警察庁はこのほど、2023年に発生した交通事故の状況をまとめた。交通事故死者数は前年から68人増の2,678人となり、8年ぶりに増加に転じた。
重大事故につながりやすい飲酒運転による事故も前年比8.3%増の2,346件で、このうち死亡・重傷事故は同10.4%増の435件となった。
長い目で見れば減少傾向が続いているとはいえ、いまだ年間2,000人超が交通事故で亡くなっているのが現状だ。警察庁などによる地道な取り組みが成果を上げているものの、激減させるには至っていない。
さらなる交通安全対策が求められるところだが、特効薬となり得るのが自動運転技術だ。無人走行を可能にする自動運転技術が普及すれば、飲酒事故を撲滅することも不可能ではない。そうすれば、2023年に発生した飲酒運転による年間435件の死傷事故は起きなくて済むはずだ。
2023年の交通事故の状況とともに、自動運転による事故抑制効果について解説していく。
▼令和5年における交通事故の発生状況について
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R05bunseki.pdf
記事の目次
■交通事故の発生状況
事故件数、死傷者数とも微増
2023年に発生した交通事故は、12月末時点で30万7,930件となり、前年から7,091件増加した。増加に転じたのは2004年以来で、コロナ明けにより外出が活発化した影響などが考えられる。
死亡事故は同68件増の2,618件、重傷事故は同1,489件増の2万6,288件、軽傷事故は同5,534件増の27万9,024件となっている。
死者は同68人増の2,678人、重傷者は同1,609人増の2万7,636人、軽傷者は同7,385人増の33万7,959人となった。
死傷者の状態別では、自動車乗車中が全体の58.9%を占め、自転車乗用中19.1%、歩行中11%と続いている。
交通事故の92.5%が法令違反に起因
原付以上の運転者が第1当事者(交通事故に関与した事故当事者のうち最も過失の重い者)の法令違反別では、安全不確認が8万7,765件で最も多く、脇見運転3万6,761件、動静不注視2万7,949件、漫然運転2万3,878件、交差点安全進行2万359件、運転操作不適1万9,289件と続く。
多い違反では、信号無視1万782件、最高速度は294件、一時不停止1万3,821件、酒酔い運転184件といった状況だ。
こうした法令反に基づく交通事故件数は計28万4,692件となっている。単純計算だが、交通事故総数30万7,930件のうち実に92.5%が何らかの法令違反に起因しているのだ。
飲酒運転も増加
原付以上運転者(第1当事者)の交通事故のうち、酒酔いや酒気帯びなど飲酒が認められたのは2,346件あった。前年から179件増えており、何らかの違反に起因する交通事故の0.8%を占めている。
数字としては低く感じられるが、一時停止違反などメジャーな違反と合わせた中で0.8%も飲酒による事故が発生しているのだ。
なお、令和4年交通安全白書によると、2021年中に取り締まられた車両などの道路交通法違反(点数告知に係る違反を除く)件数は554万6,115件に上る。このうち酒酔い・酒気帯び運転は1万9,801件で、全体の0.35%となる。年度は違うものの、飲酒運転で検挙された割合に比べ、事故の割合が高いことが分かる。
警察庁交通局によると、2023年の飲酒運転のうち死亡事故は112件(前年から8件減)、重傷事故323件(同49件増)で計435件となっている。飲酒事故における死亡事故率は、それ以外と比較して約6倍の水準にあるという。
携帯電話の使用による事故も増加傾向に
運転中における携帯電話の使用は2019年に罰則が強化されたが、これに伴う死亡・重傷事故件数は増加傾向にある。
改正法が施行(2019年12月)された2019年は死亡事故28件、重傷事故77件の計105件で、翌2020年には死亡事故12件、重傷事故54件の計66件と激減したが、それ以後右肩上がりを続けており、2023年は死亡事故25件、重傷事故97件の計122件とほぼ倍増している。
全死亡事故に占める携帯電話使用事故の割合も、2020年の0.58から2023年には1.24へと伸びている。
■自動運転やADASによる事故抑制効果
ADASも事故抑制に一定の効果あり
交通事故のうち92.5%が何らかの法令違反に起因していることが分かった。つまり、92.5%はドライバードライバー側の落ち度に基づくものだ。取り締まりなどの対策を強化しても、人間が運転する限り違反や事故はゼロにはならない。
近年の事故減少には、ADAS(先進運転支援システム)の搭載率向上も貢献しているものと思われる。衝突被害軽減ブレーキやレーンキープアシストなどのおかげで事故を免れたケースも少なくないだろう。
また、ドライバーモニタリングシステムにより漫然運転や居眠り運転などによる事故を未然に防ぐことができたケースもあるものと思われる。ADASが事故減少に寄与していることは疑いようのない事実だ。
例えば、SUBARUが2020年9月に発表したデータによると、2014年~2018年に発売したアイサイトVer.3搭載車(販売台数45万6,944台)による人身事故件数は、1万台当たり44件となっている。
2010年~2014年のアイサイトVer2(24万6,139台)では同61件、Ver2非搭載車(4万8,085台)では同154件となっている。ADAS搭載により明らかに事故が減少し、ADASの進化によりさらに抑止効果が高まっていることがよく分かる。
自動運転は人間の過失を排除、事故を9割削減
しかし、意図的な速度超過や一時停止違反、飲酒運転などをADASで防ぐことは現状困難だ。人間のドライバーが運転主体である限り、システムはあくまでもそれを補佐するものに留まるためだ。事故を激減させるためには、システムが主体となった運転が必要となる。
そこで自動運転の登場だ。人間による介入を必要としないレベル4以上の技術が普及すれば、油断による事故も意図的な過失による事故も大きく減少させることが可能になる。
ADASや自動運転技術による事故削減効果の研究は、国土交通省所管のASV推進検討会が過去に実施している。
同研究は、2018年の交通事故における死傷事故データを対象に、これらが自動運転技術やADASによってどの程度削減されるかを推定したものだ。
2018年に発生した死傷事故43万0,601件のうち事故要因が明確な41万4,409件を対象に事故パターンを設定し、以下6ケースについて解析した。
- ①1当(第1当事者)=ADAS車、2当(第2当事者)=運転支援システムなし車
- ②1当=運転支援システムなし車、2当=ADAS車
- ③1当・2当ともにADAS車
- ④1当=自動運転車、2当=運転支援システムなし車
- ⑤1当=運転支援システムなし車、2当=自動運転車
- ⑥1当・2当ともに自動運転車
なお、自動運転はレベル5相当、ADASは衝突被害軽減ブレーキや右折発進抑制、レーンキープアシストなどを想定しており、各システムが正常に動作することを前提としている。
解析の結果、①は62%、②は8.5%、③は69.6%、④は88.2%、⑤は10.7%、⑥は89.5%の事故を抑制することができたと試算している。
最も過失が重い第1当事者に装備がないようなもらい事故の場合、ADAS車も自動運転車もそれほど事故を防ぐことはできないものの、第1当事者がADAS車の場合は6割、自動運転車の場合は9割近くの事故を回避できる結果となっている。
ADASは各社のシステムにばらつきがあり、また衝突被害軽減ブレーキなども100%事故を回避するものではないため、あくまで理論値として取り扱わなければならないが、システムが自動車制御に責任を持つ自動運転の場合は一定水準の技術が担保されているため、約9割に満たずとも大きな削減効果が望めるものと思われる。
【参考】ASV推進検討会による分析結果については「自動運転の事故率は?抑止効果は9割以上?」も参照。
飲酒や携帯電話に起因する事故は撲滅
自家用車における自動運転が普及し、人間のドライバーが一切の運転操作を行うことなく走行可能となれば、問題視され続けている飲酒運転や携帯電話の使用などに起因する事故は原則なくなる。自動運転システムは飲酒もしないし余所見もしない。システムが運転操作に責任を持つ限り、ドライバーはただの乗員となり、飲酒や携帯電話を使用しても問題なくなる。
仮に道路上の全てのモビリティが自動運転車になれば、飲酒や携帯電話の類の違反・事故は撲滅することができるのだ。
一方、信号無視や速度違反、優先通行妨害、徐行違反、一時不停止などに起因する事故もほぼ無くなることが予想される。原則として自動運転システムはこうした交通ルールを厳守する。
このほか、整備不良などに起因する事故は依然残るものと思われるが、基本的にはほぼ全ての違反が激減し、飲酒運転など人間ならではのものは撲滅されることになりそうだ。
歩行者に過失がある場合も
自動運転車の普及により事故が激減することは間違いないが、全ての事故を防ぐことはできない。交通事故においては、自動車だけでなく自転車や歩行者に過失があるケースも少なくないためだ。
歩行者が第1・第2当事者となった事故においては、違反がなかった歩行者の死傷者数は3万1,160人だが、違反があった歩行者も8,164人に上る。
横断歩道以外の横断違反1,576人、飛び出し1,254人、走行車両の直前後1,248人のほか、信号無視591人、酩酊など358人、路上遊戯92人などの違反がある。
自転車のケースでは、違反なし2万2,930人に対し違反あり4万6,159人と違反者が大きく上回っている。安全不確認1万2,885人、交差点安全進行違反9,749人、動静不注視7,753人、一時不停止3,635人などだ。軽車両として守るべき交通法規に対する遵法意識が低いと言わざるを得ない。
死角からの急な飛び出しや、大げさな例では「当たり屋」的なものに対しては、自動運転車でも回避不可能な場合が多い。
自動運転に完成はない
現状、自動運転システムは完全なものではなく、少しずつ精度を高め安全性を向上させている段階だ。こうした安全性を支える検出能力や判断能力には、本質的に「完全」はなく、どこまで100%に近づくことができるかが重要となる。
また、完成度の高いパソコンやスマートフォンでも、システムエラーやフリーズを起こすことは珍しくない。コンピュータといえども不具合やエラーはつきもので、こうしたエラー発生時に対応したフェールセーフは必要不可欠だ。
それでも悪条件が重なって事故につながるケースも今後出てくるものと思われる。センサー・AIを誤認識させるオブジェクトの研究なども進められており、悪意を持ってこうした研究成果を使用するものが現れれば、都度対策を講じていかなければならない。
セキュリティ技術などと同様、常に精度を高めていく研究開発を続けていかなければならないのだ。
【参考】センサーの誤認識については「「天下一品」誤認識問題、「OTA」が解決の鍵!自動運転時代の必須技術」も参照。
■【まとめ】年間死者数は一桁水準に?
仮に日本国内の道路上を走行する全てのモビリティ(バイクや自転車含む)が自動運転化された場合、年間交通死者は一桁程度まで減少するのではないか。多く見積もっても数十人の水準だろう。こういった社会の実現は早くとも30年以上先のこととなるが、自動運転車が普及するにつれ、事故が減っていくことは間違いなさそうだ。
自動運転がスタンダードな存在となり、普及が進み続ければ、どこかのタイミングで道路交通法を大規模改編する時が訪れそうだ。1%でも人間のドライバーが残っている限り従来の罰則規定も必要となるが、その内容含め条文の大半が自動運転前提のものとなっているかもしれない。
まずは、自家用におけるレベル4の実装がいつ頃始まり、どのようにODD(運行設計領域)を拡大していくか。またレベル4走行時に発生する事故にどのような傾向が見られるのかなど、注目したいところだ。
【参考】関連記事としては「Googleの自動運転車、数字で「安全」を証明!物損事故、手動運転より約8割減少」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)