イーロンマスク 空飛ぶテスラ公開は、ロボタクシー事業加速の強い意思の表れか

話題づくりそれとも事業加速?



出典:イーロン・マスク氏公式Xアカウント(https://x.com/elonmusk/status/1855152953944162426/photo/1)

米EV大手テスラ(Tesla)が公開した「空を飛ぶ」ロードスター(Roadster)は、無人運転のロボタクシーを巡る逆風から投資家の目をそらす演出なのか。短期の批判を気にせず自動運転へ突き進む、イーロン・マスク氏の強い意思の表れとも読める。

ロードスターは米国時間の10月15日、米宇宙開発企業スペースX(SpaceX)のテキサス州マグレガーの試験場で披露された。圧縮空気を噴射する推進装置スラスターで跳び上がり、空中で宙返りして着地する様子が公開され、話題となっている。


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■「空飛ぶテスラ」公開されたロードスター

公開の舞台は、スペースXがロケットの試験に使うマグレガーの施設だった。ライブ配信された実演では、ロードスターが弧を描く傾斜台を駆け上がり、吸引ファンで車体を張り付けたまま上下逆さまになった。そこからスラスターで飛び出し、空中で宙返りして着地した。続く実演では、大型トラックを含む複数のテスラ車の上を跳び越えた。

空中にいたのは短時間で、複数の報道は持続飛行が実証されていないと伝えている。「空を飛ぶ」は宣伝上の言い回しで、実態は短い跳躍と宙返りと言える。

仕組みも明らかになった。テスラの車両エンジニアリング担当副社長ラース・モラビー氏によると、車体には600リットルの圧縮空気を積み、10基のスラスターから噴射する。タンクは再充填できるという。

【自動運転ラボの視点】
ロードスターは収益を押し上げる車ではなく、技術力を印象づける話題づくりの色が濃い。注目すべきは、ロボタクシーを巡る逆風の最中に打たれた一手という点だ。テスラの事業の軸足がどこにあるかが問われる。

【参考】関連記事としては「テスラ 自動運転FSDをTAD(Tesla Assisted Driving)に名称変更 運転支援という意味を明確に」も参照。


■市販版は2028年生産だが価格は未発表

マスク氏は2028年に生産を始めると述べたが、価格は明かさなかった。テスラは3つのグレードを用意する。公道向けのPerformance(パフォーマンス)とサーキット向けのThrust(スラスト)は2人乗り、空中向けのRocket(ロケット)は1人乗りで、招待制だ。Rocketは公道走行が承認されていないと、テスラは自社ページに記載している。

予約金はPerformanceが5万ドル、Thrustが25万ドルだ。これらは車の価格ではなく、予約に必要な預け入れ金である。Performanceは、クレジットカードで5000ドルを払い、残る4万5000ドルを10日以内に送金する方式だ。最初の5000ドルは全額返金可能と表示されている。予約の再開は、当初の公開予定日だった10月1日の約2週間前だった。

価格が決まらないまま予約金だけが先行する構図で、発売まで約2年ある現時点では、夢を見せる発表の性格が強い。

■サイバーキャブは300台超に拡大

ロードスターの陰で、ロボタクシーの拡大は続いている。テスラは10月10日、公式のロボタクシー向けXアカウントで、オースティンのサイバーキャブが1カ月で40台未満から300台超に増えたと発表した。サイバーキャブはハンドルもペダルもない専用車で、9月3日の招待制イベントを経て、翌4日から有料の乗車が始まった。次の展開地はダラスとされる。


規制当局の目も厳しい。NHTSAは9月23日、テスラのロボタクシー車両がスクールゾーンの制限速度を守っていないとする請願を受けた。請願には3本の動画が添付され、対象は約1000台とされる。NHTSAは正式調査に移るかをまだ決めておらず、判断期限は2027年1月21日と報じられている。

規制当局の目が向くのはテスラだけではない。米Google系の自動運転開発企業ウェイモ(Waymo)についても、NHTSAは2025年末、スクールバスへの対応を巡る調査を始めている。自動運転タクシー市場が広がる局面では、安全性の審査も同時に強まる構図だ。

■目をそらすためのPRかそれとも逆風を押し切る意思か

ロードスターの公開を巡っては、見方が二つに割れる。一つは、ロボタクシーの逆風から注意をそらす演出という見方だ。価格も公道走行の承認も示されないまま、生産の約2年前に派手な実演を打った。マスク氏自身、収益面で大きく動かすかは分からないと述べている。オランダの金融大手INGのアナリストも、革新的な企業イメージを強める広報上の演出と評した。米投資情報サイトは公開直後から、転機なのか、気をそらす一手なのかと問いかけた。

投資家の事情も重なる。テスラの株価は年初来で約2割安で、10月15日の終値は362.44ドルだった。2025年末の449.72ドルを大きく下回る。2026年の設備投資は250億ドルを超える見通しで、資金負担への視線も厳しい。米国時間の10月21日には7〜9月期決算の発表も控える。

もう一つは、逆風を押し切る意思の表れという見方だ。単なる目くらましとは言い切れない材料がある。公開日程は、スクールゾーンの申し立てが報じられるより前の9月中旬に予告されていた。当初は10月1日の予定で、天候で2週間延びたにすぎない。

マスク氏はロードスターを、人間が運転する最後の車の中で最良のものと呼んだ。時間がたてば、テスラで唯一の手動運転車になるとも述べた。他の車種が自動運転へ向かう中、最後の手動運転車を華やかに送り出す構図は、軸足が自動運転にあることを逆に際立たせる。

事業の中身も自動運転側に寄る。7〜9月期の納車台数は48万6532台となり、会社が集計した予想の46万1974台を上回った。株価は発表日の10月2日に4.65%上昇した。足元の車の販売を支えに、設備投資はAIやロボタクシー、ロボットなどの拡大に向けられる。二つの見方は対立しない。注意をそらす効果があっても、逆風を承知で前へ進む姿勢が映る点は変わらない。

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■ロボタクシー本格普及への強い意思

ロードスターの生産は2028年、ロボタクシーの拡大は今まさに進行中だ。この時間軸の違いが、二つの発表の役割の違いを物語る。ロードスターは技術力と話題性で関心を集める役、収益の柱として期待を背負うのはサイバーキャブを軸にしたロボタクシー事業である。

実演車が無人だったと報じられた点も象徴的だ。強気派の見方では、テスラは自動運転とロボットを軸に、現実世界で動くAIの企業へ変わりつつある。ロードスターの実演は、その技術力の誇示にもなった。

もっとも、空を飛ぶロードスターが公道を走るかは不透明だ。価格も、承認も、生産時期も確定していない。むしろ注目すべきは、規制当局の審査が続く中でも、テスラの発表ベースでサイバーキャブを1カ月で約8倍にした現実である。ウェイモが先行するロボタクシー市場で、この勢いを安全実績と両立できるかが、普及の分かれ目になる。

「空飛ぶテスラ」の公開は、ロボタクシーの本格普及へ向かう強い意思を、最も派手な形で示した一幕と言える。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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