「AI教習所」というユニークな社名の福岡県の株式会社が、総額1.3億円の資金調達を実施したことをこのほど発表した。
同社は、より安全な交通社会の実現を目指し、南福岡自動車学校を運営するミナミホールディングスと自動運転スタートアップのティアフォーにより設立された合弁会社だ。AI(人工知能)と自動運転技術を活用した新しい運転教習システム「AI教習システム」を展開している。
AI教習所とは一体・・・!?
■ティアフォー加藤CEOの研究成果を活用
自動車教習所では、指導員の高齢化や採用難による人材不足が問題になっている。そのため指導員の負担増加のほか、運転免許取得希望者や免許更新を控えた高齢運転者の受入難が社会課題となっているという。
これを解決するため、ティアフォーの創業者かつCEO(最高経営責任者)・CTO(最高技術責任者)である加藤真平氏(東京大学の特任准教授)が研究代表者を務める科学技術振興機構(JST)CREST事業「完全自動運転における危険と異常の予測」の成果と、ミナミホールディングスが有する教習所における知見を活用し、AI教習システムの開発を進めてきた。
AI教習所は2021年5月に設立され、「技術の力で、より安全な交通社会を作る」をミッションに、自動運転技術とAIを活用してより質の高い運転教育を実現するAI教習システムの開発・提供を行っている。
AI教習システムは、自動運転技術とAIを用いて教習所コース内における車両位置や車両状態、周辺環境、ドライバーの確認行動をリアルタイムに把握することで、指導員と同程度の精度で評価することを可能にしている。会社設立と同じタイミングの2021年5月に製品化された。
■自動運転技術とAI技術を取り入れる
AI教習システムには4つの特徴がある。1つ目は、「車両位置表示と音声によるナビゲーション」だ。自動運転技術を用いることで、走行位置を正確に把握し、タブレットにリアルタイムで表示する。AIが音声ナビゲーションでコースを指示することもできる。
2つ目は「走行直後に自分の運転を振り返り」で、走行後すぐに映像とコメントで自分の運転を振り返ることができる。車内外の映像に加え、俯瞰視点から自分の運転を何度でも確認できる仕組みになっているという。3つ目は「60項目以上の運転技能評価」だ。1段階修了検定をベースにした60以上の評価項目において、採点し評価シートを作成する。熟練の指導員が監修した評価モデルは、指導員の評価と遜色ない高い精度となっているようだ。
4つ目は「危険運転を検知し作動する自動補助ブレーキ」で、速度超過時や障害物に接近した場合など、教習指導員が補助ブレーキを踏む複数の場面において作動し、教習実施時の安全性を高める。なお自動補助ブレーキは自動運転装置ではないため、認識性能・制御性能には限界があるという。
■取得したデータで新たなサービスも計画中
AI教習システムは現在、すでに全国10校で導入され、今後の導入を積極的に検討している教習所も10校あるという。南福岡自動車学校では、ペーパードライバー講習や企業研修などの用途で、1,000時間を超える利用実績がある。
今回の資金調達は、既存株主であるミナミホールディングスに加え、新規株主としてアサヒロジスティクスとFusicを加えた3社を引受先とした第三者割当増資により実施された。
調達した資金は、AI教習システムの開発体制を維持・強化に活用される予定だ。それにより免許取得時の技能教習での利用を目指すとともに、職業ドライバーや高齢ドライバーなどへも用途拡大を図ることで、ドライバー不足や高齢ドライバーによる事故の増加といった社会課題の解決につなげていくことを目指している。
さらに、株主との協業を通じて中・大型車両への対応に向けた開発の加速のほか、教習所の各種システムとの高度な連携や、AI教習システムで得られるデータを活用した新たなサービスやソリューションの共同開発にも取り組んでいくという。
人材不足解消や交通事故の削減といった問題に取り組んでいるAI教習所。今後同社のシステムを導入する教習所はますます増えていきそうだ。
【参考】関連記事としては「ティアフォーの自動運転/Autoware戦略」も参照。