アサヒ飲料とソフトバンクが、東京都内の竹芝で開催されるイベントで「動く自動販売機」のサービス実証を行うと発表した。自律走行ロボットを活用した注目の取り組みだ。
開発プレイヤーをはじめ、サービス化に向け自動配送ロボットの活用を模索する動きが徐々に広がり始めている。両社の取り組みをはじめ、本格社会実装に向けた国内各社の動向をまとめてみた。
記事の目次
■アサヒ飲料×ソフトバンクの取り組み
イベント内で飲料品を自動配送
「動く自動販売機」の実証は、2013年9月17、18日の日程で東京ポートシティ竹芝やウォーターズ竹芝を中心に開催されるイベント「ちょっと先のおもしろい未来2023」で行われるという。さまざまな種類のロボットと触れ合える「ロボタウン」など、デジタル×コンテンツを体験できるイベントとして2021年から開催されている。
この中でアサヒ飲料とソフトバンクは、一般客を対象にLINE専用ページで注文したアサヒ飲料の商品を自動走行ロボットで注文者の手元まで配送する実証を行う。
実際に自動販売機を自律走行させるものではないが、将来イメージ図を見ると、トヨタのe-Palette(イー・パレット)のようなタイヤが付いたモビリティに商品を乗せ、そこから自動配送ロボットが出動し、注文者のもとへ商品を届ける仕組みを考えているようだ。
オフィス内や大型イベントの来場者、飲食料品の購入が難しい地域住民などに対し、自律走行型の配送ロボットを「動く自動販売機」として活用し、配送サービスの事業化を目指す構えだ。
ロボットは、ソフトバンクが開発した自律走行ロボット「Cuboid」を使用する。Cuboidは、ROS(ロボットオペレーティングシステム)がサポートするデバイスを機体に組み込み、SLAMで自己位置を推定しながら自律走行を可能にしている。2D-LiDARを採用している点もポイントだ。
当初スペックでは、最高速度0.8メートル/秒(時速2.88キロ)で、可搬重量20キログラム、移動可能距離は約10キロ。エレベーター連携なども可能な屋内型ロボットに位置付けられている。
【参考】Cuboidについては「可愛い顔の力持ち!ソフトバンク製自律走行ロボの正体」も参照。
ソフトバンクは自社製品と他社製品をフル活用
同実証に先駆け、アサヒ飲料は2022年11月から12月にかけ本社ビル内で社員を対象に検証を行い、利用者の約8割から高い満足度を得たという。
一方、ソフトバンクも香港Rice Roboticsが開発した屋内向け自動配送ロボット「RICE(ライス)」を用い、本社ビルで実証を重ねてきた。Rice Roboticsは、ソフトバンクグループのアスラテックが日本展開をサポートしているスタートアップだ。
ソフトバンクはこのRICEを使用し、本社を構える東京ポートシティ竹芝で2021年1月に屋内配送実証を開始した。当初は同一フロアに配送する実証だったが、同年4月にロボットとエレベーターを連携させ、異なるフロア間を移動しながら商品を配送する実証にも着手した。
ビル6階に入居するセブンイレブンから、別フロアのソフトバンク社員へ注文商品を配送する取り組みだ。同年5月には、Cuboidを使用してビル周辺の公道を走行ルートに設定し、信号機の情報を連携させて横断歩道を渡る実証なども行っている。徐々に活躍の場を拡大している印象だ。
【参考】ソフトバンクの取り組みについては「「高層ビル×直営コンビニ」、自動運転宅配の普及で最有力!」も参照。
セブンイレブンも本社でRICE実証に着手
RICEはこのほか、日本郵便が実施した日本初の複数台(5台)による自動配送ロボットの屋内配送実証にも提供されている。マンション居住者宛ての宅配物などを配達員がマンション入り口まで配送し、そこで荷物を受け取ったRICEが受取人の住戸の玄関まで配送を行う取り組みだ。
マンションに関係者以外を入れずに済むためセキュリティ向上が図られ、配達員、あるいは居住者がエントランスから住居までを行き来する必要もなくなる。
2023年3月には、セブン‐イレブン・ジャパンも本社で配送実証を開始したようだ。商品配送サービス「7NOW」とRICE2台を連携し、揚げ物やセブンカフェなどのカウンター商品を配送するという。
自動配送ロボットはオフィスビルやコンビニとの相性抜群?
自動配送ロボット実用化に向けては、第一段階としてオフィスビルなどの建物屋内でのサービス化が適しているようだ。一般公道と異なり、ルート上の他の交通参加者の理解・協力を得やすく、不確定な諸問題が発生しにくい。
また、コンビニとロボットとの相性もよさそうだ。比較的細かな商品が多く、全国津々浦々に店舗を持つコンビニは、積載量や配送距離に制約が出がちなロボットの短所を補うことができる。屋内ではあるものの、セブンイレブン自らが実証に着手したのは注目に値するところだ。
このほか、イベントなどでの活用も面白い。不特定多数の利用者(ターゲット)が密集する中で、どういった商品に需要があるかを予測するとともに、どういった問題が起こり得るのかを学習する良い機会になる。
動く自動販売機は高い販促効果も?
今回のアサヒ飲料などの取り組みは注文のあった商品を配送する実証だが、将来、複数の飲料品を搭載してまちなかを「流し営業」する、言葉通りの「動く自動販売機」実用化も面白そうだ。清涼飲料水は賞味期限が長く、従来の自動販売機同様在庫管理なども容易だ。
収益面はそれほど期待できないかもしれないが、自ら動くことで高い宣伝効果を生み出す可能性がある。大きめのデジタルサイネージを搭載し、新商品の販促に使用すれば非常に高い訴求効果を得られるかもしれない。
アサヒ飲料などが自ら、あるいはセブンイレブンなどの小売店が代理で請け負う形なども考えられるだろう。
■国内各社の取り組み
KCCSが国内初の移動販売実証
北海道石狩市などで配送実証に力を入れる京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は2022年7〜8月に、千葉市美浜区の幕張新都心地区で自動走行ロボットを活用した移動販売サービス実証を行った。国内初の取り組みだ。
イオンスタイル幕張ベイパークが提供する冷たいドリンクやゼリーなどを積み、近隣の公園やマンション、高齢者住宅などを回る取り組みで、利用者は車体に搭載されたタッチパネルで購入商品を選択し、スマートフォンを使ってキャッシュレス決済する仕組みだ。
歩道を走行する一般的な自動走行ロボットよりも一回り二回り大きいロボットを使用しているためさまざまな商品を搭載でき、「動くコンビニ」とまではいかなくとも「動く自動販売機」として注目を集めそうだ。
【参考】KCCSの取り組みについては「京セラ子会社が「ミニ無人コンビニ」!自動運転技術を活用」も参照。
楽天やZMPは早くから自動配送ロボットに注目
国内における移動販売実証はまだ限られているものの、商品配送実証は楽天やZMPなどがすでに経験を積み重ねている。
楽天は、中国EC大手の京東集団(JD.com)が開発したロボットを活用し、千葉大学構内や神奈川県横須賀市などで配送実証を本格化させた。サービス化に向けた国内パイオニア的存在だ。
その後、パナソニック製のロボットを導入し、西友店舗からの商品を近隣住宅に配送するサービスを横須賀市と茨城県つくば市で展開している。
このほか、筑波大学構内における自動配送ロボット実証をホンダと共同で行うなど、多方面での展開を視野に入れているようだ。ECプラットフォーマーならではの販売技術を配送面にどのように生かしていくか、要注目だ。
ZMPは早期に自動配送ロボットに目を付けた、開発面でのパイオニアだ。2021年にENEOSホールディングスとエニキャリとタッグを組み、複数店舗の商品を配送するサービス実証に着手した。
2023年9月には、長崎県内のIT企業NDKCOMと手を組み、自動配送ロボットの九州展開を進めていくことを発表している。
このほか、ティアフォーが三菱商事などとともに岡山県玉野市や茨城県地区筑西市、川崎重工業やKDDIなどとともに東京都内で配送や公道走行実証などを進めている。
堀江貴文氏が取締役を務めるHakobotや、スズキと手を組むLOMBYなど新興勢の活躍も今後の見どころだ。
【参考】自動配送ロボットについては「自律走行ロボットの種類は?(2023年最新版)」も参照。
■【まとめ】中型自動運転ロボットの開発が加速する?
「自動配送」ではなく「移動販売」の点においては、世界では中国Neolixが大きく先行している。米国では、自動運転開発企業が自動運転車を活用して販売実証を行うケースも見られる。
移動販売にはそこそこ大きなボディが必要となるため、歩道走行に主眼を置いた自動配送ロボットではやはり物足りない。
今後、自動車と自動配送ロボットの中間に位置するような中型ロボットの開発も活発化するのかもしれない。比較的低速で車道走行可能なモデルで、移動販売のほか大量の荷物を搬送することもできる。
自動運転技術が一定水準に達すれば、次は多様化するサービスに対応したモデル開発が加速していく可能性が高そうだ。
【参考】関連記事としては「香港からの「黒船」、自律走行ロボ「RICE」が国内上陸!どんなロボット?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)