画像から現在位置を推定する「VPS」技術の活用に注目が集まっている。今のところAR(拡張現実)サービスにおける活用が主戦場となっているが、自車位置を特定する技術として自動運転分野への応用にも期待が高まっているようだ。
この記事では、VPSの概要を解説するとともに、自動運転分野への活用可能性に迫っていく。
記事の目次
■VPSとは?
VPSは「Visual Positioning System/Service」の略で、画像情報を活用して位置を特定するシステム、またはサービスを指す。3次元で表された3Dマップをベースに、スマートフォンなどのカメラが捉えた画像情報を照合することで、高精度な位置情報を特定する技術だ。
例えば、ある位置からスマートフォンのカメラをかざすと、画像内にAビルやBビル、C交差点が写ったとする。3Dマップはこうした構造物やインフラなどを網羅しており、AビルやBビル、C交差点が写された画像の構図やアングルなどから、撮影した場所までの距離や角度を算出することで現在位置を導き出す。
構造物やインフラなどは位置的に不変であるため、こうしたものを位置を特定するための基準点・ランドマークとして利用し、撮影画像から現在位置までの距離や方角などを割り出す仕組みだ。
向かって左側にAビル、右側にBビルがある場合、カメラを少し右に展開すればBビルが中心に写る。また、ビルに近づけば近づくほどビルは大きく写り、離れれば離れるほど小さく写る。カメラの焦点距離や画角といった情報を参照すれば、対象物までの距離や方角を推定することが可能で、Aビルなどの対象物にあらかじめ位置情報が付加されていれば、これをもとにより詳細な現在位置を知ることができる。
GPSを補完する位置特定技術として期待されており、GPSが届きにくい地下でも有効に機能させることができる。
ARとの相性が良いVPS技術
カメラ越しの視界を活用したARとの相性が良く、AR技術と組み合わせることで正確な位置情報に基づいたさまざまなサービスが提供可能になるため、現在この分野を中心に技術開発が盛んに進められている。
同様の仕組みは自動運転においても採用されている(後述)が、VPSは既存の普遍的な3Dマップをもとにカメラ画像を用いて位置特定することが可能であるため、情報インフラやシステム整備にかかるコストや手間を低減させられる可能性を秘めているという。
■自動運転における位置特定
自動運転においても高精度3次元地図と照合し位置特定
自動運転車の多くは、モービルマッピングシステム(MMS)などであらかじめ作製した高精度3次元地図をベースに、車載センサーがリアルタイムで得た情報を照合しながら走行する。
高精度3次元地図は主にLiDARで作製された点群で構成されており、車線や標識、道路周辺の構造物など詳細な情報が付加されている。自動運転車は、このマップをもとに細かに走行ルートを策定するとともに、マップに付加されたランドマークなどと車載LiDARやカメラの映像を照合することで、より正確な自車位置を割り出している。
つまり、高精度3次元地図をベースにVPSとほぼ同様の仕組みで位置情報を取得しているのだ。自車位置特定とマッピングを同時に行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術においても、搭載するカメラやIMU(慣性計測装置)などをもとにランドマークとの位置関係を推定する技術が用いられている。
【参考】高精度3次元地図については「自動運転向け地図・マップ、必要な要素や開発企業を徹底まとめ」も参照。SLAMについては「自動運転、認識技術とSLAMを用いた自己位置推定方法とは?(特集:マクニカのスマートモビリティへの挑戦 第5回)」も参照。
VPS導入でコストや労力を低減
ここに改めてVPSを導入する意義は、情報インフラやシステム整備にかかるコストや手間の低減に尽きる。自動運転車向けの高精度3次元地図は事前に走行ルート周辺をくまなくマッピングする作業が必要で、この作業には膨大な手間と時間を要する。
一方、VPSは既存の3Dマップをベースに車載カメラの画像を照合することで成り立つため、システムを簡素化することができ、また取り扱う情報量も少なくすることが可能になると思われる。
■国内でのVPSに関する取り組み
KDDIが衛星写真活用したVPS技術を米Sturfeeと研究
国内でVPS技術の開発に力を入れているKDDIは2019年6月、衛星写真から生成した3Dマップをベースに位置情報を取得するVPS技術を持つ米Sturfeeと戦略的パートナーシップを締結した。
SturfeeはVPSに用いる3Dマップを衛星写真から生成する技術を保有しており、従来のスマートフォンやカメラで撮影された画像を用いた3D生成と比較し、よりシームレスに空間全体を効率的にAR化することが可能という。
KDDIは、このSturfeeの技術を利用した3Dマップを作成し、スマートフォンなどにおけるナビゲーションやEC、ゲームの実証実験に活用するほか、Sturfeeが開発したVPSプラットフォームに自社コンテンツマネジメントサーバーを組み合わせ、VPSサービス導入を検討する法人顧客にサービスの提案を行っていくとしている。
▼KDDI「衛星写真からの3Dマップ生成が特長のVPS技術を保有するSturfeeと戦略的パートナーシップを締結」
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2019/06/24/3883.html
国交省「PLATEAU」でも実証開始
国土交通省が進める 3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化 のリーディングプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」では、ユースケースの1つとして「自動運転車両の自己位置推定におけるVPS活用」の実証が進められている。
三菱総合研究所、凸版印刷、国際航業の3社が実施主体となり、静岡県や東急、名古屋大学などの協力のもと、スマートフォンで撮影したカメラ画像から取得した情報と3D都市モデルの特徴点とを照らし合わせ、車両の自己位置を推定するVPSの自動運転システムへの導入可能性について検証している。
自動運転システムにおける車両自己位置推定としてGNSSやLiDAR、速度計、ジャイロスコープなどの各種センサーや、3Dベクトルデータ、3D点群データといったさまざまなデータが活用されているが、多額のシステム整備費用や、走行環境によって自己位置推定の精度が低下するなどの課題を挙げ、これらの課題解決とともに高精度の自己位置推定を実現し得るかを検証することとしている。
▼国土交通省「PLATEAU」公式サイト
https://www.mlit.go.jp/plateau/
【参考】PLATEAUにおける取り組みについては「位置特定の新技術「VPS」、自動運転向けに検証中!PLATEAUプロジェクト」も参照。
■【まとめ】位置特定技術は最重要、VPSの開発動向を注視
自動運転向けの高精度3次元地図は、「地図」としての機能に加え安全走行に向けたさまざまな情報が付加されているため、仮にVPS技術が確立されても、「地図」としての座を直ちに奪われることはなさそうだ。
ただし、安全を確保しやすい限定領域における低速自動運転など、VPS主導で自車位置を特定し走行する場面が将来出てくる可能性も考えられる。自動運転において位置特定技術は最重要技術の一つであるため、今後の開発の動向を見守りたい。
【参考】関連記事としては「自動運転に必須の7技術まとめ!位置特定技術、AI技術、予測技術など」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)