2018年度から5カ年計画で進行中の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」の中間成果報告書が、このほど公表された。
第2期では現在「交通環境情報の構築と配信」、「地理系データの流通ポータルの構築」、「仮想空間での安全性評価環境の構築」、「サイバーセキュリティの評価手法の確立」の4つを最重要テーマに据えて実用化・事業化を推進しており、報告書では各テーマを中心に2020年度までの3年間の研究成果や情報が整理されている。
報告書は全200ページ超に及び、「交通環境情報の構築と活用」「自動運転の安全性の確保」「自動運転のある社会」「Society 5.0実現に向けたデータ連携・活用」「国際連携の推進」「その他の成果と取組等」の各項で構成されている。
この記事では、報告書の概要とともに要点を解説していく。
▼SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)中間成果報告書
https://www.sip-adus.go.jp/rd/rd_page03.php
■交通環境情報の構築と活用
SIP第2期においては、交通環境情報の生成に係る技術開発として、民間プローブ情報の利活用の仕組み構築やインフラ協調型自動運転に向けた信号情報提供技術(V2I)の開発、車両プローブによる車線別道路交通情報に係る技術開発、車両プローブ情報を活用した高精度3次元地図更新の開発を進めている。
また交通環境情報の配信に係る技術開発として、協調型自動運転のための通信方式の検討や狭域・中域情報の収集・統合・配信に係る研究開発などを進めている。
高精度3次元地図関連では、ドライブレコーダーを活用し、カメラ画像から道路変化前と変化後の地物を比較検証した。その結果、ドライブレコーダーの走行画像でも目視により抽出を行っていたものにと比べより高精度かつ短期間で変化点の抽出を行えることを確認した。画像収集時の運用要件も整理しており、2022年度以降の実用化が予定されているという。
一方、高精度3次元地図の更新に必要とされるプローブデータの要件についても机上検討し、テストコースでその妥当性を検証した。
■自動運転の安全性の確保
この項では、東京臨海部における実証実験の概要や、安全な自動運転社会の実現に必要とされる調査研究についてまとめられている。
東京臨海部では、3地区においてそれぞれ異なる路車間通信インフラを整備し、有効性の実証と課題抽出を行った。羽田地区では、磁気マーカーの活用や正着制御を含むバスの自動運転実証、臨海副都心地区ではインフラの集中整備による交通信号情報提供の実証、2地区をつなぐ首都高速道路では、合流支援やETC通過支援の実証を行った。
実証は2022年度まで継続的に実施する予定で,引き続き認識・判断技術の困難な条件やインフラに関する検討を進めていく方針だ。
一方、安全な自動運転社会の実現に必要とされる調査研究においては、仮想空間における自動走行評価環境整備手法の開発や、新たなサイバー攻撃手法と対策技術に関する調査研究、自動運転の高度化に則したHMIや安全教育方法に関する調査研究、低速走行の自動運転移動・物流サービス車両と周辺交通参加者とのコミュニケーションに関する研究などが進められている。
■自動運転のある社会
この項では、地域社会における自動運転移動サービスとして、中山間地域における自動運転移動サービスの概要や実用化に向けた環境整備、横展開を支える支援システムの開発のほか、自動運転の社会受容性向上に向けた各種取り組みについてまとめられている。
横展開を支える支援システムでは、地方の自動運転サービスの運行管理者が容易に展開可能なシステムパッケージを開発しており、今後全国の自動運転やモビリティサービスに展開する予定としている。
社会受容性向上に向けては、関連して視野障害を有する人に対する高度運転支援策として医療機関においてドライビングシミュレーターを用いたデータベースを構築し、2つの眼科で「運転外来」を開始している。
■Society 5.0実現に向けたデータ連携・活用
地理系データは、自動運転のみならずMaaSや災害発生時の避難支援、人流・物流のマネジメントなどへの活用にも期待されており、分野間のデータ連携・データ活用が不可欠となるSociety 5.0の実現に向け、自動運転などに利用する交通環境情報の生成・配信に加え、データビジネス市場の創出を目的に地理系データの流通を促進する交通環境情報ポータルの構築を進めている。
交通環境情報ポータルサイト「MD communet」は、交通環境情報を一元的に集約しビジネス創出のためのビジネスマッチングサイトとしてすでに公開されている。
このほか、モビリティ関連データの利活用促進に向けた環境整備として、データの取り扱い方法や業界で取り組むべき事項の観点から対応策を検討しており、検討結果は「モビリティ分野におけるデータ取り扱いに関するガイドライン」や「モビリティ分野における官民データ連携提案書」に取りまとめられている。
■国際連携の推進
国際関連では、ダイナミックマップや安全性評価、コネクテッドカーなど7つの国際連携重点テーマを設定し、テーマごとに国際連携テーマリーダーをアサインするとともに国際連携体制を構築し、活動の推進を図っている。
このほか、ドイツやEUと連携した取り組みや、イニシアティブ向上などに向け開催している「SIP-adusWorkshop」と冠した国際会議などについても言及している。
■【まとめ】各事業のさらなる進展に期待
膨大なボリュームだけにすべてに目を通すには根気を要するが、現状の自動運転開発の詳細を知ることができる貴重な資料となっているため、ぜひ拝読してもらいたい。
計画期間の2018~2022年度は自動運転にとって激動の時代となっているが、残り2カ年余り。各事業のさらなる進展に期待したい。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「自動運転の実現時期、日本政府の計画をセグメント別に解説」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)