自動配送ロボットの社会実装に取り組む川崎重工が、「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」で実用化に向けた取り組みをプレゼンしたようだ。
エンジンやモーターサイクル、ロボティクスなど持ち前の技術を応用・発展させ、新規事業分野の開拓に力を入れる同社。自動配送ロボットの領域では、どのような取り組みを行っているのか。
同協議会で発表された内容をもとに、同社の取り組みに迫る。
▼第6回 自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosoko_robot/006.html
▼公道における小型自動配送ロボットの取り組み 川崎重工
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosoko_robot/pdf/006_07_00.pdf
記事の目次
■自動配送ロボットのコンセプト
高い走破性が特徴、大容量の荷室も
川崎重工は、試作3号機以降のロボットを「FORRO」と命名した。同社のキャッチコピー「カワる、サキへ。Changing forward」の「Changing FORwarding RObot」を略したもので、社会課題に新たな答えをもたらすロボットになるという思いを込めたという。
モーターサイクルの開発で培った小型軽量化技術や走破性の高い足回り、ロボット事業で培ったアーム制御と環境認識技術を掛け合わせ、配送のみならず荷物の受け渡しや軽作業も行えるよう開発を進めている。物流分野にとどまらず、製造業や医療・介護など幅広い分野への適用も目指している。
自動運転機能をはじめ、マークした人への追従機能なども備えている。段差の多い公道や未舗装道路での走行も可能で、安全な場所では時速10キロメートルで走行できるなど、高い走破能力を有する。
車体は小型・軽量で、人が押したり持ち上げたりすることができるサイズと軽さを実現したという。荷室は、80サイズの段ボールが7個入るスペースを確保している。ロボットの荷室のふたを開けると、ロボット本体はどこにあるの?――と思えるほど大きな空間を確保しているようだ。
コミュニケーション機能も開発中で、モニターやカメラを活用したリモートコミュニケーションなど、ユーザーとコミュニケーションをとる愛称表示や通信機能を備える予定だ。ロボット前面のディスプレイには「目」が映し出されており、さまざまな感情表現を実現できそうだ。
■西新宿における実証
自動配送によるケータリングサービスなど実施
川崎重工は2022年1月から2月にかけ、東京都の「西新宿エリアにおける5Gを含む先端技術を活用したスマートシティサービス(5G等活用サービス)実証事業」のもと、自動配送ロボットの公道配送実証を実施した。ティアフォー、KDDI、損害保険ジャパン、小田急電鉄、ホテル小田急、一般財団法人公園財団との共同事業だ。
実証では、ホテルのケータリングサービスと自動配送サービスを組み合わせたサービス実証をはじめ、KDDI新宿ビル付近から東京都庁第二本庁舎付近の往復走行などを通じ、走行技術や運行管理技術、5Gを活用した遠隔監視システムによる見守りサービス、自動配送ロボットにおけるPPP-RTK方式の高精度位置測位サービスの有用性検証を行った。
また、自動配送ロボットの社会実装を見据えた各種サポートサービスの検証として、自動運転のリスクアセスメントや自動配送ロボット専用保険、災害発生時などを想定したトラブルサポートや情報配信サービスの提供などについても研究を進めた。
成果としては、不特定多数が余暇を過ごす公園という環境下でも安定走行できることを確認したほか、一般の方に具体的なサービスをイメージできる形で自動配送サービスを利用してもらうことで、社会実装に向けた期待の高まりを感じてもらえたとしている。
課題には、認知度の向上や各種サービスを提供する上での価格設定とコストダウン、通信環境やスマート交通システム連携などのインフラ整備を挙げている。
2022年度はフード配送や医薬品の配送・回収
2022年度は、東京都の「西新宿の課題解決に資する5G等先端技術サービスの都市実装に向けたプロジェクト」の採択を受け、ティアフォー、KDDI、損害保険ジャパン、menu、武田薬品工業とともに新たな実証に挑む。
実証期間は2023年1~2月を予定しており、自動配送サービスによるフードデリバリーと医療関係物資の配送・回収を行う計画だ。
技術の高度化・協調、顧客価値の提供検証、事業モデルの実現性といったサービス価値・実現性の検証段階から、技術の事業レベル昇華や一般ユーザーへのプレサービス収益性・コスト実現性といった事業性の検証、そして限定エリアでのサービス開始や持続可能な事業の運用構築といったサービスの社会実装に向け、取り組みを加速させていく方針だ。
■川崎重工の自動配送ロボット分野関連の取り組み
注力分野の1つに近未来モビリティを設定
航空機や電車、二輪車、オフロード四輪車といった各種モビリティをはじめ、建設機械用機器や産業用・医薬・医療用ロボットなどの開発実績を有する川崎重工は、2020年に発表した中長期成長戦略「グループビジョン2030」において、注力フィールドの1つに「近未来モビリティ」を据え、人・モノの移動を変革する目標を掲げている。
ロボティクスとモビリティ、そして航空を掛け合わせ、無人化・遠隔化を実現する新しいソリューションを提供する構えだ。
ドローンやリモートロボ、屋内位置情報サービスも
ドローン関連では、開発中の無人VTOL機「K-RACER(Kawasaki Remote,Autonomous and Cargo-ability Enhanced Rotorcraft)」を使用し、長野県伊那市の物資輸送プラットフォーム構築プロジェクトに参画している。
垂直離着陸が可能なレシプロエンジン型で、無人地帯内における目視外自動飛行を行うことができる。最大積載量は100キログラム以上、航続距離100キロメートル以上が可能という。
遠隔技術関連では、2021年12月にソニーグループと合弁「リモートロボティクス」を設立した。ロボットの遠隔操作プラットフォームにより、人とロボットがリモートで共に働く新しいワークスタイルを実現していく方針だ。
このほか、2021年にサービス提供を開始した屋内位置情報サービス「iPNT-K(アイピントケイ)」にも注目だ。Wi-Fi電波を利用して、GPS電波が届かない屋内での人やモノの位置測位を実現する技術だ。
屋内ロボット関連では、SEQSENSEと共同開発した屋内配送向けサービスロボットを用いた配送業務自動化に関する実証を2022年8月に藤田医科大学で実施している。
自動配送ロボ開発に向けティアフォーなどと連携
川崎重工は2021年1月に自動配送ロボットの開発部門を発足し、プロトタイプの開発に本格着手した。同年8月にはティアフォーと損害保険ジャパンの3社で「自動搬送ロボット領域における協業に向けた実証実験の詳細検討に関する覚書」を締結し、ロボットの共同開発やサービス構築における連携を視野に入れた実証に向け検討を開始した。
同年12月には、SOMPOケアを含む4社で地域包括ケアシステムにおける人手を介さない物流システムの実現に向けた実証を東京都墨田区および江東区エリアで行っている。
介護サービスを提供するSOMPOケアの業務の一部を自動配送ロボットで代替する取り組みで、複数種類の自動搬送ロボットを同一の運行管理システム上で同時制御しながら、医薬品や食品、日用品などの生活必需品の配送を行った。
【参考】自動配送ロボット実証については「強力布陣で挑む!自動搬送ロボ、いよいよ都内で「車道端」も走行」も参照。
陸路と空路を連携させた配送実証にも着手
2021年11月には、無人VTOL機と配送ロボットを連携させた無人物資輸送の概念実証に成功したことを発表している。
荷物を積載した配送ロボットが無人VTOL機「K-RACER」に自動で乗り込み、配送ロボットを積載したまま自動飛行した後着陸し、配送ロボットが自動で離脱し荷物を届ける一連のシーケンスを行った。
陸路と空路を連携させた配送を実現する貴重な取り組みだ。
【参考】陸空連携実証については「航空機と配送ロボ、「無人×無人」で物資輸送!川崎重工、概念実証に成功」も参照。
ロボットデリバリー協会を発足
川崎重工業、ZMP、TIS、ティアフォー、日本郵便、パナソニック、本田技研工業、楽天グループの8社は2022年2月、自動配送ロボットを活用した配送サービスの普及による生活利便性向上を目的に、一般社団法人ロボットデリバリー協会を発足した。
ロボットの安全基準の制定や、安全基準に基づく認証などの仕組みづくり、関係行政機関や団体などとの連携、情報の収集と発信などを行っていく計画だ。
2022年11月末時点で、メンバーは正会員20社、賛助会員6社に拡大している。
【参考】ロボットデリバリー協会については「自動配送ロボの普及に弾み!ロボットデリバリー協会、活動内容は?」も参照。
次世代モビリティやロボ技術をブラッシュアップ
2022年4月には、ICMG、きらぼし銀行とともに羽田空港に隣接する大規模複合施設羽田イノベーションシティ内に「Future Lab HANEDA(フューチャー・ラボ・ハネダ)」を開設した。
ロボットのオープンイノベーションを目的としており、ロボットを身近に体験できる実証実験場「AI_SCAPE」や、ロボットの研究開発に活用できる「YouComeLab」など2つのエリアを設けている。
ロボティクスや遠隔技術、位置情報技術などを駆使し、自動配送ロボットをはじめとした次世代モビリティやロボティクスの領域で有用なテクノロジーを磨き、さまざまな応用サービスを展開していく構えだ。
■【まとめ】自動配送ロボット領域の取り組みに注目
川崎重工は新領域での事業展開を明らかに加速している印象だ。中でも、まもなく解禁される自動配送ロボットは、象徴的事業として今後注目度が大きく増す可能性が高い。
VTOL機も交え、今後どのような事業展開を進めていくのか。パートナー企業の動向とともに引き続き注目したい。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「スリム化&積載量増!病院内配送ロボが進化、川崎重工などが実証」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)