自動運転で引越し費用が価格破壊?サカイ引越しセンターの新たな取り組み

引越業界初となる自動運転トラックを用いた家財輸送

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中央左:ハート引越センターの太田至計氏、サカイ引越センターの山野幹夫氏、T2の熊部雅友氏

自動運転が引越し料金を変える日が、遠くない未来に来るかもしれない。長距離輸送のコスト構造においてドライバーの人件費が占める割合は大きく、幹線輸送が自動化されてドライバーレスになれば、そのコスト削減効果が引越し料金に反映される可能性がある。

2026年3月12日、サカイ引越センターとハート引越センター、そして三井物産が設立した自動運転スタートアップ・T2の3社が、引越業界初となる自動運転トラックを用いた家財の幹線輸送実証を2026年4月から開始すると発表した。当面の狙いはドライバー不足の解消だ。2024年問題を背景に長距離を担うドライバーの確保が困難になる中、「希望日に引越しができない引越し難民」の増加を防ぐことが直接の動機になっている。

ただ、ドライバー不足の解消に向けた自動運転化の取り組みが積み重なれば、その先に輸送コストの低減という果実が待っている。今回の実証が積み上げる一歩一歩が、いずれ引越しサービスそのものの価格構造を変えることにつながるだろう。

タンスや洗濯機、食器棚など衝撃に弱い「家財」を自動運転トラックで運ぶ、それはT2が化学品(住友化学)、ペット商品(ユニ・チャーム)と積み上げてきた実証の中でも、荷物のデリケートさという意味でひとつの踏み込んだステップだ。

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実証の中身と3社の役割

今回の実証では、T2が運行するレベル2自動運転トラックを使い、サカイ引越センターとハート引越センターがそれぞれの拠点間で単身個人の引越家財を混載輸送(複数の荷主の荷物を積み合わせる)する。T2が車両と自動運転システムの運行を担い、両引越し会社が荷主として家財を提供する形だ。

サカイとハート、それぞれの実証ルート

サカイ引越センターは東京レールゲートWEST(東京都品川区)から神戸六甲支社(兵庫県神戸市)まで約520kmのうち、東名高速道路・綾瀬スマートICから名神高速道路・西宮IC間の約450kmをレベル2自動運転で走行する。期間は2026年4月4〜5日を皮切りに計4回。サカイ引越センター専務取締役の山野幹夫氏は「1便あたり約3〜5世帯分の家財を混載して幹線輸送を行う運用を想定している」と語る。

出典:株式会社T2プレスリリース

ハート引越センターは東京センター(東京都葛飾区)から大阪センター(大阪府摂津市)まで約510kmのうち、綾瀬スマートICから名神高速道路・高槻IC間の約440kmをレベル2自動運転で走行。こちらは2026年5月23〜24日を皮切りに計4回実施する。なお、料金所など安全確保が必要な箇所ではドライバーが手動に切り替える。

出典:株式会社T2プレスリリース

家財という「繊細な荷物」と、自動運転制御の精度がカギ

今回の実証がこれまでのT2の取り組みと一線を画すのは、輸送する荷物の性質だ。化学品やペット用品といった工業製品・消耗品とは異なり、引越し家財には食器・家電・家具など衝撃や振動に敏感なものが多く含まれる。サカイ引越センターの山野幹夫専務は「人間が運転する場合と自動運転とでは車両の挙動が異なることもある。積載方法による家財への影響や最適なオペレーションを確認したい」と語っており、荷物の品質保全が今回の検証の核心だ。

一般的に自動運転システムは人間のドライバーに比べてアクセル・ブレーキ操作が滑らかで、不必要な急加減速が少ない。均一な車間距離の維持や先行車両への追従も精密にこなすため、荷台内の振動や衝撃が抑えられる可能性がある。食器や精密家電を含む引越し家財との相性として、むしろプラスに働く側面だ。一方で、合流時の速度調整や工事区間での切り替えが家財にどんな影響をもたらすかは実際に荷物を積んで走らなければわからない。引越し業界初の本格検証となる。

「引越し難民」と「ドライバー不足」が呼んだ転換点

今回の実証の直接的な動機は「ドライバー不足による引越し難民の増加を防ぐこと」だ。引越し業界では例年3〜4月の転勤・進学シーズンに依頼が集中する。しかし2024年問題に端を発するドライバーの労働時間規制強化が長距離輸送を担うドライバーの確保を困難にしており、「希望の日程で引越しができない」という事態が現実味を帯びてきている。

サカイ引越センターはこれまでドライバー養成プログラムの整備、外国人材の活用、鉄道へのモーダルシフトなど多様な対策を講じてきた。ハート引越センターも大型トラックの積極導入と中継輸送体制の構築でドライバーの労働時間短縮を図ってきた。こうした取り組みを積み重ねてきた両社が、次の一手としてT2の自動運転という選択肢に踏み込んだ。

T2は2027年度の自動運転レベル4での幹線輸送サービス開始を目指している。今回のレベル2実証はその前段階として、実際の家財を乗せた状態での有効性と運用上の課題を洗い出すための取り組みだ。両社は今回の実証を踏まえて、T2のレベル2商用運行への参画およびレベル4サービスへの参画を本格的に検討するとしている。

「輸送」と「サービス」の分離が、引越しの価格構造を変えるか

自動運転が引越し業界にもたらす変化はドライバー不足の解消にとどまらない。より本質的な変化は「輸送」と「サービス」の分離にある。現在の引越しでは、現場スタッフが荷詰め・積み込み・接客・搬出入・長距離運転を一手に担うケースが多い。これが人的負担の大きさとサービス品質のばらつきにつながってきた。

コスト削減が実現すれば、引越し料金への波及効果も

長距離の幹線輸送部分を自動運転トラックに任せられれば、スタッフは梱包・接客・荷下ろしといったサービス品質に直結する作業に集中できる。これは品質の向上であると同時に、長期的にはコスト構造の変化をもたらす可能性がある。

自動運転トラックの大きなコスト要因は現時点では開発費や運行システム費用だが、レベル4が量産フェーズに入りサービスが普及すれば、1便あたりの輸送コストは有人運転より低くなりうる。そうなれば幹線輸送コストが下がり、その恩恵が引越し料金の引き下げという形で消費者に還元される経路が生まれる。現時点でその実現は2027年度以降のレベル4商用化を経た先の話だが、今回の実証が積み上げる実績が、将来の価格変革への道筋を作っている。

夜間自動運行が生む「新サービス」の可能性

自動運転が引越し業界にもたらすもう一つの可能性が、夜間運行の活用だ。自動運転トラックはドライバーの労働時間規制に縛られないため、「夜間に荷物を積んで翌朝届く」という運行スタイルが可能になる。サカイ引越センターの山野専務も「夜間運行を活用したサービスの展開による新たな顧客層の獲得」への期待を語っている。

T2が2026年1月に実証した「関東〜関西の日帰り1往復」——人間のドライバーでは労働規制上不可能な運行——は、この可能性の裏付けでもある。「引越しスタッフが現場で作業している間に荷物が自動運転で届いている」という未来は、引越しサービスのかたちそのものを変えうる。

化学品、ペット商品、そして家財——T2の実証は業種の図鑑

T2が今回の引越し家財の実証を発表する以前から、自動運転トラックによる幹線輸送の実証は業種をまたいで広がっていた。住友化学グループは化学業界で国内初となる合成樹脂の商用輸送をT2と開始し、ユニ・チャームプロダクツとキユーピー系食品物流大手・キユーソー流通システム(KRS)はペット商品の幹線輸送実証を同じく2026年4月に開始した。

化学品から消費財(ペット商品)そして生活サービス(引越し家財)と、T2の実証対象は業種と荷物の性質を広げ続けている。これは単なる取り組みの多様化ではなく、2027年度のレベル4商用サービス開始に向けて、できるだけ多くの業種の荷主と関係を構築しておく戦略的な動きと読み取れる。実証段階での参画企業は、将来の商業契約候補でもあるからだ。

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海外では「無人」が先行、日本は業種の幅で独自路線

自動運転トラックの商用化という観点では、海外が一歩先を行く。米国のAurora Innovation(オーロラ・イノベーション)は2025年4月、テキサス州のダラスとヒューストンを結ぶ約350kmの区間で、ドライバーなしの完全無人商用トラック輸送を世界で初めて開始した。Google・Tesla・Uberの自動運転開発者が2016年に創業した同社のレベル4システム「Aurora Driver」は、冷凍貨物輸送業者らと組んで定期便を週100回以上こなすまでに成長している。

一方、日本でT2が行っているのはドライバー同乗のレベル2段階だ。技術の完成度と「無人化」という意味では米国が先行しているが、日本の取り組みでは「どの荷物でも自動運転で運べるか」という業種・品目の多様性で独自のアプローチが進んでいる。引越し家財という「荷物の繊細さ」に踏み込んだ実証は、海外では現時点で見当たらない。ドライバー不足と2024年問題という日本固有の課題が、世界にないユニークな実証フィールドを生み出しているとも言える。

【参考】関連記事としては「トヨタ提携のAurora、ついに米国で無人トラック配送をスタート」も参照。

自動運転が引越し業界の新たな風穴に

サカイ引越センターの山野専務は、今回の実証を踏まえた将来像として「夜間運行を活用したサービスの展開による新たな顧客層の獲得」への期待も口にしている。自動運転トラックはドライバーの労働時間規制に縛られないため、「夜に荷物を積んで翌朝届く」という深夜便引越しという新サービスの可能性が生まれる。

T2が2026年1月に実証した「関東〜関西の日帰り1往復」(人間のドライバーでは労働規制上不可能なこの運行)は、その可能性の裏付けとも言える。

「輸送を任せることで、スタッフが目の前のお客様に集中できる」。引越しという、人生の節目に深く関わる生活サービスに自動運転が浸透するとき、それはコスト削減の話ではなく、サービスそのものの品質と可能性が広がる話だ。2026年4月から始まる今回の実証が、その第一歩を刻む。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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