ドライバーレスの自動運転が実現すれば、従来の運転手を含め乗員はすべて「お客様」状態となる。走行中、運転操作や周囲の監視など一切の義務を負うことなく移動することが可能になるためだ。
そこで注目が集まるのが、車内における移動時間・空間の快適化や収益化だ。自動運転車における移動をいかに快適で利便性にあふれたものへと変えていくか。そして、新たな分野としていかに商機を見出していくか――といった観点だ。
自動運転ビジネスの専門家である下山哲平は「将来、自動運転車での移動コストが大幅に下がるかどうかは、こういった『車内ビジネス』がどこまで広がるか次第と言っても過言ではない。大変注目すべきテーマだ」と強調する。
自動運転時代の車内には、どのような商機が眠っているのか。そのポテンシャルに触れていこう。
【参考】関連記事としては「自動運転ビジネス専門家・下山哲平が語る「桶屋を探せ」論 結局「自動運転」は儲かるのか」も参照。
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■自動運転車における車内空間
自由度増す車内レイアウト
「運転」と言うタスクから解放される自動運転車は、従来の自動車における既成概念にとらわれないクルマづくりが可能となる。車内には運転席やインストルメントパネルの計器類が必要なくなり、従来の設計にとらわれることなく自由なレイアウトで車内空間を演出することができるようになる。
ただ座って移動するだけだったクルマが、自由度満載な個室に変わるようなイメージだ。現状は保安基準の縛りがあるため大幅な変更はできないが、将来的には緩和される可能性が考えられる。先々を見越し、今のうちにどのような需要が生まれるかを想像して研究開発に早期着手することで、商機をつかむことができる。
車内の設えでは、まずシートの在り方が変わる。従来の座席より座り心地を高め、よりくつろいで移動できるようにするほか、睡眠に適した形状や、対面などシートアレンジ可能なものなどの登場が考えられる。
スマートフォンや車載システムと連動し、温度調整や振動、マッサージ機能などを持たせたシートもさらに改良されていくものと思われる。
こうしたシートアレンジに加え、格納式のデスク・テーブル需要も高まりそうだ。パソコンを広げやすいデスクや、対面シートに挟まれた大型テーブルなどだ。普段は邪魔にならないよういかに効率的に格納できるか、その上で使い勝手の良い仕組みをどのように構築するか――など、アイデアが求められるところだ。
このように車内レイアウトの自由度は増すが、クルマである限り安全装備も欠かせない。さまざまな形状のシートに合わせ、従来のシートベルトの役割を担う安全装置やエアバッグをどのように配置するかも問われることになりそうだ。
アクティビティの幅も広がる
このように自由度を増した車内では、許容されるアクティビティの幅も広がる。従来、座席に座っていることしか許されず、長時間の移動では座ったまま寝るかスマートフォンを操作するかなどその行動には大きな制限があったが、自動運転であれば自由度が増す。
窮屈な体勢ではなく、楽な姿勢で仕事をすることもできれば、食事をとることもできる。設備が整っていれば、映画鑑賞や音楽鑑賞、ゲームなどに没頭することもできる。
こうした需要に応えるため、車内向けの大型ディスプレイや音響設備などの開発も進むものと思われる。より没頭感を高めることができるような機器が求められるのだ。合わせて、防音システムの需要も高まりそうだ。
発展形としてどのようなサービスを提供可能か?――という観点も重要だ。カラオケなどの趣味的なアクティビティが車内で可能か、その需要はどれほどあるか――など考え、ユーザーやサービス事業者らに提案していくのも新たな商機につながる。
サービス車では移動広告ビジネスに商機
自動運転タクシーやバスなどでは、車内外の広告ビジネスが活発になることも想起される。ポイントは、移動を伴うことだ。移動データに基づく広告を表示することで、その効果を高めることが可能になる。
近年、インターネットでは検索や閲覧履歴に基づいて個人に最適化された広告が表示される。個人の趣向などを推測・把握し、効果が高いと思われる広告を表示するのだ。
自動運転では、この移動バージョンが考えられる。移動は各個人の行動データを反映する。行動は各個人の何らかの意向を反映したものであり、こうしたデータにアプローチすることで広告効果を高めることが可能になる。
また、移動先など「場所」に基づく広告にも価値が生まれる。これから向かう先のサービスや商品を提案することで、通常より高い広告効果を発揮するのは言うまでもないことだろう。
決済や清掃などさまざまな面で新規ビジネスのチャンス
このほか、車内清掃やメンテナンス、車内決済など、さまざまな領域で新規ビジネスが成立する可能性が考えられる。車内を管理する人がいない自動運転車においては、ごみや汚れ、忘れ物を検知するシステムが有用で、さらには自動清掃、人間の手による清掃なども欠かせないものとなる。
サービスの拡大とともに車内でキャッシュレス決済する機会も増えることが想定されるため、新たな決済システムが誕生する可能性もありそうだ。
■各社の取り組み
パナソニックオートモーティブシステムズ:エンタメ・ビジネス向けの新コンセプトを披露
パナソニックオートモーティブシステムズは、2025年1月開催の「東京オートサロン2025」でエンタメ・ビジネス向けの新たなコンセプト車両「WELL Cabin」シリーズを披露した。
「WELL Cabin Luxe」「WELL Cabin GranLuxe」は、没入感のある大画面透明ディスプレイや3Dハイレゾリューション対応のオーディオスピーカーを備え、高臨場感を味わえるという。キャビン全体をシステム開発することで、観光やスポーツ観戦などのワクワク感を刺激し、質の高いおもてなしを実現できるという。
また、ビジネスシーンでは快適な第二のオフィスとして、仕事の効率化とくつろぎの空間を提供するとしている。
マルチパーパスルーム「WELL Cabin OFFMO」は、オフグリッドモビリティを目指し、簡単に移動できどこでも設置可能なマルチパーパスルームとして設計されている。イベントでは、美容・リフレッシュチャージルーム、仮眠をとれる健康パワーナップルーム、プライベートエンタメルームの三つのテーマが用意された。
自動運転向けに考案・開発したものではないが、自動運転時代にいっそう需要が高まるソリューションと言える。
トヨタ紡織:自動運転見据えたコンセプトモデルを発表
シート開発を主力とするトヨタ紡織は、自動運転時代の車内レイアウトに敏感で、これまでに数々の次世代向けシートや自動運転コンセプトモデルを発表している。
ユーザーに合わせてシート座面が自在に変形するコンセプトモデル「VODY2.0」は、ユーザーの体形や姿勢、移動中の動作に合わせてシート座面や背もたれが最適な形状に変化するという。
自動運転コンセプトモデル「MOOX-RIDE」では、車両の位置情報に合わせ、透明ディスプレイを使用した車窓映像に重ねるAR(拡張現実)や臨場感のある立体音響、座席の振動やミスト・送風など、五感で体感する没入型コンテンツを体験できる。
「AceS Concept」は、レベル4を想定した車室空間モデルで、内装やシートで乗員の生体情報を検知し、眠気や感情を推定する技術や状況に応じて音楽や光などで人の五感を刺激し、乗員一人ひとりに安心・快適を提供する技術を搭載している。
「T-FAS Concept」では、クルマの使われ方が多様化するレベル4・5時代に向け、車室内でできることが増える「変幻自在」なコンパクトモビリティ空間を創出している。パーソナルから4名乗車まで対応し、乗車中のさまざまなアクティビティに最適なレイアウトが可能という。
2024北京国際モーターショーでは、自動運転タクシー開発を進めるDidi Chuxing(滴滴出行)と連携し、シートのリクライニングや回転機能、ロングスライドレールを活用し、多彩なシートアレンジが可能な空間コンセプトモック「LOUNZE」を発表した。
【参考】トヨタ紡織の取り組みについては「トヨタ紡織、最高位「自動運転レベル5」向けの車室空間を提案」も参照。
テイ・エス テック:次世代車室内空間発表会を開催
シート開発を手掛けるテイ・エス テックは2024年11月、る「次世代車室内空間発表会2024」を開催し、次世代自動車を見据えた新たな車室内空間を提案した。
「ファミリーコンフォートキャビン」は、シート対面モードなど多彩なアレンジが可能で、フェムテック機能搭載ヘルスケアシート、ゲームコントロール機 能、リラックス機能、エンタメ連動振動・スピーカーなどさまざまな機能を備えている。
「Z ジェネレーションキャビン」は、フレンドシップモード、コミュニケーションシート・クルービジョン、胎児姿勢アレンジが可能なウームモード、スマートフォン連携AIキャラクターといった機能を備えている。
「チャイルドファンキャビン」は、おむつ替え助手席フラットアレンジ、後席体格差吸収機能、後席両膝 アームレスト・テーブル、広々フラット空間アレンジ、リフレッシュマッサージ機能などを備えているという。
ソフトバンク:車内コンシェルジュAIを開発
ソフトバンクは、生成AIを活用した車内コンシェルジュAIによるサービスの無人化などに取り組んでいる。
車内コンシェルジュAIは、乗客からの問いかけに応じて音声で回答を行ったり、自動運転サービスに係るアナウンス情報を音声通知したりすることで、車内サービスの無人化をはじめ、従来の交通サービス以上に快適な乗車体験の提供を目指すとしている。
乗客の異常検知の自動化にも取り組んでおり、東北大学と連携し乗り物酔いの定量的判定に向けた研究を進めている。
無人化により乗客の状況が分かりづらくなることを想定したもので、カメラ映像から取得した乗客の表情や顔色、脈波信号などをもとに身体の状態を自動的に検知することを目指すという。
DUAL MOVE:車窓×XR技術を開発
XR(クロスリアリティ)開発を手掛ける国内スタートアップのDUAL MOVEは、「車窓XR」の開発に取り組んでいる。自動車などの車窓に映像表示し、車窓越しに見える実際の景色に重ね合わせるXRコンテンツを表示する技術だ。
車窓XRに関する技術を起点に、自動車の車室内空間において利用者の五感を高度に刺激するインフォテインメントなどのデジタルコンテンツの基盤システムの構築を進めめていくという。
旭化成:高機能素材で車内空間の可能性を高める
旭化成が2022年に発表したコンセプトモデル「AKXY2」も興味深い。高耐候性ウレタン塗料及び樹脂用硬化剤や高機能ポリウレタン原料、光学樹脂、繊維、発泡ポリエチレンなど各種素材を用い、快適性や耐久性、柔軟性、自由度を高めた車内空間づくりを提案している。化学メーカーならではのアプローチだ。
自動運転技術が普及した社会を想定し、従来の乗車体験では得られなかった満足度に着目している。固定された硬いシートから解放され、フカフカのクッションシートの上に座ったり、足を投げ出してくつろいだりすることも想定している。
さらには、シートを動かしてレイアウトを変えたり、外に持ち出して使ったりすることも提案している。壁の溝に木製ボードを挿し込んでテーブルにしたり、カーペットを付け替えたり、クルマの使い方に合わせてカスタマイズできる仕掛けになっているという。
中国EV勢:エンタメ開発に注力
自動運転ではないが、中国新興EVメーカー各社はすでにカラオケなどのエンタメ機能の搭載を競っているという。
助手席向けに大型ディスプレイを搭載し、カラオケやゲームを楽しめる機能を搭載しているという。日本に進出しているBYDはアプリをアップデートし、日本国内でもカラオケサービスを提供している。報道によると、マッサージチェアや冷蔵庫を完備したモデルなども登場しているという。
こうした発想・サービスは、自動運転車で本領を発揮する。車内サービス分野でも中国勢が先行する可能性がありそうだ。
ソニー・ホンダモビリティ:移動空間をエンタメ空間に
ついにAFEELA1の予約受付を米国で開始したソニー・ホンダモビリティも、モビリティの新しい体験価値を目指す一社だ。
「Mobility as a Creative Entertainment Space」の創造を目指し、移動空間を新たなエンターテインメント空間に変えていくという。多彩なパートナーとの協業で、映画や音楽、ゲームなど、さまざまなコンテンツが車内に集結し、音と映像に包まれるプライベートシアターに迫る感動体験を届けるとしている。
AFEELA1は当初はレベル2+となりそうだが、将来的な自動運転化も計画されている。どのようなエンタメ機能が具体化されていくのか、続報に注目したい。
【参考】AFEELAについては「自動運転時代、「世界のトヨタ」が死語に?ホンダ、増す存在感」も参照。
■【まとめ】異業種からの参入にも注目
車内の設えが変わることに伴う新たな素材や製品、自由度を増す移動空間における各種サービスなど、商機はあちこちに眠っている。大半はまだまだコンセプトレベルだが、だからこそ早期開発に取り組むことで商機が勝機につながっていくのだ。
既成概念にとらわれない自由な発想でどのようなチャンスを見出すことができるか。これまで自動車に携わってこなかった異業種の参入に注目したいところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転の技術開発「消える付加価値」 専門家・下山哲平が語る「業界再編の今後」」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)