日本電気硝子株式会社(本社:滋賀県大津市/代表取締役社長:岸本暁)が開発した特殊ガラスを用いた「レンズアンテナ」が、滋賀県内で実施されたバスの自動運転・隊列走行の実証実験で採用されたという。このほど同社が発表した。
このレンズアンテナは、隊列走行するバス同士の情報伝達をより安定させることができるため、一般的な移動通信で使用されるアンテナが持つ課題を解決することができるという。一言でいえば、自動運転バスの通信環境を強化するアンテナと言えそうだ。
■より安定した情報伝達を可能にする
レンズアンテナは、ミリ波帯での通信を安定・効率的に行うためのものだ。日本電気硝子によると、バスの自動運転・隊列走行においてアンテナに必要な条件は「旋回時にも通信が途切れないこと」「小型でどこにでも設置しやすいこと」「雨や雪で劣化しないこと」だという。
今回の実証実験では、先頭車と後続車間で情報通信を行うことで、複数のバスの隊列走行・自動運転の実現を目指している。採用されたレンズアンテナは、同社が開発した材料を使用し、今回の実証実験のために新たに設計した製品となっている。
特殊ガラスを用いたレンズアンテナの使用により、バスの自動運転・隊列走行が抱えていた旋回時の通信の途切れなどの課題を解決し、より安定した情報伝達を可能にした。さらに、これまで用いられていたアンテナに比べ、スループット(単位時間あたりに処理できるデータ量、通信速度)を改善し、遅延時間が短縮するという成果も得ているようだ。
■レンズアンテナの長所は?
レンズアンテナには、大きく3つの特徴があるという。
1つ目は、用途に合わせて電波の方向・範囲の調節が可能で、電波の損失も少ないということだ。実証では、レンズ設計に適した誘電率と低い誘電正接を持つ特殊ガラス材料を使用したが、誘電正接を低くすることで電波の損失を減らすことを実現した。また、レンズの形状を調整することで、電波を一方向に送ったり、より広範囲に送ったりといったことが可能になるという。
2つ目は、通信が途切れやすかった旋回時にも、安定した通信が可能になることだ。レンズアンテナを使用することで、不要な方向への電波を必要な方向に向けることが可能になる。これにより旋回時の通信の途切れを防ぎ、隊列走行時にも安定した通信が実現した。
3つ目は、ビーム形成技術を使い、センシングなどに用いられるレーダーへの応用も期待できるという点だ。使用用途として、車外センサーの視野角を広げることで衝突防止機能を高性能化したり、車内にセンサーを設置することで子どもの置き去りを防止したりといったことが挙げられている。また、家の中にセンサーを設置することにより、単身で暮らす高齢者の安否を見守るという使い方もできるという。
■活用は自動運転技術にとどまらない
日本電気硝子のレンズアンテナは、必要な条件・機能に応じたレンズ設計が可能で、自動運転だけでなく、生活のあらゆる場面での活用が期待されている。
特に、子どもを車内に取り残すといった事件はたびたび起きており、早急に対策を講じることが必要になっている。レンズアンテナは、今後の展開が期待できる製品と言えそうだ。
【参考】関連記事としては「自動運転車用センサー一覧(2023年最新版) LiDAR、ミリ波レーダー、カメラ、ミリ波レーダー」も参照。