警察庁調査、自動運転の市場化意向「定路線サービス」が最多

4割強が2025年度までにレベル4技術など市場化

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2022年度中の法改正が見込まれるレベル4実現に向け、関係省庁の取り組みも水面下で加速しているようだ。

警察庁は2021年度、遠隔監視のみの無人自動運転サービスにおける開発動向などの調査に向け事業者ヒアリングを実施し、その調査結果などをまとめた「令和3年度自動運転の実現に向けた調査研究報告書」を公表した。

この記事では、同報告書をもとにヒアリング内容とともに各社の開発動向に迫っていく。

▼令和3年度自動運転の実現に向けた調査研究報告書
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/2022houkokusyo.pdf

■ヒアリングの概要

警察庁は、ドライバーの存在を前提としないレベル4の実現に向け新たな交通ルールの在り方などに関する各種調査研究を進めており、2021年度は限定地域における遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスを念頭に具体的な制度や交通ルールの在り方について検討を行った。

この調査の一環として、自動運転システムの研究開発や実証実験等に取り組んでいる自動車メーカーなどをはじめ、無人の移動サービス実用化に向けた運送事業者など対象を拡大してヒアリングを実施し、技術開発の方向性や各種課題の把握に努めたようだ。

ヒアリングは、ADS(自動運転システム)を研究開発している24主体(以下ADS開発主体)、ADSを一部開発している15主体(以下ADS関連開発主体)、ADSを用いた移動サービスを自ら営むことを予定している13主体(以下ADSサービス主体)、ADSを用いた移動サービスの実現に向けた取り組みを行っている20主体(以下ADSサービス取組主体)――から回答を得た。

内訳は、ADS開発主体が自動車メーカー14主体、大学・研究機関3主体、業界団体1主体、その他サービス関係事業者・実証実験参加者6主体、ADS関連開発主体が自動車部品メーカー3主体、その他サービス関係事業者・実証実験参加者12主体、ADSサービス主体が自動車メーカー1主体、運送事業者1主体、その他サービス関係事業者・実証実験参加者2主体、ADSサービス取組主体が自動車メーカー3主体でそれぞれ構成されている。

以下、各設問に対する回答結果を紹介する。

■ADS開発主体、及びADS関連開発主体への調査
4割強が2025年度までにADS市場化を想定

「ADS、またはADSの一部をなす装置やプログラムを市場に供給可能と想定する時期」について、ADS開発主体のうち3主体が2021~2022年度、7主体が2023~2025年度、6主体が2026~2030年度、2主体がそれ以降、6主体が未定または供給可能時期を定めていないと回答した。

一方、ADS関連開発主体は、6主体が2021~2022年度、4主体が2023~2025年度、2主体が2026~2030年度、3主体が未定または供給可能時期を定めていないと回答した。

開発動向としては、ADS開発主体に比べADS関連開発主体の方が早期市場化を見据えているようだ。推測だが、ADS開発主体に含まれる自動車メーカーの中には、必ずしもADSの早期実現にこだわらない企業もある。一方、ADS関連開発主体はADS開発主体に一部システムなどを供給する立場にある企業も多く、それ故早期実現を目指すADS開発主体に照準を合わせた回答になっている可能性が考えられる。

いずれにしろ、全体の4割強が2025年度までの市場化を想定しており、これは国の実現目標におおむね合致した割合と言える。

市場化形態は定路線運行の移動サービスが最多に
出典:警察庁(※タップorクリックで拡大できます)

「研究開発中のADSなどの市場化形態として予定しているもの」については、ADS開発主体・ADS関連開発主体合わせて22主体が「定路線運行の移動サービス」、21主体が「物流サービス」、11主体が「定路線運行以外の移動サービス」、8主体が「自家用車」、10主体が「その他」、14主体が「市場化形態は供給先による」――とそれぞれ回答した(複数回答あり)。

使用が予定されている道路環境については、26主体が「限定空間」、24主体が「道路ではない場所」、20主体が「高速道路または自動車専用道路」と「一般道路のうち幹線道路」、17主体が「一般道路のうち生活道路」、6主体が「未定」と回答した(複数回答あり)。

回答数が最多となった定路線運行の移動サービスは、自動運転バスやシャトルなどが代表的だ。また、物流サービスも思いのほか多い印象だ。

道路環境では、廃線跡やBRTなどの限定空間が最も多く、空港敷地内や工場敷地内などを指すものと思われる道路以外の場所が続いている。

5~6主体が緊急車両への認知・対応を可能に

「現場での個別具体的な対応を要する事象が発生した際、ADS自身の機能によって事象を認知することができるか」――といったADS開発主体に対する問いに対し、可能と回答した数は「警察官等による交通規制」と「警察官等の手信号」が各4主体、「交差点付近における緊急自動車等の避譲」11主体、「交差点付近以外の場所における緊急自動車等の優先」10主体、「泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること」3主体――となった。認知可能なものの、遠隔監視者の指示などが前提となるものは除く。

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一方、上記において「ADS自らの判断のもと適切な対応を取ることができるか」――といった問いに対しては、「警察官等による交通規制」2主体、「警察官等の手信号」1主体、「交差点付近における緊急自動車等の避譲」6主体、「交差点付近以外の場所における緊急自動車等の優先」5主体、「泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること」2主体――となった。

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救急車などの緊急車両に対し自動運転車自らが認知・対応可能なものは現状20~25%ほどに留まるようだ。しかし、警察官による手信号に対応可能な主体も単独ながら登場したことは特筆ものだ。ジェスチャ認識などの技術が生かされているものと思われる。

■ADSサービス主体13主体、及びADSサービス取組主体20主体への調査
サービス関連も4割強が2025年度までに開始予定と回答
出典:警察庁(※タップorクリックで拡大できます)

「サービス提供開始を想定する時期」について、ADSサービス主体とADSサービス取組主体合わせ5主体が2021~2022年度、10主体が2023~2025年度、3主体が2026~2030年度、1主体がそれ以降、14主体が未定または開始時期を定めていない――と回答した。

ADS開発主体と同様、サービス関連も4割強に相当する33主体中15主体が2025年度までにサービスを開始する計画を立てているようだ。

3分の1が車内無人の遠隔対応を想定

「走行ルート上にODD(運行設計領域)外となる走行環境が恒常的に存在しているケースにおいて想定している自動運転車の走行方法」については、「運転免許を受けた運転者が車内に常駐し、直接自動運転車を運転する」が9主体、「運転免許を受けた運転者が車外(遠隔地)から自動運転車を運転する」が11主体、「自動運転が継続できない状況は存在しない」が6主体、「未定」が15主体、「その他」9主体――とそれぞれ回答した。

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一方、「ODD外となる走行環境が恒常的に存在していないケース」においては、「運転免許を受けた運転者が車内に常駐し、直接自動運転車を運転する」が8主体、「車内に運転者は常駐していないが、ただちに車内に急行して直接自動運転車を運転する」が14主体、「運転免許を受けた運転者が車外(遠隔地)から自動運転車を運転する」が13主体、「自動運転が継続できるようになるまで(自動運転が継続できない状況が改善するまで)停止する」が15主体、「レッカー車などで牽引し駐停車可能な場所まで移動させる」が5主体、「自動運転が継続できない状況は存在しない」はゼロとなった。

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両ケースにおいて、ドライバーが車内に常駐するタイプはおおむね4分の1程度となった一方、車内無人の遠隔対応タイプは3分の1程度となっている。

保安要員の役割は交通事故対応が最多に

「自動運転を継続するために必要となる補助を行う自然人(保安要員やオペレーターなど)が存在する場所」については、「車外(遠隔地)のみ」が13主体、「車内及び車外の両方」7主体、「自然人は存在するが場所は未定」9主体、「車内のみ」は無しという結果となっている。

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「自然人の役割」については、車内の自然人においては「交通事故時における警察官への報告や負傷者の救護など」が14主体と最も多く、「自動運転車の停止」「乗客の安全確保や利便性向上のための対応」が各13主体で続いている。

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車外の自然人においてもほぼ同様で、「交通事故時の警察官への報告」23主体、「自動運転車の停止」「乗客の安全確保や利便性向上のための対応」各22主体となっている。

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交通事故発生時、自動運転車による自動通報も

「車外で交通事故が発生した場合の対応」については、「ADSが交通事故の発生を認知」が13主体、「補助を行う自然人が交通事故の発生を認知」が10主体、「道路交通法上の道路で走行することは想定していない」が2主体、「未定」8主体――となっている。

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「負傷者の救護方法」に関しては、「車内の自然人が救護」が8主体、「車外の自然人が現地に急行し救護」が13主体、「提携している警備会社などが現地に急行し救護」が15主体、「消防に通報」が18主体、「未定」が12主体となっている。

出典:警察庁(※タップorクリックで拡大できます)

「交通事故状況の報告方法」については、車内外の自然人が報告を行うものが多数を占める一方、3主体が「自動運転車が自動で警察に通報」、4主体が「自動運転車が自動で保険会社などに連絡し、そこから警察に報告」とそれぞれ回答している。

出典:警察庁(※タップorクリックで拡大できます)
基礎自治体や住民、道路管理者、同業者などと合意形成

「地域の理解と協力を得るための合意形成方法」に関しては、「運行ルートを管轄する地域の議会の議決を得る」が6主体、「基礎自治体の首長の同意を得る」が15主体、「自治体がサービスの運営主体になる」が13主体、「住民説明会を開催する」が22主体、「リーフレット・チラシを頒布・掲示する」が21主体となった。

出典:警察庁(※タップorクリックで拡大できます)

また、「合意形成すべき地域の関係者」については、「運行ルートを管轄する地域の基礎自治体」24主体、「沿線の地域住民」25主体、「消防機関」21主体、「道路管理者」25主体、「運行ルート付近で移動サービスを営んでいる事業者」21主体、「運行ルート付近で物流サービスを営んでいる事業者」12主体となっている。

出典:警察庁(※タップorクリックで拡大できます)
■【まとめ】具体的な制度整備に向けさらなる検討

警察庁は各種検討結果を踏まえ、更に具体的な制度整備につなげるべく、以下などの論点を含め、検討をいっそう進めるべきとしている。

道路交通法をはじめとした法規制はもちろんだが、初期のレベル4サービスがどのような制度のもとルール付けられていくのか。今まさに大詰めを迎えている段階のようだ。

【参考】関連記事としては「自動運転バス実証、自己位置推定で「GNSS/GPS」使用が最多」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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