画像処理半導体(GPU)大手の米エヌビディアは2018年5月21日、自動運転をテーマに扱った新たな動画を動画投稿サイト「Youtube」で公開した。公開した動画はAI(人工知能)イノベーターを追ったドキュメンタリー企画「I AM AI」のエピソード2で、エヌビディアの先端技術を活用した米トラックメーカーのパッカー(PACCAR)社の取り組みを扱っている。
動画では、機械学習の一分野である「転移学習」をトラック自動運転用のAIに応用し、トラックのブレーキ操作やハンドル操作をAIが正しく実行できるようにする取り組みが紹介されている。
転移学習とは端的に言うなら、特定の領域で学習させたモデルを別の領域に適応させることを指す。データがあまり多く得られない領域でのモデル構築や学習の効率化にメリットがあるとされる。
トラックの場合、自動運転させるためには牽引(けんいん)する荷台も含めて軌道データを計算しなければならない。特に交差点や狭い道路、カーブにおけるトラックに牽引された荷台の軌道は、トラックの自動運転を実現するために非常に重要な要素であると言える。
そこでエヌビディア社とパッカー社は、AIが既に学習済みの乗用車の自動運転データを転移学習に活用し、荷台の軌道を計算するソフトウェアを組み合わせることによって、荷台を牽引するトラックの走行軌道学習を効率的に進めているというわけだ。
世界で進む自動運転トラックの技術開発
トラックの自動運転化に向けて、各社が着実に技術革新を進めている。
すでにアメリカの電気自動車(EV)大手テスラやドイツの自動車メーカー大手ダイムラー、グーグル系ウェイモなどが実用化に向けて動き出している。日野自動車と独フィルクスワーゲン(VW)グループも2018年4月、トラックの自動運転技術開発を含めた戦略的提携を発表している。
【参考】日野自動車とVWグループの提携については「日野とVWが戦略的協力関係構築へ合意 「自動運転×商用車」の将来性も見据え|自動運転ラボ
日本や米国や欧州のほか、中国においても2018年5月25日には中国大手商業企業Suning Holdingsグループが自動運転大型トラックの試験走行を上海で完了させ、商用化へと大きな一歩を踏み出した。
トラックの自動運転化に関しては、トラック運転手の仕事が奪われるのではないかという懸念の声も聞かれる。一方でSuning logistics社は現時点では、同社の自動運転技術はトラック運転手の長時間運転を補助するものと位置付けいている。
パッカー社の研究開発も、あくまでもトラック運転手の負担軽減を目的としているものだ。同社の先進技術開発部門ディレクターであるCirl Hergert氏は、NVIDIA社が公開した動画内で「航空業界では自動創業が登場してからすでに長らく立ちますが、今でも2名のパイロットが登場しています。運送業界も同じ経緯をたどるでしょう」と話して語っている。
自動運転がトラック事故減少に貢献
公益社団法人全日本トラック協会が発表している交通事故統計によれば、トラックなどの事業用貨物車が絡む死亡事故のうち、車側に過失があったケースは2018年1〜4月の期間で78件発生している。前年同期間の85件と比べると現象しているが、依然として毎年100件以上の死亡事故が発生している。
【参考】上記の詳しい事故統計などは、全日本トラック協会が公表している「事業用トラックが第1当事者となる死亡事故件数(平成30年4月末現在)」も参照。
こうした現状の背景には、トラックなどの事業用自動車の運転手の長時間労働が常態化していることもあると言われる。長時間労働の防止などの運転手の労働環境の改善はこれまでも取り組まれてきているが、功を奏している抜本的な改革は行われていないという見方もある。
「国の血液」とも言われる物流を担うトラック。自動運転による技術革新がこうした現状にどのような影響を与えていくのか注視していきたい。