仮想通貨取引所FTXの破産が大きな話題となっている仮想通貨。2010年代に市場を急拡大した仮想通貨は、後付けで公的に定義化・制度化されつつもまだまだ波乱含みの展開が続きそうだ。
同様に、2010年代に市場を拡大した領域がモビリティ分野にも存在する。ライドシェアをはじめとした配車サービスだ。諸問題による裁判を重ねつつも海外でシェアを伸ばす一方、日本国内では依然として営利目的のライドシェアは禁止されている。
各国の規制によるが、どちらも法整備が追い付かないグレーゾーンを通じて市場を拡大してきた印象が強い。やや似通った道をたどる仮想通貨とライドシェアを対比しつつ、日本のライドシェアの動向に迫る。
記事の目次
■「仮想通貨」を改めて考える
仮想通貨は、インターネットを介して不特定多数の間でやりとりできるデジタル通貨の一種だ。一般的にブロックチェーン技術によって記録・管理されており、暗号資産と呼ばれることも多い。
国家が発行する法定通貨とは異なり裏付け資産を持たないため、需給関係などさまざまな要因によって価格が大きく変動することが多い。このため、投機目的で売買されることも多い。なお、エルサルバドルなど一部国家では法定通貨の地位を得ているようだ。
一般的な電子マネーとの相違点として、法定通貨との換金性や個人間送金など不特定多数間での取引が可能な点が挙げられる。
電子マネー同様2010年代に急速に取引を拡大し、規制が敷かれる前に普及した印象が強い。日本では、2017年施行の改正資金決済に関する法律(資金決済法)において暗号資産が明記され、国内で暗号資産と法定通貨との交換サービスを行う事業者は暗号資産交換業の登録が必要となるなど制度化されている。
ある意味、後追いで正式に合法化し、規制した格好だ。世界各国もおおむね同様で、従来の定義に当てはまらないものの明確に法律に反する内容でもないため、規制や制度化が後を追う形となったようだ。
■ライドシェアの概要
そもそもライドシェアとは?
一方、スマートフォンアプリなどを介して利用者とドライバーをマッチングするライドシェアも2010年代に急速に普及した。
ライドシェアの本質はいわゆる「相乗り」で、その歴史自体は古く、純粋な相乗りサービスのことを指すカープール型やバンを用いて多人数が乗車できる形態のバンプール型、ヒッチハイク型のカジュアルカープール型などさまざまな形態が存在する。
米Uber Technologiesや中国DiDi Chuxing(滴滴出行)に代表されるプラットフォーマーによるマッチング形態のサービスはTNC(Transportation Networking Company)サービス型と呼ばれる。スマートフォンの普及とともにこの配車サービスが世界各地で大きく需要を伸ばした。
このTNC型でよく問題視されるのは、一般ドライバーがマイカーを利用して送迎を行うサービスだ。タクシードライバー・事業者のような厳格な許認可を受けず、一定の要件を満たすことで誰もがドライバーとしてサービスを提供できるため、時間やマイカーを持て余した人が副業、あるいは本業として移動サービス業に流れ込んだ。
一般的に運賃は従来のタクシーより安い場合が多く、需要は大きな伸びを見せた。その一方、車両の整備やサービスの質の問題、既存のタクシー事業者との関係、事故や犯罪の懸念、労働問題などさまざまな問題が表面化した。
【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?日本で解禁される?(2022年最新版) デメリットやトラブルは?」も参照。
アメリカにおけるライドシェア
ウーバーが提供するサービスはあくまでマッチングサービスであり、法律上特に制限されるものではない。また、米国ではタクシー関連の規制は各州に委ねられているが、純粋な相乗りサービスとして見た場合問題がない場合も多く、通常のタクシー配車サービスなども行っているため、一律に規制することは難しい面もあったようだ。
そうこうしている間にライドシェアサービスは市民権を得てしまった。いわゆるグレーゾーンにおける運用でサービスを既成事実化した格好で、各州は後を追う形でドライバーに求められる独自要件を策定するなど対応に当たった。
■日本におけるライドシェアの実態
ウーバーが実証するもただちに行政指導
ウーバーが日本に進出したのは2013年だ。タクシー配車サービスを一部でスタートし、2014年に本格運用を開始している。
ウーバーは、一般ドライバーによるライドシェアサービスの日本展開ももくろんでいた。同社の日本法人は2015年2月、福岡県福岡市でライドシェアの実証を実施したのだ。ただ、すぐに「道路運送法に抵触する可能性がある」と判断され、行政指導が行われた経緯がある。
すでに他国におけるライドシェアの動向が情報として入っていたため、関係各所は迅速に対応することができたものと思われる。また、インターネット上でのみやりとりされる仮想通貨とは異なり、ライドシェアは一般公道を使用するため、当然ながら目に留まりやすい。気付いたらすでに普及していた……ということにはなりにくい性質もありそうだ。
一般ドライバーによる営利目的のライドシェアは白タク行為に
日本の道路運送法では、旅客自動車運送事業を以下のように定義し、許可なく事業を行うことを禁じている。
- ①他人の需要に応じるものであること
- ②有償であること
- ③自動車を使用したものであること
- ④旅客を輸送するものであること
タクシーサービスを行うには、二種免許や事業登録などが必要で、車両の点検などにも厳格な基準が設けられている。一般ドライバーによる無登録かつ営利目的のライドシェアはこの法に触れ、いわゆる白タク行為として扱われるのだ。
公共目的のライドシェアは「自家用旅客有償運送」として制度化
ただし、ライドシェア全般が禁止されているわけではない。公共交通の衰退などを背景に、2006年に改正された道路運送法において自家用旅客有償運送が制度化された。
市町村や非営利団体などが公共交通空白地を補うサービスや福祉用途などにおいて、自家用車を利用した有償サービスを提供できるようにする制度だ。
同制度では、運行管理責任者の選定や、ドライバーに求められる要件として、2種運転免許の保有者または1種運転免許保有者で自家用有償旅客運送の種類に応じた大臣認定講習の受講が必要とされている。
旅客から収受する対価は、旅客運送に要する燃料費や人件費などの実費の範囲内とされている。距離制、時間制、定額制など運賃設定方法はさまざまだ。
2018年3月末時点で、住民向けの自家用有償旅客運送は市町村運営有償運送440団体、事業者による公共交通空白地有償運送116団体、福祉関連では市町村運営有償運送112団体、事業者による福祉有償運送2466団体が登録されている。
2020年の法改正では、バスやタクシー事業者が運行管理や車両整備管理で協力する制度についても明文化され、既存事業者による運行ノウハウも活用されている。また、地域住民に限らず観光客を含む来訪者も対象とすることも明文化され、インバウンドを含む観光ニーズにも対応することが可能になっている。
運送の対価については、路線型は乗合バス運賃、区域型は近隣タクシー運賃の2分の1を目安に、地域公共交通会議などの協議が調った額にすることとしている。
自発的な謝礼や純粋なコストシェアは許可不要
このほか、道路運送法の許可や登録を要しないものもある。利用者からの自発的な謝礼や、ガソリン代などの実費を分担する場合などだ。
国内では近年、同一の目的地(方向)を目指す人をマッチングするコストシェア型サービス「notteco」や、任意で謝礼を支払う仕組みのマッチングサービス「CREW」(2020年12月にサービス停止)など、スマートフォンアプリを活用したさまざまなマッチングサービスが登場している。
【参考】nottecoについては「コストシェア型の日本のライドシェアアプリ「notteco」ってどんなサービス?」も参照。
【参考】CREWについては「モビリティスタートアップのAzit、10億円資金調達 謝礼式のドライブマッチングアプリ「CREW」の事業拡大へ」も参照。
こうした状況を踏まえ、国は2018年に道路運送法上の許可・登録を要しない輸送について、ガソリン代などの他に一定の金額を収受することが可能な範囲を明確化する通達改正を行った。
謝礼に関しては、自発的な謝礼の支払いは可能であることを明確化した一方、アプリなどで仲介するサービスについて、謝礼の誘引や謝礼の決定を経由しなければ決済できない仕組みをとる場合は、許可または登録を要することとしている。
また、仲介者(アプリ運営者など)が利用者から仲介手数料を収受する場合、仲介手数料を運転者に環流させることは道路運送法違反にあたることや、ガソリン代の算出方法なども明示されている。
■【まとめ】ライドシェア再考の余地あり?
現時点において、日本では営利目的のライドシェアは認められておらず、市町村などの協力なく個人が事業としてライドシェアサービスを行うことはできない。
ただ、新経済連盟や経済同友会のように規制改革を求める声もある。無条件での解禁は難しいものの、移動サービスの供給が不足しているエリアや時間帯などに限り、地域での大掛かりな合意形成なしに事業化できる枠組みがあっても良いのかもしれない。
地方では今後も公共交通サービスの危機は続く。さまざまなモビリティサービスの在り方を熟考していく中で、改めてライドシェアを再考する場面が訪れる可能性は否定できないだろう。
【参考】関連記事としては「博報堂が「日本版ライドシェア」!Uberはダメなのになぜ?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)