次世代向けのデジタルコックピットシステムの開発が盛んなようだ。オランダの位置情報サービス大手TomTomがこのほど発表したデジタルコックピットシステムの新プラットフォーム「IndiGO」には、早くもAmazonやMicrosoftをはじめとする開発パートナーが集結している。
次世代デジタルコックピットシステムには何が求められるのか。この記事では、デジタルコックピットシステムの進化と、テクノロジー企業の関わりについて解説していく。
記事の目次
■従来のコックピットシステムは「ガラパゴス」
車載ディスプレイは、10年ほど前まではカーナビゲーションとオーディオ用途が主体であり、拡張性も限られていた。いわば自動車版ガラパゴスだ。しかし、スマートフォンやADASの普及などによって車載ディスプレイをはじめとしたコックピットシステムに求められる機能や要件が徐々に変化し、進化の道を歩み始める。
速度計などの計器類のデジタル化をはじめ、クルマの各機能の「見える化」が進むとともに、ディスプレイとスマートフォンの各機能の連携が進み、車載インフォテインメントシステムとしての可能性が広がり始めたのだ。
その後、やや遅れて自動車のコネクテッド化が進み始め、スマートフォンとの連携やクルマの「見える化」はスタンダードな存在となり、どのようなサービスを提供すればより豊かで利便性の高いカーライフを送ることができるか――といった観点が重視されるようになり始めた。
車内のメインディスプレイは徐々に大型化し、ヘッドアップディスプレイをはじめ複数のディスプレイを搭載するモデルも増えてきた。ユーザーインターフェースも音声アシスタントやジェスチャーコントロールなど多様化し始めている。
自動車メーカー各社がデジタルコックピットシステムによって車内体験の差別化を図る動きを促進しているのだ。一方、こうした各機能は消費者マインドにも反映され始めた。外観や走行機能が重視されがちな自動車の購入要件の中に、こうした車内・乗車体験が新たな要素として重要性を増し始めているのだ。
■CASEの波で注目度増す「車内における移動時間」
こうした流れは、コネクテッドカーやシェアリングサービス、自動運転といったCASEの波とともにさらに進む可能性が高い。CASEは、単純な移動手段であった自動車にモビリティサービスの観念を結び付けていく。
【参考】関連記事としては「CASEとは?意味や使い方は?「コネクテッド」や「自動運転」を示す略語」も参照。
自動運転レベル4以降は、ドライバーを含めすべての乗員が運転から解放され、車内空間の設計も自由度が増す。デジタルコックピットシステムは、乗員の移動時間をより有効なものへと変えていく方向でさらなる進化を遂げていくことになる。
自家用車におけるコネクテッド化や自動運転レベル3の導入は、その前段階として「乗員の移動時間」を意識したデジタルコックピットシステムやコンテンツの開発が進む時期だ。今まさに車内体験の可能性が大きく広がろうとしているのだ。
新たなコンテンツの中心は、スマートフォン同様エンターテインメント分野が大きく発展するものと思われる。「電話」という本来の機能より、仕事や趣味、暇つぶしにどのように活用できるかが重視されているのと同様、自動車も「運転」という本来の機能から「車内における移動時間」への注目が高まっていく。
よりパーソナライズされたユースケースに応じ、どのような車内エンタメをどのような形で提供することができるか。こうした観点が重視されていくのだ。
こうした可能性を広げるのが、デジタルコックピットシステムにおけるイノベーションだ。ガラパゴス化していた車内インパネ・インフォシステムを刷新し、次世代モビリティに向けた進化を促進する起爆剤となるのだ。
■次世代コックピットにテクノロジー企業が積極参入
このデジタルコックピットシステムやインフォテインメントに、グーグルやアマゾン、アップル、マイクロソフトといったGAFAMが大きく注目している。Facebook改めMetaも、メタバース関連で絡んでくる可能性が考えられる。
グーグルなど各社は、情報系OSやクラウドプラットフォームなどで自動車の開発段階からその後のサービス展開までを見越した各種ソリューションで自動車業界との関わりを深めている。コネクテッド化や自動運転化が進む今後、その関わりはより密接なものへとなっていくことが予想される。
次世代のコックピットシステムは、既存の自動車産業が作り上げたものから一変し、テクノロジー企業が密接に結び付いた新たなインフォテインメントシステムに生まれ変わっていくのだ。
■オランダ企業TomTomの取り組み
新たなオープンプラットフォーム「IndiGO」を発表
TomTomは2021年11月、デジタルコックピットの新プラットフォーム「IndiGO」を発表した。自動車メーカーにおけるデジタルコックピット開発を支援するソフトウェアプラットフォームで、ルーティングやナビゲーションをはじめ、EV関連サービスやスマートフォンの統合、エンターテインメントアプリなどを簡単に備えることができるという。
オープンプラットフォームのため、開発者は必要なコンポーネントを容易に構築することが可能で、自動車メーカーをはじめ、システムインテグレーターやソフトウェア開発エンジニア、コンテンツプロバイダーなど、サードパーティの開発者もIndiGO用のアプリや機能を開発することができる。強力なAPIと事前に統合されたユーザーテスト済みのモジュールを活用し、効率的で予測可能な開発を行うことができる。
従来のデジタルコックピットプラットフォームとは異なり、ADASなどの車のコア機能を制御するインターフェースも提供され、ADASを車載システムと統合し、よりスムーズで安全な移動を実現可能という。
要するに、IndiGOを活用することで開発に柔軟性が生まれ、自動車の各機能や車両インターフェース、エンタメアプリなどをシームレスに統合し、車内におけるユーザーエクスペリエンスに柔軟性を持たせることができるのだ。
立ち上げパートナーにはAmazonやMicrosoftも
IndiGOの立ち上げパートナーには、Access、Amazon、ART SpA、Bosch、Cerence、Cinemo、Digital Charging Solutions、Faurecia Aptoide Automotive、Harman、iHeartRadio、Intellias、Microsoft、Rightwareが名を連ね、強力なエコシステムを形成している。
各社は、さまざまな面から車載インフォテインメントに関わる企業だ。ACCESSは、ビデオオンデマンドや音楽、ラジオ、カラオケ、ゲーム、情報サービスなどの提供を可能にする車載インフォテインメント向けのコンテンツソリューション「Twine for Car」を統合する。
アマゾンは、IndiGOを使用することで、自動車メーカーやティア1などがAmazonAlexa AutoSDKをデジタルコックピットソフトウェアプラットフォームに簡単に統合できるとしている。
マイクロソフトは、コネクテッドカーサービスを提供するための基盤となるクラウドプラットフォームとして「Microsoft Azure」を提供し、 Azureを利用するTomTomのロケーションテクノロジーとサービスを緊密な統合を図るとしている。
このほか、ART SpAは、インフォテインメントシステムやマルチカメラパーキングアシストの開発などを手掛けている。Boschは、最新の自社コックピット統合プラットフォームにIndiGOをすでに統合している。Cerenceは、会話型AI技術をベースにした音声認識技術を有する。
Cinemoは、車載インフォテインメントに関する統合ミドルウエアソリューションの開発を手掛けている。Digital Charging Solutionsは、自動車メーカーやフリートオペレーター向けの充電ソリューションを開発している。Faurecia Aptoide Automotiveは、Android向けのアプリケーションソフトウェアソリューション開発を手掛けている。
HARMAN は自動車向けに最適化したAndroidベースの主要なアプリストア「HARMAN Ignite Store」を展開している。HeartRadioは、オールインワンのデジタル音楽やポッドキャスティング、オンデマンド、ライブストリーミングラジオサービスを提供している。Intelliasは、自動車の空調システムを制御するソフトウェア開発などを手掛けている。Rightwareは、デジタルユーザーインターフェイスの設計と開発に向けたツール・サービスを提供している。
■【まとめ】テクノロジー企業台頭で情報系OSの主導権争い激化
IndiGOに関しては、アマゾンとマイクロソフトがしっかりと連携している点がポイントだ。グーグルやアップルはAndroidやiOSなどで間接に結び付いているが、今後直接的なアクションを起こす可能性も考えられる。
これらの動きは、情報系OSの主導権をめぐる競争へと発展していくことが予想される。巨大なモビリティ・コンピュータと化す自動車をめぐる主導権争いは、すでに従来のサプライヤーからテクノロジー企業に移り変わっているようだ。
▼TomTom公式サイト
https://www.tomtom.com/en_gb/
【参考】関連記事としては「見えない前方の道路を「可視化」!TomTom、自動運転対応のADASソフトウェアを発表」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)