自動運転技術の実用化が着実に進んでいる分野がある。農業だ。国も、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現するスマート農業の発展を後押ししており、各種実証実験なども大幅に進展しているようだ。
そこで今回は、トラクターやコンバインといった農機の自動運転開発を手掛ける国内外の企業をピックアップし、まとめてみた。
(※本記事で紹介している企業様以外で、「農業×自動運転」に取り組んでいる企業様がいらっしゃいましたら、編集部までご連絡下さい)
記事の目次
■クボタ(日本)
クボタは、直進キープ機能を内蔵した田植機やオートステアリング対応のトラクターを2016年にいち早く製品化・発売し、2017年には有人監視下で自動運転が可能なアグリロボトラクターを発売した。
2018年には、アグリロボコンバインの投入によりトラクター・田植機・コンバインの全3機種でGPS搭載農機の製品化を果たしており、コンバインや田植機における有人監視下自動運転の完成に向け開発を進めているほか、制御システムの高度化や外周作業の無人化、ほ場内作業のさらなる自動化を進めていくこととしている。
現在開発中の新型アグリロボトラクターは、ほ場内やほ場周辺でオペレーターが監視している条件下で、耕うん、代かき、施肥などの幅広い作業を自動で行うことができるモデルで、現行モデルより力強い100馬力の動力を備えている。2019年中に発売する予定。
また、新型のアグリロボ田植機(8条植)とアグリロボコンバイン(自脱型6条刈)は、オペレーター搭乗のもと自動で田植え作業や刈取作業を行うことができるモデルで、アグリロボ田植機は2020年、アグリロボコンバインは2019年に発売する予定となっている。
3種とも従来モデルの機能を拡張した最新機で、さまざまな市場ニーズに応えてラインナップの拡充を図り、スマートの農業の具現化に少しずつ近づいていく方針だ。
【参考】クボタの自動運転戦略については「クボタが農機で展開する自動運転戦略まとめ 技術やラインナップは?」も参照。
■ヤンマー(日本)
無人運転が可能な「ロボットトラクター」と最小限の操作が必要な「オートトラクター」を2018年10月から順次発売する。タブレット端末を使用した操作や、2台のトラクターでの協調作業時における随伴・併走する無人トラクターの操作などが可能で、ロボットトラクターには、レーザーや超音波で物体との距離を計測するセンサーやセーフティブレーキも備えている。
オート田植え機「YR8D」は、誤差数センチのRTK-GNSS測位方式を採用し、高精度な自動直進と自動旋回を実現している。外周走行で登録したほ場の領域内で、作業経路を自動作成し、スタートを押すだけで作業を開始する。操作や各種設定はタブレットで手軽に行うことが可能。
オートトラクターのYTシリーズも、事前に設定した経路においてステアリング(旋回)、作業機昇降、前進・後進・停止が可能だ。また、有人機と無人機を同時に動かす協調作業などもおこなうことができる。
【参考】ヤンマーの自動運転製品については「ヤンマーアグリ、自動運転技術搭載の密苗田植機「YR8Dオート仕様」発表」も参照。
■井関農機(日本)
GPSを受信し田植え時の運転をレバー一本でサポートする直進アシストシステムを搭載した田植え機を開発したほか、超音波センサーと電極センサーで土壌測定を行い、施肥量を自動コントロール可能な田植え機の実証実験も進めている。
2018年12月には、GNSS(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム)を活用したロボットトラクター「TJV655R」のモニター販売をスタート。自動操舵技術「ISEKI DREAM PILOT」やセンシング技術「ISEKI SENSING TECHNOLOGY」、営農管理システム「ISEKI AGRIMANAGEMENT SYSTEM」を搭載し、有人監視下での遠隔無人自動運転作業を可能としている。GNSSアンテナで現在位置を検出し、ジャイロセンサーで農機の傾きによる測位誤差補正を行うなど、高精度な自動運転作業を実現できるという。
トラクターにはカメラや超音波レーザー、赤外線レーザーセンサーが備わっており、障害物検知や視界の確認ができる。タブレットで作業登録や走行パターン、経路設定などを行えるほか、遠隔で自動走行の開始や停止を行うリモコンも用意されている。
【参考】井関農機の自動運転製品については「井関農機、自動運転のロボットトラクタ「TJV655R」を販売」も参照。
■三菱マヒンドラ農機(日本)
島根に本社を置く三菱マヒンドラは、低コスト操舵アシスト装置「SMARTEYEDRIVE」を製品化している。いわば農機におけるADAS(先進運転支援システム)で、単眼カメラ・画像処理ユニットによりカメラ映像から直進・追従作業時の進行方向のズレを検出し、操舵装置に指示を出す。
GPSなどの衛星通信は使用せず5センチ以内の精度を実現しており、システムを後付けすることも可能という。
同社はこのほか、開発中の自動運転トラクターを2018年8月に北海道帯広市で開催された国際農業機械展に出展している。
■Deere & Company(米)
農機メーカー世界最大手のディア・アンド・カンパニー。早くから自動操舵システムの開発など進めているが、2017年に農業ロボット開発を手掛ける米「Blue River Technology(ブルーリバーテクノロジー)」を買収するなど、GPSやAI(人工知能)、画像解析技術などを次々と吸収しており、自動運転技術の開発を加速している。
同社の自動操舵システムは、トラクター、コンバイン、田植機、自走式フォーレージハーベスタなど水稲、畑作物、露地野菜といったあらゆる作物を対象に高精度な走行を可能にする。作業中のハンドル操作が不要となり、疲労の軽減と作業状況の確認に注力できるほか、正確な位置合わせによる一工程おきの作業が可能となり、枕地での切り返しも不要となる。
このほか、小麦・豆・ビートを対象に耕起、防除、施肥、播種、収穫作業を行う自動操舵トラクターなどラインナップを拡大しているようだ。
■New Holland(米)
ディア・アンド・カンパニーと世界首位を争うCNHグローバル(英)の傘下・ニューホランドは、2018年8月に北海道帯広市で開催された国際農業機械展でNHDrive自動運転トラクターテクノロジーの展示を行っている。
トラクターには前後2個ずつカメラが搭載されており、事前に入力したマップ情報をもとに、農場内の通路を自動運転で圃場まで移動し、圃場内でも自動運転によって作業を行うことができるという。デスクトップコンピュータや携帯タブレットによる遠隔操作で監視・制御することを可能にしている。
■Case IH(米)
CNHグローバル傘下のケースIHも、2016年に米アイオワ州で開催された農機具見本市「ファーム・プログレス・ショー」で自動運転トラクターを展示発表している。
自律制御技術開発を手掛けるASIとの共同開発で、タブレットによる遠隔操作で耕作や刈り入れ、肥料の散布、種植作業などを行うことができるという。搭載するレーダーやカメラにより、障害物検知や衝突回避なども可能にしている。
■Autonomous Tractor(米)
農機界における「テスラ」のような企業も存在するようだ。米国ノースダコタ州に本社を構えるオートノマス・トラクター・コーポレーションは、社名の通り自動運転トラクターの開発や電動化に力を入れており、低燃費・長寿命化を進めているようだ。
2012 年から自律制御システムを備えた自動運転トラクターの開発を進めており、レーザーセンサーで周囲の状況やトラクターの位置を把握することで約2.5センチ以下の誤差で作業することが可能という。トラクターへの作業指示は、トラクターを運転して作業範囲を教える仕組みを採用している。
同社はすでに操縦室のない自動運転トラクターのコンセプトモデル「Spirit」を発表しているが、手動運転機能を備えていないことが現段階では実用的ではないと判断されたようで、その後は他社メーカーのトラクターに搭載可能な自動運転キットの開発なども手掛けているようだ。
■Fendt(独)
米AGCOグループ傘下のフェントは、早くから有人トラクターの後ろを無人トラクターが自動で追従する「Fendt Guide Connect」を開発。測位システムとワイヤレス接続によって2台のトラクターが1つのユニットに統合されており、RTK-GPS衛星で追従距離や横方向の距離などを正確に位置付けている。
■Mahindra & Mahindra(インド)
インドのコングロマリットのマヒンドラ・グループで自動車製造を手掛けるマヒンドラ&マヒンドラも農機の自動運転化に力を入れており、2017年に試作機を発表している。詳細は不明だが、2018年から段階的に発売する方針を打ち出しており、自動車製造メーカーの強みを生かし次世代農機市場でシェア拡大を図る狙いだ。
■その他
このほかにも、トラクターに後付け可能な高精度測位システムなど自動運転を支援するシステムも続々と開発されており、NTTデータカスタマサービスや住友商事、自律走行型ロボットを活用して農業の効率化を目指すレグミン、農機の運行支援アプリや自動操舵機器などの提供を図る農業情報設計社など、さまざまな企業が進出し関わりを深めている。
また、ドローン用自動航行システム(ソフトバンク・テクノロジー)やマルチスペクトルカメラ搭載ドローンによる農作物生育状況解析ソリューション(日立システムズ)など、ドローンを活用した技術やサービスも次々と誕生しており、農業全般のスマート化が日々進行しているようだ。
【参考】農業情報設計社については「ICTベンチャー農業情報設計社、総額2億円を資金調達 農機の自動運転・操舵機器など提供へ」も参照。レグミンについては「自動運転技術で小松菜栽培を自動化!レグミンが1億円資金調達」も参照。
■【まとめ】スマート農業が世界標準に 自動運転技術の実用化進む
海外農機メーカーの具体的な自動運転技術は入手しづらかったが、農機の自動運転化が世界のスタンダードになりつつある状況は十分にうかがえた。
不特定多数が入り乱れる自動車の交通環境に比べ、一定の農地を走る農機は無人化しやすい環境にあり、自動車メーカーらが開発した自動運転システムを流用することである程度の自動化は図れるものと思われる。あとは、コンバインや田植え機などそれぞれの農機本来の役割である各機能との両立をどこまで確実に行うことができるか、といった点が農機メーカーに課せられた使命と言えるだろう。
ドローンの活用やビッグデータの活用、生育管理システムなど、日増しに進歩を遂げているスマート農業。労働者不足の解消や作業の効率化など、自動運転技術の貢献度は想像以上に高そうだ。
【参考】関連記事としては「自動運転社会の到来で激変する9つの業界」も参照。