乗りたいときに気軽に利用できるカーシェアリング。自家用車に比べ維持費がかからず、都市圏を中心に需要が急増しているが、さらなる起爆剤として注目されているのが「ワンウェイ方式」のカーシェアサービスだ。
借りた場所と異なる場所に返却できる「乗り捨て型」のサービスで、海外では主流となっている。このワンウェイ方式について、国内の動向を探ってみた。
記事の目次
■カーシェアにおける「乗り捨て」の定義
カーシェアには「ラウンドトリップ方式」と「ワンウェイ(トリップ)方式」がある。ラウンドトリップ方式は、所定のステーション(駐車場)でクルマを借り、利用後にもとのステーションにクルマを返却する方式で、日本においては従来のカーシェア事業がこれにあたる。
一方のワンウェイ方式は「乗り捨て方式」と言われ、所定のステーションでクルマを借り、利用後は別のステーションなどに返却する。つまり、借受場所と返却場所が異なる方式で、欧米など海外ではこちらの方式が主流となっている。路上駐車の規制が緩い国や地域では、一定の区域内であればどこにでも乗り捨てることができるフリーポート型が人気となっているようだ。
カーシェアの利便性向上に対し、ワンウェイ方式の導入は非常に有効な手段といえる。
■国土交通省による「乗り捨て」の取り扱い
有償のカーシェアは、レンタカーと同様「自家用自動車の有償貸渡」にあたり、道路運送法上「自家用自動車有償貸渡業」として国土交通大臣の許可が必要となる。つまり、カーシェアはレンタカーの一形態であり、「レンタカー型カーシェアリング」と定義される。
レンタカーとの違いとしては、会員制の採用や短時間利用、無人貸渡しなどが特徴として挙げられる。
法律上、レンタカー事業においては、貸渡し車両の配置事務所で貸渡し状況や整備状況など車両の状況を把握し、レンタカー利用の安全の確保に向け的確な管理を実施する義務があり、「道路運送法」や「道路運送車両法」により、貸渡しのための有人の営業所を設置し、使用の本拠の位置を定める必要がある。また、自動車の保管場所の確保等に関する法律、通称「車庫法」により、車両の保管場所を使用の本拠の位置から2キロメートル以内に設置することが求められている。
通常のレンタカー事業の場合、有人の営業所で貸し出し、ワンウェイ方式で貸渡し場所と異なる場所に乗り捨てた場合なども、貸出事業者や回送事業者が現地に赴いて車両を貸渡し場所に戻すことで的確に管理することができる。
一方、カーシェアの場合、以前はレンタカー同様無人貸渡しもできなかったが、ITの活用などによって貸渡し状況や整備状況など車両の状況を的確に把握することが可能であると認められる場合は、無人の路外駐車場を配置事務所とすることができるとともに、道路運送車両法に規定される使用の本拠の位置とすることができることになった。
ただ、基本的に短時間の利用が多く無人で貸渡しを行うカーシェアの場合、車両を元の場所に戻すことができないため、ワンウェイ方式の実現には課題が残っていた。
しかし、2014年に国土交通省が新たな通達を出し、状況が一変した。「カーシェアのうち、貸渡し車両が他の路外駐車場等に返還され、必ずしも配置事務所に返還されない形態(いわゆるワンウェイ方式)については、当該配置事務所を使用の本拠の位置とすることができる」とし、貸渡し場所となる複数の駐車場で乗り捨てることが可能になった。
シェアリングエコノミーの観点から国もカーシェアの利用促進を図っており、普及に向け安全対策と規制緩和を検討している段階だ。
■ネックとなるのが「駐車場(車庫)」
法律上可能となったカーシェアのワンウェイ方式だが、まだ課題は残っている。車庫の問題だ。車庫法により使用の本拠の位置との間の距離が2キロメートルを超えないものと規定されているため、サービス範囲が制限される。
また、1台の車に対し複数の駐車場が必要となるため、コスト面から経営を圧迫する点も指摘されているほか、出発地となりやすい駐車場と目的地となりやすい駐車場がある場合、配車に偏りが生じるためスタッフが回送する必要が生じる可能性もある。
こういった駐車場(車庫)の確保や効率的な運用方法の確立が現時点における大きな課題となっており、ワンウェイ方式の本格導入がなかなか進まない要因となっているようだ。
■「乗り捨て」の実証実験
2014年の国土交通省通達後、ワンウェイ方式実現に向けた動きが活性化している。
Times Car PLUS×Ha:mo:パーク24とトヨタが都心で実証実験
駐車場事業やレンタカー、カーシェアなどを手掛けるパーク24とトヨタ自動車は、2015年4月から「Times Car PLUS TOYOTA i-ROAD Drive」として小型EVパーソナルモビリティ「TOYOTA i-ROAD」を活用したワンウェイ型シェアリングサービスの実証実験を東京都内で実施。貸出ステーション1カ所と返却ステーション4カ所を設け、約6カ月間にわたり実証を重ねた。
この際に培ったノウハウをもとに、対象車両や貸出・返却ステーションの規模を拡大するとともに、利用者の乗車時手続きの簡素化などサービス内容の一層の充実を図り、より実用的なシェアリングサービスとして展開するため2015年10月からは「Times Car PLUS×Ha:mo」と名称を変えて実証実験を継続している。
車両は「TOYOTA i-ROAD」のほかトヨタ車体製「COMS」を使用。トヨタが新しく開発した「Ha:mo」用車両管理システム「OMMS/2」を採用し、会員カードの代わりにスマートフォンでタッチすることでキーロックの開錠・施錠ができるなど、より使いやすいサービス開発も進めている。
2019年4月時点における利用可能なステーション数は、公共交通とのより良い連携を目指して厳選した23カ所にのぼる。
なお、Ha:moは二酸化炭素排出量削減に向けトヨタが提案する低炭素交通システムで、タイムズ24との取り組みのほか、愛知県豊田市や沖縄県、タイのバンコクでも観光地周遊や交通課題の解決に向け取り組みが進められている。
豊田市では、駅や市役所、公民館、企業、コンビニなど60カ所にステーションを設置し、市民の日常的な足として利用促進を図っているほか、観光客が気軽に利用できるプランなども用意している。
パーク24などが空港拠点にワンウェイ方式導入
パーク24グループのタイムズ24とタイムズモビリティネットワークスは2017年5月から、広島空港を拠点にワンウェイ方式のカーシェアサービスを行っている。
レンタカーサービスで実施している希望の場所へレンタカーを配車してカーシェアのように出発・返却ができるサービス「ピッとGoデリバリー」の仕組みをベースにワンウェイ方式を導入することとしており、広島県内18カ所の発着拠点と広島空港県営駐車場を結ぶ形でサービスを提供している。
また、関西では、関西国際空港ステーションと大阪国際空港(伊丹空港)間でもワンウェイ方式を導入している。タイムズカーレンタル大阪空港北店とタイムズカーレンタル関西空港店で乗り捨てが可能で、飛行機の乗り継ぎの際などに有効活用できそうだ。
【参考】パーク24の取り組みについては「タイムズのカーシェアサービスまとめ MaaS事業としても注目」も参照。
愛知県安城市「き~☆モビ」:自治体が中心となって4年間実証
低炭素社会の実現や市民の回遊性・利便性の向上による地域経済の活性化、新たな交通サービスの提案を目的に、安城市役所や安城商工会議所、株式会社安城スタイル、株式会社デンソー、豊田通商株式会社、株式会社日本総合研究所で協議会を組織し、2014年度から2017年度にかけて実施した会員制ワンウェイ型カーシェアリングサービス。
1人乗り、2人乗り、冷蔵庫搭載1人乗りの3タイプのCOMSを利用し、市内の公民館など数十カ所にステーションを設けて実証実験を行った。2019年現在運用は終了しており、運用実績は非公表のようだ。
smaco:国内初の取り組み、オリックスなど3社がサービス提供
メルセデス・ベンツ日本株式会社、オリックス自動車株式会社、アマノ株式会社が2014年9月、国土交通省の通達に合わせた全国初の取り組みとして神奈川県横浜市内でスタートしたカーシェアリングサービス「スマート ワンウェイ カーシェアリング(smaco)」。スマートEV20台が導入され、ステーションは最終的に9カ所設置された。当初予定では2015年3月までを計画していたが延長され、2015年9月までサービスが検証された。
チョイモビ・ヨコハマ:ワンウェイ方式解禁前の実証実験
横浜市と日産自動車が2013年から2年間にわたり実施したワンウェイ方式の社会実験。会員数が1万人を超え、1日平均83回利用されるなど一定の実績を残している。チョイモビ・ヨコハマはその後、ラウンドトリップ方式としてサービスを提供している。
NISSAN e-シェアモビ:日産のカーシェアサービス、福島県でワンウェイ方式開始
日産自動車と日産カーレンタルソリューションが手掛けるカーシェア事業で、2017年12月にサービスがスタート。日産のADAS「プロパイロット」搭載車両を利用することができ、現在全国各地にステーションを続々と増やしている。
2019年1月から、福島県浜通りエリアでワンウェイ方式を導入している。対象は浪江駅ステーションと富岡ステーションの2カ所で試験的運用の様相が強いが、今後他エリアでの導入の可能性もありそうだ。
【参考】日産の取り組みについては「日産、カーシェアで福島復興を支援 元避難指示地域に拠点続々」も参照。
トヨタシェア:中野区拠点にワンウェイ導入
カーシェア事業に本格参入したトヨタも、東京都中野区と杉並区の一部店舗でワンウェイを導入している。2019年4月時点で、トヨタレンタカー中野駅前店ステーションを返却場所に、11カ所のステーションから乗り捨てできる。
■【まとめ】ワンウェイ方式の本格導入はすぐ目の前 右肩上がりの市場が後押し
国内でも規制が緩和され、各地でワンウェイ方式のカーシェアサービスの実証が行われていることがわかった。ただ、事業として継続している例は少なく、やはり駐車場維持などのコスト面をどのように克服するかが当面のカギになりそうだ。
カーシェアそのものは右肩上がりで市場規模を伸ばしており、ステーション数も増加するなど、ワンウェイ方式導入に向けた下地は整ってきている感もある。積極的に取り組むパーク24などが効率的な運営方法を確立して本格展開すれば、他社も続々と追随する可能性は高く、いっそう市場規模は拡大しそうだ。
日本国内でもワンウェイ方式が主流となる日の到来は、そう遠い時期ではなさそうだ。
【参考】カーシェアについては「カーシェアリングとは? メリットやデメリットは? MaaSの一端を担うサービス」も参照。