埼玉工業大学発の自動運転スタートアップで、ティアフォー子会社のフィールドオートが事業を停止し、解散したようだ。官報で公告された。
解散の理由は不明だが、国内自動運転企業にも事業停止の波が押し寄せつつあるのだろうか。同社の事業概要をはじめ、その中身に触れていく。
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■フィールドオートの事業概要
親会社ティアフォーの加藤氏が代表清算人
フィールドオートの解散公告は、2024年12月13日付の官報に掲載された。代表清算人は、親会社のティアフォーを率いる加藤真平氏だ。
公式サイト・公式リリースがないため、解散の詳細は不明だ。ただ、同社と関係が近い埼玉工業大学やティアフォーは何もなかったかのように平常運転しており、同社社長で埼玉工業大学教授の渡部大志氏も特に言及していないことから、深刻な意味での解散ではないように感じる。
【編注】社長が解散前に交代している可能性もあるが、埼玉工業大学の産学官交流センターの公式ページ(https://www.sit.ac.jp/sentankagaku/sangakukanc/)では、2025年1月5日時点でも、渡部大志教授がフィールドオートの社長だと紹介されている。
強いてあげれば、代表清算人を社長の渡部氏ではなく加藤氏が務めている点に何か隠されているのかもしれない。単に親会社の代表として加藤氏が務めているだけかもしれないが、例えばティアフォーとフィールドオートの方向性にずれが生じたことも考えられる。
株式会社としてマネタイズに力を入れていくフェーズを迎えたものの、大学側の事業色が強かったフィールドオートと、ティアフォーのカニバリや思惑相反など色々とあったのかもしれない。
ティアフォー100%出資のもと2018年に設立
フィールドオートは、ティアフォーによる100%出資のもと、自動運転研究に力を入れる埼玉工業大学発スタートアップとして2018年に設立された。社長には、同大工学部情報システム学科教授の渡部氏が就任した。
主要事業には、自動運転実証のサポートや関連する教育・出版を据えている。埼工大の自動運転実証の経験・ノウハウをベースに、ティアフォーとの連携のもと自動運転実証のサポートを中心に事業を推進し、向こう3年間で約30件の実証に関する受託を目指すとしていた。
このご時世、公式サイトを持たないことなどを踏まえると、ティアフォーや埼工大に依存する形で事業展開していた可能性が高い。実際、両者と関係しない独立した取り組みが発表された例はないものと思われる。
であるならば、ティアフォーと埼工大の架け橋的存在となるが、前述したように、両者の間で考え方に相違が生じた恐れがある。ティアフォーも大学発スタートアップだが、研究や公共性への意識や事業継続性を前提としたマネタイズなど、何らかの点で相違が生じ、解散に至った可能性は無きにしも非ずだ。
ティアフォーの100%子会社ながら、フィールドオートは埼工大関連で何かしらの縛りがあったのかもしれない。広域展開を目指し各地の実証を加速するティアフォーにとって、その期待に応えられる存在ではなくなってしまったことも考えられる。
発展的解散の可能性も?
見方によっては、発展的に解散した可能性も考えられる。設立から5~6年が経過し、自動運転の実証環境・目的が変わってきたためだ。自動運転実証は実用化を見据えたものに変わりはないが、当時は純粋に自動運転システムに磨きをかける取り組みが大半だった。
しかし本格的な実装期を迎えた現在では、特定エリアで具体的な実用化を目指す実証が主流となった。実証の質と量が変わったのだ。
ティアフォー目線では、アイサンテクノロジーと三菱商事の合弁「A-Drive」が自動運転ワンストップサービスの事業化を推進している。
より本格的な実証と実用化に向け、実証サポートを主体とするフィールドオートの役割をいったん解消し、より柔軟にサービス展開可能な組織体の再構築や、A-Driveへの事業統合なども考えられる。
真相は不明だが、禍根を残すようなものではないことを望みたい。
【参考】フィールドオートについては「【インタビュー】「自動運転実証実験の総合プロデューサー」に フィールドオート渡部社長 埼玉工業大学発ベンチャー、ティアフォーとも連携」も参照。
【インタビュー】「自動運転実証実験の総合プロデューサー」に フィールドオート渡部社長 埼玉工業大学発ベンチャー、ティアフォーとも連携
埼工大の研究強化のため?
社長の渡部氏は、依然として埼工大に籍を置き、工学部情報システム学科教授(副学長・自動運転技術開発センター センター長)を務めている。同大学における自動運転研究の重要人物だ。
同大は、県内における自動運転バスの実証運行や入学式における自動運転スクールバスの運行など精力的に取り組んでおり、2025年4月には工学部情報システム学科に新たに自動運転専攻を設置する。自動運転の実現に必要な知識や技術をハードウェア・ソフトウェア両面から習得したエンジニアの育成を目指す方針だ。
大学としては、むしろ自動運転分野の取り組みを拡大していると言える。こうした背景を考慮すれば、渡部氏が再び学内の研究に注力できるようフィールドオートをいったん閉じる――という可能性もありそうだ。
【参考】埼工大の取り組みについては「時代を先取り!日本初、大学に「自動運転専攻」が誕生 埼玉工業大が発表」も参照。
海外では有力スタートアップが事業停止に追い込まれる例も……
海外では、フォードやフォルクスワーゲンから出資を受けていたArgo AIや、GM傘下Cruiseといった大物スタートアップが事業停止に追い込まれている。アップルも自動運転分野から撤退した。
収益フェーズに至るまでの事業資金の見通しに難を抱えたケースが大半で、Nuroや先行上場したAurora Innovationなども一時資金難が報じられていた。おそらく、世間に名を広めることなく事業停止した企業も相当数に上るだろう。
日本は慎重なタイプが多いため海外ほど激しい動きは出ないが、今後徐々に勝ち組と負け組に分かれ始める可能性は十分考えられそうだ。
【参考】自動運転分野の撤退企業については「自動運転開発から「撤退・断念」した企業一覧」も参照。
■【まとめ】ティアフォー、埼工大、渡部氏のさらなる飛躍に期待
実用化を見据えた実証を加速させるティアフォーと、自動運転研究にいっそう力を入れる埼工大。この両者の取り組みを踏まえれば、フィールドオートの活躍の場も大きく広がっていくように感じられるが、結果として解散という決断に至ったのが事実だ。
願わくは、ティアフォー、埼工大、そして渡部氏、それぞれが自動運転分領域においてさらなる飛躍を遂げることに期待したい。
【参考】関連記事としては「自動運転OS開発のティアフォー、売上2.5倍に!「赤字37億円」はどこまで改善?」も参照。