トヨタ「営業利益1兆円」の行き場は!?自動運転&Woven Cityに投資か

潤沢な資金で研究開発が加速へ

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出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

トヨタが2024年3月期第1四半期(2023年4~6月)決算を発表した。営業利益は四半期ベースで初の1兆円超を記録するなど、業績は好調に推移しているようだ。

予断を許さないものの、四半期だけで1兆円超の利益を生み出したトヨタ。規模が大き過ぎてもはや想像が及ばないところだが、こうした利益はどのように使われていくのか。

将来技術をはじめとした未来投資への期待を込め、決算概要とともにトヨタの研究開発や投資に迫っていこう。

■トヨタの2024年3月期第1四半期決算の概要
営業利益1兆1,209億円、四半期ベースで国内初の大台突破

2024年3月期第1四半期は、営業利益が前年同期比93.7%増の1兆1,209億円に達した。トヨタとして過去最高を記録したばかりか、日本企業の四半期ベースでも初の大台突破となった。

本業からの収益を指す営業収益は10兆5,468億円、連結販売台数は前年同期比15.5%増の232万6,000台、トヨタ・レクサス販売台数は同8.4%増の253万8,000台となっている。ハイブリッドなどを含む電動車の割合は全体の34.2%まで増加している。

出典:トヨタIR資料(※クリックorタップすると拡大できます)

この好調ぶりは、半導体不足改善による生産能力の回復や為替変動、車両価格の改定、営業努力などが要因に挙げられている。

所在地別の営業利益は、日本国内が前年同期比108%増の7,007億円、北米が同40%増の1233億円、欧州が247%増の820億円、アジアが同2.7%減の1,869億円、その他地域が同95%増の805億円となっている。

中国のみ苦しんだ状況だ。販売台数は伸びているものの、ローカルブランドの台頭などにより競争が激化し、販売費が増えているという。

さまざまな意見があるものの、結果だけを見れば世界的なEV(電気自動車)旋風も何のその――といった印象だ。豊田章男氏からバトンを受けた佐藤恒治新社長も、ひとまずは胸をなで下ろすことができる結果と言えるのではないだろうか。

■トヨタにおける研究開発費の動向
研究開発費は1兆円超、2023年度は設備投資含め3兆円規模に

利益の増加は、株主への還元や設備投資、研究開発費の増加に直結する。トヨタの研究開発費は業績拡大とともに右肩上がりの傾向が続いている。1兆円目前に迫ったリーマンショック時やコロナ禍による停滞はあったものの、2015年3月期に1兆円を突破し、2024年3月期は1兆2,400億円を計画する規模に至っている。

設備投資も2022年3月期1兆3,430億円、2023年3月期1兆6,058億円、そして2024年3月期には1兆8,600億円予定と近年大きく数字を伸ばしている。研究開発費と設備投資を合わせると、3兆円規模に達している。

こうした研究開発や設備投資は、具体的にどういった分野に活用されているのだろうか。

出典:トヨタIR資料(※クリックorタップすると拡大できます)
BEVやAreneの市場投入が目下の目標

2023年3月期の決算説明会で、佐藤社長は「モビリティ産業への転換を図るため、3兆円規模の研究開発費と設備投資をさらに増やしつつ未来投資の比率を高め、持続的成長につなげていく」と語っている。

また、技術説明会「Toyota Technical Workshop」では、電動化、知能化、多様化を3テーマに掲げた。トヨタはカンパニー制を導入した2016年以降、先行分野へのリソーセスシフトと未来志向での積極投資を進めており、すでに開発人員の半分以上をシフトし、研究開発費も約半分を先行分野に充てているという。この流れを今後さらに加速させていく方針だ。

生産効率化に向けた投資はもちろん、注力分野としてBEV(バッテリー式電気自動車)や水素燃料・水素エンジンの開発、Areneに代表されるソフトウェア開発などが挙げられる。

目下の目標としては、カーボンニュートラルの観点から2026年にBEV150万台を基準にペースを定め、米国・中国を中心に幅広い10モデルの投入を計画しており、電池供給についても内製による生産能力の向上とパートナー企業との連携を推進していく。

また、2026年投入予定のモデルでは車台と電子プラットフォーム、ソフトウェアプラットフォームのすべてを刷新し、BEV専用の新しい車両パッケージのモビリティ実現を図っていく構えだ。

Areneも2026年に次世代BEVへの搭載を目指している。大きな節目を迎えることになりそうな2026年に向け、まずは設備投資と研究開発を集中させていくことになりそうだ。

【参考】トヨタの技術説明会については「トヨタ「知能化技術」の方向性判明!新車載OS、移動コンビニも」も参照。

将来技術への投資も盛ん

こうした直近の目標に向けた投資はもちろん、未来に向けた研究開発も勢いを増すはずだ。その代表格が自動運転技術だろう。

トヨタは2016年、AI(人工知能)開発を主軸に据える研究開発拠点「Toyota Research Institute(TRI)」を米国に設立し、自動運転開発を本格化させた。世界最先端の技術やアイデアが集結するシリコンバレーの熱気を浴びながら、ショーファーやガーディアンをはじめとした技術の進化を支えている。

一方、国内でも2018年、自動運転技術実用化に向けた高品質なソフトウェア開発を手掛ける「TRI-Advanced Development(TRI-AD)」を設立している。

TRI-ADはその後、ウーブン・プラネット・ホールディングス(現ウーブン・バイ・トヨタ)へと組織改編し、より専門的かつ多角的な開発を進め、社会実装や市場導入までを見据えた取り組みを加速している。

また、この時期には大規模プロジェクト「Woven City(ウーブン・シティ)」も立ち上げられている。一から都市を構築し、モビリティとさまざまな分野を連携させるさまざまな取り組みを行う実証都市で、モビリティの可能性を追求していく場となる。

現在は建設工事を進めている段階で、2025年に第一期オープンし事業を開始する計画だ。その後も実証内容の更新とともに都市構造を変え続けるなど、未完の都市を標榜している。あくなき挑戦の場として、そして研究開発の実地として脚光を浴びる日が訪れることに期待したいところだ。

潤沢な資金が研究開発を加速させる

こうした未来への投資には、潤沢な資金が必要であることは言うまでもない。毎年度計画的に研究開発費を捻出するには、しっかりと利益を上げなければならない。逆に言えば、しっかりと利益を確保することができれば、潤沢な資金を研究開発費に回すことが可能になる。

年度途中ではあるものの、予測を上回る営業利益を出したトヨタ。この利益の使途として、自動運転やWoven Cityへの投資・研究開発の強化を期待しても決して見当違いにはならないだろう。

また、専攻分野の開発を担う企業への投資促進にも期待が寄せられるところだ。トヨタ本体による出資をはじめ、トヨタが出資する未来創生ファンドやシリコンバレーに拠点を置くToyota Ventures、ウーブン系のWoven Capitalといったファンドなど、多角的な面からスタートアップらへ出資を行っている。

代表例としては、中国Pony.aiや米Nuro、日本のWHILLなどが挙げられる。純粋な開発資金の調達だけでなく、技術やサービス面でトヨタと協業することができれば、事業を大きく前進させることができる。

自動運転をはじめとした先行分野で開発を進めるスタートアップにとっては、トヨタからの出資・パートナーシップは非常に心強いものとなる。こうしたチャンスを得る機会が増えるかもしれない。

関連技術の開発を手掛ける企業にとっても同様にパートナーシップを結ぶチャンスが生まれ、事業拡大の可能性が生まれる。トヨタの波及効果は、グループやサプライヤーにとどまることなく、こうした面まで及んでいくのだ。

【参考】トヨタによる出資については「トヨタの自動運転領域における投資まとめ」も参照。

■【まとめ】トヨタの自動運転開発はマイペース?

自動運転分野において、トヨタはいまだにマイペースを保っているように感じる。米Waymoが仕掛けた開発競争に無理に乗ることなく、安全性や快適性、運転する楽しさといった本質を突き詰め、じっくりと研究開発を進めている印象が強い。

BEV分野と同様、無理に急ぐことなく現実を直視しているとも言え、ある意味理想的ではある。しかし、Waymoらを超えるゲームチェンジャーが登場した場合、このスタンスがあだとなる可能性がある。

WaymoやCruiseなどの自動運転技術はまだ粗削りな部分が多く、それ故普及拡大に時間を要しているが、ここに第三勢力が登場し、レベル4として非常に完成度が高くさまざまなプラットフォームに搭載可能なシステムを市場化した場合、業界の構図は大きく変わる。

業界の事情や技術に精通した人ほど「そんなゲームチェンジャーは急に現れない」と言いそうだが、世の中が一変する瞬間が唐突に訪れることはままあることだ。

すべての可能性を考慮し、トヨタも自動運転開発の速度を上げ、世界トップクラスの自動車メーカーとして次代を作り上げていってほしい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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