自動運転車による歩行者を巻き込んだ初の交通死亡事故と言われる2018年3月に米アリゾナ州で発生した交通事故。米ライドシェア大手のウーバー・テクノロジーズが自動運転の公道試験中に引き起こした事故だ。この件をはじめとした自動運転車の事故はその都度大きな話題となり、自動運転の安全性に疑問を持たれる結果となっている。
ウーバーの死亡事故はなぜ起こったのか。事故の概要からその原因を探り、そこから得るべき教訓を明らかにしていこう。
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記事の目次
■死亡事故の概要
当初は「事故回避は難しかった」という見方
事故は米アリゾナ州テンピで2018年3月18日に発生した。ボルボの多目的スポーツ車(SUV)「XC90」をベースにしたウーバーの自動運転車が公道で試験走行を行っている際、自転車を押しながら車道を渡っていた49歳の歩行者に時速約64キロで衝突。被害者はその後死亡が確認された。
当初は被害者が横断歩道外で急に車道に飛び出しており、事故回避は難しかったとする見方もあった。
ウーバーの試験車両が公道を走行中、車道を渡っていた49歳の歩行者を最大時速43マイル(時速約70キロ)ではねて死亡させた。歩行者は急に車道に飛び出しており、当初は事故回避は難しかったとする見方もあったが、調査が進むにつれ状況は一変した。
緊急ブレーキが作動する設定になっていなかった
米運輸安全委員会(NTSB)が5月24日に公表した事故調査の中間報告書で、事故時にボルボ車搭載の緊急ブレーキが作動する設定になっていなかったことが明らかになったほか、衝突の危険がある場合に同乗しているセーフティドライバーに警告を発する仕組みも備えていなかったことが判明した。
報告書によると、現場はアリゾナ州マリコパ郡東部テンピの幹線道路で、車線数は左折用2車線、直進用2車線、バイク用1車線を含む計5車線だった。ちょうど左折専用路線が分岐し始める地点で事故が発生した。
はねられて死亡した歩行者は道路の左側から道路に進入し、ウーバーの自動運転車は最大時速43マイル時(時速約70キロ)で女性に衝突した。道路の制限速度は39マイル時(時速約62キロ)だった。ウーバーの試験走行車は進行方向に向かって右から2車線目(直進用車線)を走行していた。
LiDARは衝突6秒前に歩行者を認知
ウーバーの自動運転車に搭載されたレーザーレーダー「LiDAR」は、衝突の6秒前に歩行者を認知しており、さらに衝突の1.3秒前(約25メートル前)に自動運転システム側は緊急ブレーキが必要だと判断していたが、ウーバーは自社の自動運転システムにも自動ブレーキ機能が備わっていることから、車両の動作が不安定になることを防ぐため走行時はボルボ搭載の自動ブレーキ機能を無効にしていたという。
また、車両に乗っていたセーフティドライバーの44歳女性は、事故発生時に前方道路を見ていなかったことが判明し、後に携帯電話でテレビ番組を視聴しながら業務に当たっていたことなども明らかになっている。
なお、アリゾナ州はこの事故を受け、ウーバーに対し州内の道路での自動運転車運用の無期限停止を命じている。
【参考】ウーバーの死亡事故については「米ウーバー死亡事故、緊急ブレーキ作動しない設定 LiDARは歩行者認知 自動運転試験中」「ウーバーの自動運転車死亡事故、車両の自動ブレーキ機能オンで防げた可能性 アメリカ道路安全保険協会が見解」も参照。
■ウーバーが起こしたほかの事故や違反
カリフォルニア州で無認可走行試験中に漫然と信号無視
ウーバーは2016年12月にカリフォルニア州で自動運転の走行試験を開始しているが、恐れ多くも無認可による公道試験だった。許認可権限を持つカリフォルニア州車両管理局(DMV)は再三にわたり中止要請を出していたものの、ウーバーはセーフティドライバーが同乗し、緊急の際にはいつでもハンドルを握る準備ができているため許認可は不必要という姿勢を堅持していた。
しかし、無認可公道試験の初日に、ウーバーの自動運転車両が信号無視を犯す姿を別のタクシー会社の車載カメラに捉えられ、大きな騒ぎとなった。映像には、黄色信号に変わり先行車がそそくそと通過する中、ワンクッション置いて明らかに赤信号に変わった後、漫然と通過するウーバー車の姿がはっきりと映し出されている。
ウーバーはこの件に関し、自動運転モード発動時ではなく同乗していたセ-フティドライバーが信号無視をしたとし、ドライバーを職務停止にした上で詳細は調査中としている。
アリゾナ州で一般車両と接触して横転事故
2017年3月にも、アリゾナ州テンピでウーバー車が横転する交通事故が発生している。一般車両との接触が原因の事故で、当時ウーバー車は自動運転モードで走行しており、一般車両が道を譲らず走行したため互いの進路が交錯して接触し、横転したという。テンペ警察の広報担当者は、ウーバー車側に優先権があり、もう1台の車が道を譲らずに衝突したという見解を発表している。
■ウーバー・ドライバー双方の無責任体質が浮き彫りに
一部報道によると、ほかにもペンシルベニア州のピッツバーグにおいてフォード車を用いた自動運転試験を行った際にも、複数の事故が報告されているという。
ウーバーの報告などを信じると、死亡事故や信号無視はあくまで人為的なものであり、自動運転そのものに過失はないといえる。ただ、ドライバーの明らかな過失と緩い運用ルール、そしてそれを見過ごしてきた企業の体質は、さまざまなクルマや歩行者が行き交う公道において走行試験を行うものとして、あまりに無責任過ぎるのではないか。
ウーバーの死亡事故を受けてトヨタ自動車も米国での実験を自粛するなど、その影響は他社にも及んでいる。自動運転に対する社会受容性にも大きく影響するため、スタッフの質を高めることはもちろん、運用上のルールを厳格にし、安全の確保には最善を尽くしてもらいたい。
■自動運転の事故から垣間見えるモラルハザードと責任の所在
こういった自動運転車の事故から垣間見えるのが、ドライバーのモラルハザードと事故の際の責任の所在だ。試験中とはいえ、自動運転車に乗っているという意識がドライバーの油断を誘発する悪例となっているほか、自動運転車が事故を起こした際、その責任はドライバーにあるのか自動運転システムの開発メーカーにあるのか、といった問題の実例にもなり得る。
限定条件下で自動運転が可能となるが、必要に応じてドライバーがハンドルを握る義務を負う自動運転レベル3が実用化されれば、ウーバーの人為的ミスによる事故と同様のことがあちこちで起こり得ることになる。
その意味ではよい教訓であり、ドライバーに対する啓発とメーカー側への自覚を促すと同時に、明確かつ厳格な走行運用ルールづくりに反面教師としてしっかり生かしてもらいたい。
【参考】関連記事としては「自動運転の事故まとめ ウーバーやテスラが起こした死亡事故の事例を解説」も参照。