バイデン政権の対中国政策が、最後の最後に自動車・自動運転分野に大きな影響を及ぼした。米商務省は2025年1月、中国・ロシア企業が関連するコネクテッドカーなどに対する取引を禁止する最終規則を発表した。
猶予期間が設けられているものの、百度などの中国系開発企業は、今後米国内での自動運転に関する取り組みが事実上困難となる。中国系ソリューションを扱う他国の企業にもその影響は及ぶ。
米中間の摩擦はしばらく収まらないのだろうか。トランプ新政権においてもこの方針は踏襲されていくのか。米中間の最新動向に迫る。
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■対中国の新規制の概要
中国とロシアが関連する特定ソリューションの取引禁止へ
米商務省産業安全保障局(BIS)は2025年1月14日、中国とロシアが関連する特定のハードウェアとソフトウェアを統合したコネクテッドカー、及び個別のコンポーネントに関する特定の取引を禁止する最終規則を発表した。
中国とロシア発の特定の技術が米国の国家安全保障において容認できないリスクをもたらすと判断したための措置だ。
最終規則では、車両通信システム(VCS)に統合されたハードウェアとソフトウェア、および自動運転システム(ADS)に統合されたソフトウェア(外部接続と自動運転機能を可能にする車両システム)が、中国またはロシアと十分なつながりを持つ者によって設計、開発、製造、供給された場合、重要なサプライチェーンへの悪意あるアクセスにより、外国の敵対者がドライバーや所有者の個人情報を含む機密データを抽出し、車両を遠隔操作する可能性があるとし、国家安全保障に対し容認できないリスクをもたらすとしている。
現時点では、商用車のサプライチェーンの複雑さを考慮し、乗用車(10,001ポンド未満と定義)に限定して適用する。一方、商用車のサプライチェーンにおいても敵対勢力の関与により国家安全保障上の脅威がもたらされるため、近い将来、トラックやバスを含むコネクテッド商用車に搭載されるテクノロジーに対しても別の規則を発表する予定のようだ。
規則では、中国、ロシアとつながりのあるVCSハードウェア、またはハードウェアを含むコネクテッドビークルの輸入、及びVCSまたはADSソフトウェアを含む車両の輸入と販売を禁止する。
VCSは、テレマティクスコントロールユニットをはじめ、Bluetooth、セルラー、衛星、Wi-Fiモジュールなど、車両が外部と通信できるようにする一連のシステムを含む。ADSには、自律的な車両がドライバーなしで動作できるようにするコンポーネントを含む。つまり自動運転システムだ。
車両が米国内で製造されたものでも、中国などとつながりを持つ製造業者がVCSハードウェア・ソフトウェア、ADSソフトウェアを組み込んだ新しいコネクテッドカーを米国で販売することも禁止する。
ソフトウェア関連の禁止事項は2027年モデルから、ハードウェア関連の禁止事項は2030年モデルからそれぞれ発効する。中国などとつながりがあるメーカーによるコネクテッドカーは、米国で製造されたものであっても2027年モデルから販売をする。
さらに、特定の輸入業者と製造業者に対しては、禁止事項の遵守を証明する適合宣言書を毎年提出するよう義務付ける。
リスクの低い特定の種類の取引については、商務省が一般認可を発行することを認める。また、規制対象者は、本来禁止されている取引を行う特定認可や、将来の取引が規則の適用範囲に含まれるかどうかの判断・助言をBISに求めることもできる。
猶予期間を設けることで業界の混乱を一定程度回避し、また小規模メーカーなどに対しては内容次第で取引を認めるなど、最低限の配慮はなされているようだ。
【参考】米政府による対中規制については「米政府、「中国製」自動運転ソフトの搭載禁止へ 車内の盗聴など不安視」も参照。
トランプ新政権はどう動く?
バイデン政権下では、2024年に中国製EVの関税が25%から100%に引き上げられたほか、半導体の輸出規制を段階的に強めるなど、対中政策を明らかに強化していった。
バトンを受け取るトランプ政権がこの流れをどう変えていくかに注目が集まるところだが、そもそも、対中規制強化の流れはトランプ政権一期目から続くものだ。トランプ氏は、中国を安保上の脅威というより経済的脅威で判断し、自国の優位性を守るため規制を強化してきた節がある。
中国は経済的に不安定な側面もあるが、自動車分野においては生産、販売ともに大国となった。自動運転においても、強力な政府方針のもとAI開発が大きく進展し、米国にも勝るとも劣らない技術水準に達している。サービス実用化面では、すでに米国を上回っていると言っても間違いではないだろう。
普通に考えればトランプ政権二期目も対中強硬策に出るものと思われるが、規制強化を威嚇材料に何らかの好条件が示されれば、あっさり撤回する可能性も否めない。新政権の方針にも注目が集まるところだ。
■中国系企業への影響
百度やPony.ai、WeRideなどへの影響不可避?
猶予期間が設けられたものの、この方向のまま米中間の壁が厚くなれば、商用車含め中国企業は米国市場から締め出されることになる。そして、中国企業と手を組む他国の企業もその影響を被ることとなる。
中国の有力な自動運転開発企業の多くは、米カリフォルニア州に拠点を構え、実証などを積み重ねている。米市場でのサービス展開を狙うというより、本国と異なる交通環境の学習や、シリコンバレーで多くの最新技術に触れ交流を持つことが主目的と思われる。
2024年11月時点で、カリフォルニア州の道路管理局(DMV)から自動運転による公道走行許可を得ている中国系企業には、Apollo Autonomous Driving USA(百度)、AutoX、Black Sesame Technologies、Nullmax、Pony.ai、WeRide、Xmotors.aiなどが名を連ねている。
Black SesameはAIチップ開発、Nullmaxは自動運転システム開発を担っている。Xmotors.aiは、中国の新興EVメーカーXpengの子会社だ。
このうち、百度とAutoX、WeRideはドライバーレス走行のライセンスも取得している。かつてはPony.aiも取得していた。サービス実装を意識したものかは不明だが、各社とも同州においては本格的に取り組んでいるのだ。
猶予期間はあるものの、これらの企業は米国に自社の最新自動運転車両やソフトウェアなどを持ち込めなくなる。抜け道があるのかもしれないが、基本的に各社は米国内での活動を大きく制限される可能性が高い。
WeRideとPony.aiは米市場に上場したばかり……
WeRideとPony.aiに至っては、2024年後半に米ナスダック市場に上場したばかりだ。中国企業としての顔を消せない両社が投資家から敬遠され、株価に影響を与える可能性も十分考えられるだろう。最悪、事業ごと撤退もあり得るのではないだろうか。
Pony.aiが上場する際に提出した目論見書にも、米中間の規制に関するリスクがしっかりと掲載されている。
目論見書には「当社の事業は大幅な規制の対象となっており、自動車安全規制の変更や自動車安全市場のさらなる規制を推進する懸念によって悪影響を受ける可能性がある」とし、米国で適用される規制として、カリフォルニア州プライバシー権利法をはじめ、NHTSAの議員を含む米国連邦政府の一部のメンバーが自動車におけるサイバーセキュリティ問題に焦点を当てており、将来的に自動車サイバーセキュリティに特化した規制を施行する可能性にも触れている。
さらに、米商務省がコネクテッドカーが米国にもたらす可能性のあるリスクに関する調査を開始し、2024年3月1日に規則制定案の事前通知(CV ANPRM)を公表したことも掲載している。今回の規制の原案だ。
その上で、研究開発と実証に重点を置いた自社の米国事業は規制対象となる可能性があることにも言及している。米国事業は2023年と2024年6月までの自社の総収益の1%未満を生み出しており、この事業の一部またはすべての終了を求められる可能性があるとしている。
Pony.aiはすでに米国の輸出規制の対象になっているようで、中国、特にAI産業に対する米国の輸出規制がますます厳しくなることで、自社の製品開発に必要となる高度な半導体やその他の技術を入手する能力も制限される可能性があるという。今後、BISが将来の製品・技術に対しより制限を強化する可能性もあるとしている。
中国の規制当局からも監視を受けている……
一方、中国の規制当局から監視されていることにも言及している。中国サイバーセキュリティ法やデータセキュリティ法により、データ活動のリスクを定期的に評価し、関連する規制当局に評価報告書を提出する必要があるという。
一定の個人情報を収集可能なプラットフォーム事業などを手掛ける企業は、規制当局から強烈な監視を受ける。かつて配車プラットフォーマーのDidi Chuxing(滴滴出行)は、米市場にIPOしたタイミングで当局から指導が入り、アプリのダウンロード禁止措置などが実行されたこともある。最終的にDiDiは米市場から撤退している。
このDiDiが規制を受けたタイミングで米市場への上場を検討していたPony.aiは、計画を一度白紙に戻している。その後も、Horizon Roboticsのように米市場への上場を諦め香港市場に上場するケースが散見される。
米中両政府の板挟みのような状況に感じられるが、それでもやはり米市場(株式市場)は魅力的なのだろうか。今後、各社がどのような動きに出るのか、要注目だ。
【参考】中国勢のIPOについては「自動運転業界のIPO、日本は「ゼロ状態」。中国では上場ラッシュ始まる」も参照。
【参考】Pony.aiの上場については「トヨタ出資の中国Pony.ai、上場初日に「20%急落」 ”自動運転”に投資妙味なし?」も参照。
テスラは大丈夫なのか?
逆に、米国企業として中国市場開拓に力を入れるテスラは大丈夫なのだろうか。テスラを率いるイーロン・マスク氏はトランプ氏との距離を急速に縮め、新政権で大きな影響力を持つと言われている。その一方、中国政府とも良好な関係を築き、上海でギガファクトリーを稼働させるなど同国の懐に上手に潜っている。
一連の米政府の規制に対し、業を煮やした中国政府がテスラを槍玉に挙げる可能性も考えられそうだが、どうなのだろうか。もしかしたら、過熱する一方の両国の摩擦をマスク氏が取り持つ筋書きが既に存在しているのでは――と勘繰りたくなるが、こうした側面にも注目したいところだ。
■【まとめ】他国企業、政府の対応にも注目
米中間のデカップリングは、当然ながら他国にも影響を及ぼす。中国への輸出面では、半導体分野などですでに影響が広がっているが、今後、ソリューションなどの輸入面でも影響が拡大していく可能性がある。
米国市場と中国市場、米国ソリューションと中国ソリューションを切り離す動きが今後も続けば、おのずと各国企業、各国政府も本格的な対応を迫られることになる。
世界を巻き込む形で米中間の摩擦はより大きくなっていくのか。トランプ氏が矛を収める手立てを用意しているのか。自動車・自動運転分野への影響に留まらず、大きな注目を集めることになりそうだ。
【参考】関連記事としては「自動運転とは?分かりやすく言うと?どこまで進んでいる?サービス事例は?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)