大手自動車メーカーによる自動運転開発の取り組みは、ラストマイルを担う配送ロボットまで押し寄せている。2021年に入り、トヨタとホンダがこぞって自動配送ロボットの実証に取り組む姿勢を明らかにしたのだ。
ライバル関係にある両社は、無人配送の領域でもガチンコ勝負を繰り広げるのか。この記事では、自動配送ロボットに関する両社の取り組みを解説していく。
記事の目次
■トヨタの取り組み
Woven Cityで自動運転配送ロボット「S-Palette」実証へ
トヨタは、2021年2月に着工した実証都市「Woven City」で自動運転配送ロボット「S-Palette」の実証に取り組む。公式発表されていないが、トヨタのオウンドメディア「トヨタイムズ」の中で構想を明かしている。
Woven Cityにおける物流サービスの取り組みとして、「S-Palette」という自動運転配送ロボットを活用して各住居に宅配便などを届ける内容だ。物流センターで荷物を積み込んだS-Paletteは、専用の地下道を走行して各住居を訪れ、スマートポストに配達物を投函するようだ。
逆に、配送したいものなどをスマートポストに入れておけば、S-Paletteが自動で回収するという。また、スマートポストから室内に配達物を運ぶ小型のロボットの導入も考えているようだ。
S-Paletteがどういった形状のロボットとなるかは不明だが、配達物のIoT化や配送ルートの効率化など、物流におけるオペレーション実証をすでに社内で進めている。
なお、トヨタは東京モーターショー2019でラストワンマイルを担う小型の配達ロボット「TOYOTA Micro Palette」を発表している。こちらも未来の配送ロボットとして注目だ。
【参考】S-Paletteについては「これがトヨタ未発表の「S-Palette」!物流専用の自動運転ロボか」も参照。
自動配送ロボット開発スタートアップNuroに出資
ウーブン・プラネット・グループ(旧TRI-AD)のコーポレート・ベンチャー・キャピタル「ウーブン・キャピタル」は2021年3月、投資の第1号案件として自動配送ロボットの開発を手掛ける米スタートアップNuroに出資を行ったことを発表した。
Nuroは車道を走行するタイプの無人配送ロボットの開発を進めており、これまでにクローガーやドミノ・ピザ、ウォルマートなどとパートナーシップを結び公道実証を行っている。S-Paletteとはコンセプトが異なるが、多角的に自動運転配送を進めていく布石となる可能性もありそうだ。
【参考】Nuroについては「莫大な投資利益の可能性!自動搬送宅配ロボットを開発するNuroの全貌(ソフトバンク×自動運転・MaaS 特集)」も参照。
■ホンダの取り組み
CES 2018発表のAI搭載ロボティクス活用
ホンダは2021年7月、楽天グループとともに自動配送ロボットの走行実証実験を開始したと発表した。ホンダが開発した自動運転機能を備えた車台に、楽天が開発した商品配送用ボックスを搭載した自動配送ロボットで、一部公道を含む筑波大学構内を走行する実証だ。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」の一環で、両社は「個人向け自動走行ロボットによる安全な配送サービスの実現」をテーマに据えている。
車台は、ホンダが世界最大の技術見本市「CES 2018」で発表したAI搭載のプラットフォーム型ロボティクスデバイスを採用している。CES 2018では、移動をサポートするチェア型のパーソナルモビリティなどとともに、人と体験を共有するサポートロボット「3E-C18」や人の生活の可能性を広げるサポートロボット「3E-D18」などを展示した。
3E-C18は、上部のアタッチメントを交換することで物販や移動広告などさまざまな役割を果たすことが可能なプラットフォームとしての機能を備えている。一方、3E-D18は、上部のアタッチメントを交換することで消火活動や農作業、スポーツのトレーニングサポートなど、さまざまな役割を果たす。走破性にも優れており、農場や山間部などの路面状況の悪い場所でも自律的に活動することができるという。
今回実証に使用するモデルはこれらを改良したものと思われ、自動配送機能を備えた車台として活用している。また、電力源にはホンダの交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)」を採用することで、充電時間を気にすることなく配送サービスを継続することができる。
実証では、筑波大学構内の宿舎周辺と一部公道を含む全長約500メートルの区間を、楽天モバイルの通信回線を用いた遠隔監視で自律走行する。技術検証やデータ収集、ニーズ把握を踏まえ、自動配送ロボットを活用した商品配送サービスの提供に向け技術開発を継続していく方針だ。実証期間は2021年7月19日から8月末までを予定している。
■【まとめ】配送ロボットめぐる開発競争は激化の一途
配送ロボットの開発は、これまでスタートアップを中心とした自動車メーカー以外の企業が主力だったが、トヨタとホンダの本格参戦が呼び水となり、世界の自動車メーカーも水面下から浮上して開発に本腰を入れてくるかもしれない。競争は激化の一途をたどりそうだ。
国内では、1、2年前までZMPの独壇場だったが、パナソニックやティアフォーなどが相次いでロボットを発表し、情勢は変わりつつある。ここにトヨタ、ホンダが加わるインパクトは非常に大きい。
トヨタ、ホンダはソリューションの段階からどのようなプロダクトへと進化を図っていくのか。注目すべき点は多々あるが、両社がこの分野でガチンコ勝負を繰り広げる日はそう遠くないのかもしれない。
【参考】関連記事としては「自動配送ロボット、4つの走行形態 2020年内の公道実証は「遠隔監視・操作型」で」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)