自動運転で人が絡む労災・事故・ヒヤリハット、厚労省サイトにおける掲載事案

キャディが負傷、無人台車の接近にヒヤリ



自動運転の実証加速とともに、事故や事案、ヒヤリハット事例などが表面化してきた。開発者サイドによる事案が大半だが、中にはサービス事業者サイドによる事案も見受けられる。

この記事では厚生労働省の労災関連サイトを掲載されている事例を参考に、自動運転車による労災事故やヒヤリハットなどの事例を紹介しつつ、求められるべき情報共有体制に触れていく。


■自動運転ゴルフカートが横転
出典:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」

厚生労働省の労災関連情報発信サイト「職場のあんぜんサイト」によると、ゴルフ場で新規導入する電磁誘導型自動運転ゴルフカートの訓練中、キャディが負傷する事故が発生したようだ。

導入に先立つ訓練で、支配人から口頭で緊急時に必要となるフットブレーキ操作以外は全て自動制御されることなどの説明を受けたキャディは、6台のゴルフカートに分乗して実際にゴルフをしながら運転操作をしていたという。

一通りラウンドし、最終ホールからクラブハウスへ戻るルート上の大きく右折する勾配10度~12度の下り坂に差し掛かった際、カートの速度が設定速度を上回ったものの油圧ブレーキが作動せず、慌てたキャディもフットブレーキ操作を行わなかった。その結果、カートは道から飛び出して横転し、乗車していたキャディ4人がけがを負った。

原因については、自動走行制御に関するコンピュータープログラムの一部に欠陥があり、ノイズなどの異常に対応できなかった点をはじめ、カートの設置メーカーが納入時に行った走行テストが不十分であった点、異常時に使用するフットブレーキの操作に関する訓練が不十分であった点、キャディへの事前の教育指導が不足していた点などを挙げている。


▼ゴルフ場にて自動走行式ゴルフカートの試乗訓練中にカートが横転してキャディが負傷|職場のあんぜんサイト
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=100412

■自動運転台車の接近にヒヤリ
出典:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」

職場のあんぜんサイトには、自動運転関連のヒヤリハット案件も掲載されている。現場で天井クレーンのオペレーターと打ち合わせをしていたところ、話が聞き取りづらかったため自律走行する台車の走行レーンをまたいでオペレーターに近づいた。

話をする際、上ばかりを見ていたため、代車の接近に気付かす衝突しそうになったという。原因には、話に気を取られて台車の走行レーンをまたいでしまった点と、台車が自動運転していることを失念した点が挙げられている。

対策としては、走行レーンにみだりに入れないようにすることや、自動運転台車にパトライトや発信音などのアラーム機器を取り付けることが示されている。


▼天井クレーンのオペレーターと台車の走行レール越しに話をしていたとき、自動運転で近づいてきた台車に気づかず衝突しそうになった|職場のあんぜんサイト
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/hiyari/hiy_0397.html

■理解不足や慢心などが原因に

一部自動運転システムの欠陥が指摘されているものの、これらの案件の根底にあるのはオペレーションに関する問題や、自動運転に対する理解不足や慢心などだ。

自動運転の普及に伴い、その技術は徐々に開発者の元を離れ、さまざまな事業者の手に渡る。実用化初期においては開発者が密に実装現場に関わるが、技術やサービスが確立されるにつれマニュアル化が進み、次第に開発者の手から離れていく。同時に、自動運転車に直接携わる人員も不特定多数へと広がっていく。

そこで懸念されるのが自動運転に対する事業者の理解不足だ。マニュアルを斜め読みしたような状態で実用化を図る事業者が必ず出てくる。あるいは、事業責任者が正しく理解していても、その内容が関与する全スタッフに正しく伝わっているとは限らない。ここにほころびが生じる。

上記のゴルフ場のケースも、支配人の指示とキャディの理解がともに不足していたことは否めない。キャディも最初は緊張感をもって訓練に臨んでいたかもしれないが、ラウンドが進むとともに自動運転車に対する過信・慢心が生まれ、下り坂で自動制御が効かなくなる可能性を予見していなかった可能性がある。

訓練中はもちろん、導入初期においてもあらゆる事態を想定し、携わる者すべてがしっかりと情報を共有して事業に臨む体制を構築しなければならないのだ。

■開発者サイドの事案

開発サイドにおいては、事故やヒヤリハット事例はつきものと言っても過言ではない。想定外の事故やヒヤリハットの原因を一つずつ丁寧につぶし、完成度を高めていくのが常道だからだ。

例えば、全国5カ所で進められている中型自動運転バス実証では、2020年度に計3件の接触事案が発生した。原因は、ハンドル中立設定のミスとドライバーの車幅感覚の判断ミス、位置情報機器の設定ミスとさまざまだが、接触事案からとりまとめた教訓事項として以下を挙げている。

  • 自動運転機能に詳しくないバスドライバー目線での教育マニュアルや習熟度を確認するためのチェック体制の整備
  • 運行管理者、ドライバー、車両改造事業者間で、システム調整内容や実証中のヒヤリハットを情報共有するプロセスの設定
  • 問題発生時に迅速かつ適切な情報発信を行い、説明責任を果たすこと。また、実証に関する定期的な情報発信により、地域の理解を深めていくこと
出典:経済産業省(※クリックorタップすると拡大できます)

関係者間をはじめ、可能な限り広くヒヤリハット事例などを共有し、類似したエラーを未然に防ぐことは非常に重要だ。また、キャディやバスドライバーなど、サービス実証段階におけるドライバーは基本的に自動運転に精通していない。これを前提とした教育やチェック体制は必要不可欠なものとなっている。

■【まとめ】開発者をはじめ事業者、利用者を巻き込んだ情報共有を

コンピュータ制御に100%というものはなく、自動運転も例外ではない。ただ、限りなく100%に近づけるためヒヤリハット事例などを開発事業者らが共有することには大きな意義がある。

また、実証・実用化が進み始めた現在においては、開発者サイドのみならずその技術を利用する事業者サイドもしっかりと事例を把握しておくことが重要となる。さらに言えば、乗客や歩行者などサービス利用者にも一定の理解が必要となるだろう。

自動運転技術の早期高度化・実用化を実現するためにも、社会全体で共有すべき自動運転に対する認識・意識の明確化を図っていくべきかもしれない。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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