまりに立地しており、過去に一大プロジェクトとして取り組まれた深セン経済特区や上海浦東新区と並ぶ大規模プロジェクトとなっている。現在の開発面積は100平方キロメートルほどだが、将来的には総面積2000平方キロメートルに及ぶという。

道路などのインフラは自動運転車と協調して機能するV2I(vehicle to infrastructure)を前提としており、鉄道は地下に建設し、地上を走行する公共交通車両はEVシャトルバス、個人車両は自動運転車といった将来像を描いているようだ。

首都北京を補完する機能も

また、首都北京を補完する機能も備えるほか、従来の大都市のようにビルや工場が乱立して大渋滞が慢性化するような設計ではなく、環境と調和した未来都市像も掲げており、将来に向けた中国のモデル地区としても注目されている。

企業関係では、同国の自動運転開発で中心的な役割を担う百度(バイドゥ)をはじめ、テンセントやアリババなどのIT大手やテクノロジー系がすでに集積しており、世界トップの科学技術力を目指すこととしており、百度は、雄安新区が所在する河北省政府や国有通信大手企業などと共同で、交通インフラと自動運転を一体化した自動運転技術の実証試験を行っている。

上海や北京など主要6都市近郊で

こういった新たな都市づくりは、国家主導のもと上海や北京、重慶など主要6都市近郊で計画が進められているという。

インフラ整備と都市開発を結び付けた国家主導の大規模な取り組みは、強いトップダウンがあってこそのものだ。実証実験区域の指定や自動運転に関するルール作りなど、強力な国家のもとで推進される施策は順調に進行する。AIや自動運転などの次世代技術に関し、国家レベルで世界の主導権奪取に突き進む勢いはまだまだ留まるところを見せそうもない。

【参考】中国の取り組みについては「「自動運転×中国」の最新動向は? 国や企業の取り組み状況まとめ」も参照。

■日本における施策や特区制度
日本再興戦略を閣議決定、本腰は2014年から

日本政府が自動運転関連の施策に本腰を入れ始めたのは2014年だ。成長戦略の策定や統括などを行う内閣府は、2013年に日本経済の成長戦略として日本再興戦略を閣議決定し、以後2016年まで毎年改定している。2017年からはその意を引き継いだ未来投資戦略を策定しており、この中で自動運転関連の戦略は年々位置づけが大きくなり具体化が図られている。

2014年には自動運転を重要課題の一つに位置付けた「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」を策定したほか、「官民ITS構想・ロードマップ」、「科学技術イノベーション総合戦略」などを次々と策定しており、自動走行システムの普及に向け本格的なスタートを切る年となった。2018年には政府のIT総合戦略本部が「自動運転に係る制度整備大綱」を発表している。

各課題に対して関係省庁が役割分担

それぞれの課題に対しては、例えば自動運転の導入や普及支援に資する実証実験の実施や車の安全基準の整備は国土交通省、運転免許制度や事故時の責任関係の整理などは警察庁といったように基本的に役割が分担されているが、ダイナミックマップなど協調領域の技術開発支援などといった横断的な分野では関係府省庁が連携して対応している。

特区については、2013年の「日本再興戦略」において「国家戦略特区」の創設が位置付けられ、2015年11月に国家戦略特別区域法案が閣議決定されている。いわゆる岩盤規制を突破する枠組みが内閣主導で設けられた形だ。

2016年ごろから実証実験本格化

2016年には神奈川県藤沢市や宮城県仙台市、秋田県仙北市で自動運転車両の実証実験が行われたが、公道での実証にあたり、場所や時間の限定など多くの制約が課せられ、さらに関係機関との事前調整に煩雑な手続きを要したケースもあったという。

愛知県や東京都は2017年9月、国家戦略特別区域諮問会議の審議を経て「あいち自動運転ワンストップセンター」「東京自動走行ワンストップセンター」をそれぞれ開設した。民間事業者と実証地域となる市町村などとのマッチングを推進し、実証実験実施の際には、民間事業者に対し、関係法令上の手続に係る各種相談への対応や情報提供、関係機関との調整などを行っている。

特区のメリットを最大限引き出すため、国の対応も含め少しずつ改善が進んでいる状況のようだ。

【参考】日本の取り組みについては「「自動運転×日本国の動き」の最新動向は? 政策やプロジェクトまとめ」も参照。

■さらなる加速に向け大胆なアクセルワークを

日本においても各種戦略のもと自動運転開発は推進されており、創設された国家戦略特区によって、以前に比べ公道実証実験などは行いやすくなっているようだ。しかし、国家主導で強力に推し進める中国と比較すると、中国がスタートからアクセルを強く踏み込んでいるのに対し、日本は暖機運転や徐行を続けているようにも感じる。良くも悪くも民主主義と言うべきか。

安全性への配慮や社会受容性などを特に重要視する日本の姿勢は本来称賛されるべきところだが、次世代の主力産業となり得る自動運転関連の主導権を失うのはあまりにも痛い。ときには大胆さも必要だ。

意欲のある地方自治体や民間企業は少なからず存在するため、より取り組みやすい制度改革を断行し、大規模な開発を含んだ特区開発などを進めるべきではないのか。自動運転の実現により遅かれ早かれ道路交通環境は一変し、従来の交通インフラは旧来のものとして時代に適合しないものになっていく。先々を見越した交通刷新が必要だ。

安全運転は決して否定されるものではないが、レースに勝つためには時に大胆なアクセルワークが必要となる。

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