自動運転の実現に必要不可欠な、歩行者やほかの車両などの物体との距離を認識する技術について、米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)が公式ブログでこのほど取り組みを発表した。
その取り組みとは、1台のカメラで撮影する2次元画像から、3次元情報である距離の予測をする技術の精度を向上させるシステムの開発だ。正確な距離予測システムを構築し、加減速やハンドル操作といった自動運転システムに活用するのが目的のようだ。
■単眼カメラの正確な距離予測には課題があった
人間は2つの目でとらえた解像度の高い画像を、脳内にて自動で立体処理することで対象との距離を測っている。しかし、自動運転車に2台のカメラを搭載して同じことをしようとすると、少しのタイミングのズレによって誤差が発生してしまうという。
こうした問題が発生しないように、NVIDIAは1台のカメラで対象物までの距離を検知する方式を採用している。しかし、1台のカメラで正確な距離を予測するには別の課題があるという。
1台のカメラで撮影した画像から対象物までの距離を計算する従来の方式では、地面が平らなことを前提としていた。しかし、実際に車が走っている道路がずっと平面ということはありえない。自動運転車が坂道を走ると、正しい計算ができなくなってしまう。
ADAS(先進運転支援システム)や自動運転システムは安全に作動するために周囲の対象物との正確な距離情報が必要となる。間違った距離の予測はオートクルーズや自動車線変更の前後確認など、さまざまなシステムの誤動作につながりかねない。実際の距離よりも遠いと誤認識すれば、緊急自動ブレーキが作動しないという危険な事態も考えられる。
■LiDARの距離情報でリアルタイムに学習可能
そこで活躍するのがディープラーニング(深層学習)の技術だ。NVIDIAは1台のカメラで正確な距離を予測するため、レーダーやLiDAR(ライダー)といったセンサーとディープラーニングの技術を使って距離予測のトレーニングを行っているという。
レーダーはパルス電波を照射して、周囲の物体から跳ね返ってきた電波をキャッチして距離を検知する技術だ。LiDARはレーダーのパルス電波を赤外線に置き換えたシステムで、周囲の状況を3Dでとらえることができる。「自動運転車の目」とも呼ばれるコアセンサーの一つだ。
これらのセンサーからの信号を入力することで、システムは地面が平らではないときも正確な距離情報を得ることができる。このトレーニングを行うことで、傾斜のある地面を走っている時でも正確な距離を1台のカメラで予測できるようになったという。
このトレーニング技術の特徴は、センサーから入力される距離情報の変換が自動化されているため、手作業が必要ないということだ。走行中に自動で収集される距離データを活用して、ディープラーニングによるシステムの学習を行うことができる。
走行距離に比例してシステムの精度が上がるため、自動運転車の実用後も長い距離を走るほど精度が上がる可能性もある。カメラが1台で済めばコストの削減や、故障のリスクが下がるといったメリットもありそうだ。
【参考】NVIDIAの自動運転への取り組みは「物体の未来の動きを予測!自動運転におけるRNN技術、NVIDIAの最新の取り組み」も参照。