静岡県裾野市で建設中のWoven City(ウーブン・シティ)に関する新たな動画がYouTubeに公開された。現在の進捗状況や今後の流れを要約したようなPR動画だ。
着工から丸2年の節目を迎えたWoven Cityはどこまで工事が進み、いつ頃実証を開始する予定なのか。動画の内容とともに、Woven Cityの「今」に迫る。
記事の目次
■最新動画の概要
フェーズ1の工事は2024年夏ごろ終了
動画は「Woven City建設中 -地鎮祭から2年-」と題されたもので、2023年2月23日にアップされた。Woven Cityは「富士山の日」にちなんで2021年2月23日に着工しており、ちょうど2年が経過したタイミングだ。
動画は、Woven City構想を初めて発表した技術見本市「CES 2020」における豊田章男社長の英語スピーチで始まる。モビリティ・カンパニーに向けた変革を胸に、東富士にある175エーカーの土地に未来の実証都市を作る――といった内容だ。
地鎮祭や安全祈願祭の様子を交えながら、2021年2月から2022年10月までの造成工事の様子や、2022年11月に始まったフェーズ1の建築工事の様子を映し出している。フェーズ1の工事は2024年夏に終了し、居住スペースなどの建物が完成する予定だ。
その後、準備期間を経て2025年にフェーズ1において一部の実証実験を開始する見込みで、発明を加速させるさまざまなサポートを行っていくという。
動画では、「『自分以外の誰かのために』――こんな想いを持つ発明家の方々と共に 一人ひとりに寄り添った『幸せの量産』を目指します」と結んでいる。
e-Paletteが走行する様子も
動画では、フェーズ1で完成予定の街区イメージがCGで製作されている。CGでは、10棟ほどのさまざまな建物が立ち並び、その中をe-Palette(イー・パレット)らしき車両が走行している様子がうかがえる。
2年後にはWoven Cityにこのような光景が広がり、さまざまな実証がスタートする見込みだ。どのようなイノベーションを実現していくのか、想像するだけで胸が高鳴る感じだ。
第2フェーズ以降の計画については公表されていないが、Woven Cityは「未完成のまち」を標榜しており、完成することなく半永久的に先進的な取り組みを試行していく場となる計画だ。
■Woven Cityの概要
パートナー企業とともに各種実証を行う「まち」
Woven Cityは、2020年末に閉鎖したトヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地(静岡県裾野市)を利用し、モビリティを中心にさまざまな実証に適した「まち」を一から構築していく一大プロジェクトだ。ウーブン・プラネット・ホールディングスが事業を統括している。
モビリティ・トランスポーテーションをはじめ、エネルギー、物流、農業・食品、データ・ICTインフラ、ヘルスケア、教育、エンターテインメント・小売り・アーティスト、金融・決済、セキュリティ、スマートホーム、住宅の各分野でパートナー企業を募り、新たな技術やサービスの実証を進めていく方針だ。
モビリティの可能性を拡張していく場に
「実証都市」というコピーでアナウンスされてきたWoven Cityだが、最近では「モビリティのためのテストコース」という言葉も前面に出され始めた。自動運転をはじめとしたさまざまなモビリティの可能性を追求していく場であることを強調しているのかもしれない。
トヨタによると、モビリティという言葉には「可動性、移動性、流動性、機動性」という意味があり、乗り物に留まらず幅広い意味で「動き」を表すとしている。
例えば、安全に目的地にたどり着くことや、欲しいものを欲しい場所に届けてもらうこと、遠くにいる家族と顔を見ながら会話することなどもあてはまり、暮らしの中にはさまざまな「ヒト・モノ・情報」のモビリティがあるという。
モビリティ・カンパニーへの変革を進めるトヨタは、モビリティが「ヒト」のためにできることを増やすためにWoven Cityを作る。食・農業やエネルギー、ヘルスケアなど、生活に関わるさまざまなものと「ヒト・モノ・情報」のモビリティを組み合わせることで未来の当たり前を生み出し、モビリティを拡張していくとしている。
【参考】Woven Cityについては「トヨタWoven City、住宅は4〜6階の「低〜中層」中心か」も参照。
■Woven Cityにおけるパートナー
ENEOSと水素の利活用で協業
水素エネルギーの利活用について検討を進めてきたENEOSとトヨタは2022年3月、CO2フリー水素の製造と利用を共同推進するため共同開発契約を締結したと発表した。Woven Cityにおける水素利活用の取り組みを加速させていく狙いだ。
Woven City隣接地に水素ステーションを建設し、再生可能エネルギーでCO2フリー水素を製造する水電解装置を設置するほか、製造したCO2フリー水素を乗用車や商用車などさまざまなFCEVに供給するとともにパイプラインでWoven Cityにも供給する。
Woven Cityのコミュニティエネルギーマネジメントシステム(CEMS)とENEOSの水素製造を最適化する水素EMSの連携についても検討を進めていく。
なお、ウーブン・プラネット・ホールディングスは2022年6月、手軽に持ち運び可能なポータブル水素カートリッジのプロトタイプを開発したと発表している。
直径約180ミリ、全長約400ミリのカートリッジで容易に交換でき、パイプラインなしで生活圏に水素を持ち運ぶことができる。汎用性の高い仕様にすることで、幅広い用途への適用も期待できるという。
NTTとスマートシティプラットフォームを構築
IoT関連では、トヨタと業務資本提携に関する合意を交わしたNTTに期待だ。両社はスマートシティプラットフォームを共同構築することとし、先行ケースとしてWoven Cityと東京都港区品川エリアで実装する方針だ。
日清食品とはWell-Beingを追求
農業・食品分野では、日清食品と食に関するWell-Beingの実現に向けた実証をWoven Cityで進めることに合意している。
Woven Cityにおける「完全栄養食メニュー」の提供や、住民の食の選択肢と健康増進に向けた共同実証を進めるとともに、レイアウトに最適な完全栄養食メニューの提供に向けたデータ連携などを進めていく方針だ。
発明家の参画も?
Woven Cityにおける実証への参加は未定ながら、「発明家」としてICOMA創業者の生駒崇光氏がウーブン・プラネットで開催された展示企画に参加している。
工業デザイナーの生駒氏は、可変式の小型電動バイク「タタメルバイク」の開発で知られる。箱型にたたむことができ、コンセントから3時間充電することで約30キロ走行可能という。USB給電機能も搭載しており、ポータブル電源として活用することもできる。「CES 2023」 で「Innovation Awards」を受賞しており、2023年中の発売を目指している。
インタビューの中で、生駒氏はWoven Cityについて「マイクロモビリティ自体が変わってきている時代。どう変わっていくか、どこまで変わっていけるのか——。Woven Cityはそれを試していく絶好の機会」と評している。
また、「展示する機会の中でエンジニアの方々からものすごくハイレベルなフィードバックをもらえた。インベンターマインドをもった経験豊富なエンジニアの方々から鋭い意見・指摘を直に聞けることは少なく、Woven Cityの仕組みを活用できるチャンスはものすごく貴重」としている。
生駒氏の参画はあくまで未定だが、大企業に限らず、ビジョンを共有可能な発明家などにもしっかり門戸を開いている様子だ。
■【まとめ】トヨタ独自の仕掛けやパートナー企業との取り組みも徐々に具体化?
着々と工事が進み、来年2024年には一定規模のまちが姿を現す見込みのようだ。今後、まちの姿が具体化されるにつれ、トヨタ独自の仕掛けやパートナー企業との取り組みも徐々に具体化されていくものと思われる。
引き続きWoven Cityの動向とともに新たなパートナー企業などの登場に注目していきたい。
【参考】関連記事としては「トヨタの実証都市Woven City、「第1期」工事がスタート!」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)