日本航空(JAL)と空飛ぶクルマ開発事業者の米Wisk Aero(ウィスク・エアロ)が、無操縦者航空機の社会実装に向け共同検討していくことに合意したと2023年5月10日に発表した。無操縦者航空機、つまりパイロットが搭乗しない自動運転可能なエアモビリティを意識した取り組みだ。
JALはWisk Aeroのほか、米Bell Textronや独Volocopterともパートナーシップを交わすなど、次世代エアモビリティに向けた取り組みを加速している。
空の運航スペシャリストとして、空飛ぶクルマ分野でどのような事業展開を図っていくのか。Wisk Aeroとの取り組みをはじめ、次世代エアモビリティに向けたJALの戦略に迫っていく。
記事の目次
■Wisk Aeroとの取り組み
空の自動運転モビリティ実現へ
JALとWisk Aeroは、パイロットが搭乗しない無操縦者航空機の安全運航に向けた制度や体制確立、実証飛行に向けた準備、航空局認証取得に関する連携・協力などについて検討を進めていくとしている。
運航経験豊富なJALのノウハウと、eVTOL型の無操縦者航空機の開発を進めるWiskの技術力を結集・連携し、無人運航可能なエアモビリティの社会実装を推進していく構えだ。
現在開発が進められているeVTOLは、第一フェーズとしてパイロット同乗のもと飛行を実現するモデルが多い。安全な飛行技術を確立してから、第二フェーズとして無人運航に向けた取り組みを加速していくものと思われる。
今回の取り組みは、この第二フェーズを見越したものだ。地上の自動運転車同様、空飛ぶクルマも運転者(操縦者)無人を達成してこそビジネスの道が大きく開ける。
今回の取り組みが将来の無人化にどのようにつながっていくか、要注目だ。
【参考】Wisk Aeroについては「Google創業者の空飛ぶクルマ企業、突然の閉鎖宣言!次の展開は?」も参照。
■JAL×空飛ぶクルマの取り組み
「JAL AIRTAXIプロジェクト」始動
JALは、空飛ぶクルマ実現に向けた取り組みを「JAL AIRTAXIプロジェクト」と称し、2025年度の事業化を目標に実証などを積み重ねている。
ドローン物流から空飛ぶクルマへ、地方都市から大都市圏へとサービス実装が展開されるシナリオを前提としており、空飛ぶクルマ事業の拡大ステップについては、以下のように2つのフェーズに分け、事業化を展開していく方針だ。
- ①導入期=地方都市交通インフラ(社会課題解決)
- ②拡大成長期=大都市空港離発着の2次交通インフラ(収益最大化)
以下、実用化に向けたパートナーシップや実証などの取り組みを解説していく。
住友商事とともにBell Textronと協業
JALと住友商事は2020年2月、Bell TextronとeVTOLを用いた移動サービス実現などに向け共同研究を推進していくと発表した。Bellはヘリコプター開発で高い実績を誇り、eVTOL開発にも積極的だ。
3社は、eVTOLによる移動サービスの日本・アジアにおける市場調査や、インフラ構築に関する検討、運航に対する社会全体の理解促進や安全確保、騒音対策といった解決すべき課題などに取り組んでいくこととしている。
また同月には、スタートアップ企業へ投資を行うコーポレート・ベンチャーキャピタルファンド「Japan Airlines Innovation Fund」を通じ、VolocopterとBestmile、Fetch Roboticsの3社へ出資したことを発表した。
Volocopterは空飛ぶクルマ開発スタートアップで、Bestmileは配車管理を最適化するプラットフォーム開発、Fetch Roboticsは倉庫内などにおける自動運搬ロボット開発をそれぞれ手掛けている。
無人航空機オペレーターの人財育成プログラム開始
2020年10月には、ドローンやヘリコプター、eVTOLなどの無人航空機を安全に管理・運航できる人財育成講座「JAL Air Mobility Operation Academy」を開講した。
最新のパイロット訓練ノウハウを応用し、無人航空機の産業利用に必要な操縦技能や活用技術などの「テクニカルスキル」を学ぶコースや、認知力・判断力・コミュニケーション力といった「ノンテクニカルスキル」の能力向上を図るコースなどを通じて次世代に対応したオペレーターを育成していく方針としている。
Volocopterと業務提携
2020年9月には、Volocopterとエアモビリティ分野における新規事業創出を目的に業務提携を締結したと発表した。
Bell同様、eVTOLを用いた移動・物資輸送サービス実現に向けた日本国内の市場調査をはじめ、事業化に向けたビジネスモデル構築と賛同企業の参加・協力の依頼、実証飛行に向けた準備に関する検討などを進めていくとしている。
また、同月にはMS&ADインシュアランスグループの三井住友海上火災保険とMS&ADインターリスク総研とともに、Volocopterの日本進出に向けた支援や、日本におけるeVTOL社会実装を目指した取り組みを共同推進するため業務提携を締結したことも発表している。
三井住友海上火災保険などもVolocopterと業務提携・出資を行っており、同社の日本進出を共同でバックアップしていく構えだ。
【参考】JAL×Volocopterについては「独VolocopterとJALなど、次世代エアモビリティ「eVTOL」で提携」も参照。
三重県や千歳市と次世代モビリティ領域で連携
JALと三重県は2021年4月、次世代モビリティとワーケーション推進の領域で連携協力を図っていくと発表した。
両者は2015年から食と観光の領域で連携協定を結び、観光振興や交流人口の拡大に努めてきたが、新たに次世代モビリティなどを追加した。
同県内における次世代モビリティを活用したユースケース検討や課題抽出、実用化に向けた機運醸成などを進めていく方針で、JALは同様の連携協定を北海道千歳市とも結んでいる。
三重県は「Local Air Mobility Revolution」をコンセプトに空飛ぶクルマ実現に向けた計画を推し進めている。空飛ぶクルマの実用化で先行する見込みの大阪エリアとの連携なども視野に、事業展開を加速させていくものと思われる。
【参考】三重県の取り組みについては「【資料解説】三重県、空飛ぶクルマで「都会よりも豊か」実現へ」も参照。
大阪・関西万博ではVolocopterと運航サービス提供
JALは「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」に参画し、2025年開催予定の大阪・関西万博で会場となる夢洲周辺を空から眺める遊覧飛行や、会場と関西国際空港などを結ぶエアタクシーサービスの実現などを計画している。
2021年10月には、大阪府が実施する「空飛ぶクルマの実現に向けた実証実験」の採択を受け、ヘリコプターを活用した環境調査を実施すると発表した。
会場となる夢洲上空を実際にヘリコプターで飛行し、飛行環境や地上設備に関する制約の調査などを通じて多様な機体が共存できる運航環境の構築に繋げていくほか、Volocopterの協力のもと、大阪上空でのヘリコプターによる飛行風景と空飛ぶクルマの機内風景を組み合わせたバーチャルフライト体験を実施し、社会受容性について検証を行っていく。
2023年2月には、大阪・関西万博における未来社会ショーケース事業出展・スマートモビリティ万博「空飛ぶクルマ」の運航事業者として選定されたことを発表した。
万博における空飛ぶクルマ運航事業者として選定されたのだ。万博では、会場内ポートと会場外ポートをつなぐ2地点間での運航の実施を目指す方針で、機体はVolocopterが開発する2人乗りのマルチコプター型「VoloCity」を使用する予定という。
【参考】大阪・関西万博における取り組みについては「ドイツ企業VolocopterのEVエアタクシー、万博で日本の空を飛ぶ!?」も参照。
東京都のプロジェクトにも採択
2022年8月には、三菱地所と兼松とともに、東京都の「都内における空飛ぶクルマを活用したサービスの社会実装を目指すプロジェクト」に採択されたことを発表した。
プロジェクトでは、2022年度に都心の主要拠点を結ぶ移動サービス(=都市内アクセス)や、空港からの二次交通(=空港アクセス)、離島地域における移動サービスや遊覧飛行など、空飛ぶクルマを活用したさまざまなビジネスモデルを検討し、2023年度にヘリコプターによる運航実証、2024年度に空飛ぶクルマによる運航実証、離着陸場オペレーションの検証を行い、運用課題や収益性などの検証を進めていく計画だ。
【参考】東京都における取り組みについては「JALなど3社、東京都内で「空飛ぶクルマ」の運航実証実施へ」も参照。
■【まとめ】今後もパートナーシップ拡大か
航空運送事業者としての豊富な実績と高い知見をもとに、空飛ぶクルマをはじめとした次世代エアモビリティ領域でも各方面で取り組みを加速しているようだ。
運航サービスを全面的にバックアップする受け皿として、今後も空飛ぶクルマ開発事業者とのパートナーシップを拡大していく可能性が高い。全日空(ANA)とともに、次世代エアモビリティ領域においてどのような立ち位置で存在感を高めていくか、引き続き注目だ。
【参考】関連記事としては「JALが「クルマ」事業に参入!ただし、舞台は陸ではなく「空」」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)