開発が進む自動運転分野だが、2024年は米IT大手アップルが自動運転車の開発から撤退したり、GMが自動運転タクシー事業から撤退し、子会社のCruiseを閉鎖することを発表したりするなど、ネガティブと言えるニュースもある1年であった。
そしてまた有望自動運転開発企業が、自動運転から別分野へ事業転換することが分かった。中国と米国の両方に拠点を持つ自動運転トラック開発企業TuSimple(トゥーシンプル)が、長距離トラックの自動運転事業から完全に撤退し、新たにゲーム分野へ事業転換を図るという。
社名も「CreateAI」に変更し、見通しが立たなくなった自動運転開発は終了する。先進技術の研究開発には多額の資金が投入され、実用化までには長い年数を要することがほとんどだ。大手企業でも黒字化までもちこたえられない場合がある自動運転開発の難しさが、浮き彫りになってきつつあるのを感じさせる。
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■TuSimpleが自動運転事業から撤退するに至った背景
TuSimpleは2024年1月に米国での自動運転トラック事業を終了し、米株式市場からの上場廃止を決定していた。当初は中国で自動運転事業を再開することを模索していたようだが、自動運転開発における主要スタッフが同社を去ったことにより、それも難しくなった。
その後、AI(人工知能)アニメーションやゲームに関連する職種の採用を開始し、このほどCreateAIに社名変更を行って新しく事業をスタートさせた。TuSimpleの日本語公式サイトを開くと下記の文章が掲載されており、CreateAIの新サイトへ誘導している。
(※文章が少し変な部分もあるが、そのまま引用する)
「TusimpleはCreateAlの社名を変更いたしました
Tusimpleは新しいブランド名CreateAIを起用し、革新的な人工知能技術を通じてアニメやゲーム業界を変えて行きます。この転換は、自動運転技術の専門性を維持しながら、コンテンツ創作業界を覆すことを求めていることを示しています。/p>
私たちの使命は、最先端のAI技術を一流のIPとトップクリエイターと融合し、クリエイティブな方法で人間の創造力を高めることです。」(出典:https://www.jp.tusimple.com/)
■事業転換に反発する株主も
今回のTuSimpleの事業転換について一部の株主は反対しており、同社の共同創業者であるMo Chenを自己取引の疑いで非難しているようだ。Chen氏は複数のアニメとゲーム関連企業を所有しており、同氏が関係する他の事業がCreateAIに関与していると言われていることが原因のようだ。
CreateAIの事業には今のところ、自動運転開発は含まれていない。しかしTuSimpleのCEO(最高経営責任者)であるCheng Lu氏は、中国のパートナーに自動運転技術をライセンス提供する意向を持っていることを2024年9月に米メディアに明かしている。同年12月18日に公開されたCreateAIの事業計画には、既存の自動運転関連の知的財産を収益化する計画も記載されているようだ。
なおTuSimpleは事業変換の発表と同時に、AIモデル「Ruyi」の発表を行った。このモデルは、オープンソースとして公開されており、ビデオゲームやアニメ制作向けの独自AIツールやインフラの基盤を構築する役割を果たすもので、これを起点に新たなAIコンテンツ開発への進展を目指すと説明されている。Ruyiは自動運転技術の専門知識を活用することで、6カ月未満で開発されたという。
■自動運転開発企業がまた1社去ることに
2015年設立のTuSimpleは、2021年12月に米アリゾナ州のツーソンとフェニックスを結ぶ高速道路で、自動運転トラックの完全無人オペレーションに成功したことを発表しており、自動運転トラック開発をリードする企業として注目を集めていた。
日本においても、時間外労働の上限規則によるドライバー不足が深刻化する「2024年問題」を解決するために2023年1月から東名高速道路で走行試験を開始し、日本での自動運転事業に本格参入することを同年6月に発表している。
今回の自動運転からゲーム分野への転換は、これまでにほぼなかった事例だと言える。今後も自動運転開発をやめて他業種へ移行する企業は出てくるのか。2025年も関連業界の動向に注目だ。
【参考】関連記事としては「米TuSimple、自動運転トラックでアジアシフト?日中で実証実施」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)