自動運転の実証実験が国内外で活発化している。安全走行に向けてはAI(人工知能)にさまざまなデータを学習させる必要があるが、そこでポイントとなってくるのが、学習させるためのデータのマネジメントだ。
センサーで得るデータは膨大な量となるため、自動運転AIや車載システムを開発する企業にとっては、自動運転のテスト車両が得るデータをどう適切に扱い、AIにどう効率的に学習をさせるかが重要となる。
こうしたデータのマネジメントで役立つソリューションを提供しているのが、データ管理大手の米NetAppだ。自動運転ラボはNetAppのエンジニアリング担当であるロバート・ナギー(Robert Nagy)氏にオンラインインタビューし、NetAppの強みや展望を聞いた。
【ロバート・ナギー氏プロフィール】NetApp テクニカルディレクター 自動車担当/IT業界で30年以上、自動車業界向けには25年以上の経験を持つ。2005年にNetAppに入社後は、北米を中心に自動車業界を担当するSEおよびマネージャーとしてお客様の技術支援に従事。直近の3年は、ADAS/自動運転のデータマネジメントソリューションの設計に注力している。NetApp入社前は、11年間に渡り、Sun Microsystems にてクラスタおよびストレージシステムのエキスパートとして活躍。
記事の目次
■従来から製造業・自動車産業向けにソリューションを提供
Q 御社の自動車産業向けのソリューション提供の取り組みは、世界的に自動運転開発が進んだことで始まったのですか?
弊社のデータ関連ビジネスは昔から製造業に向けても取り組んできました。製造業では生産データなど大量なデータを扱いますので、製造業の代表格である自動車産業向けのビジネスには昔から注力してきたわけです。そのためNetAppは自動車産業との関わりが深い会社であると言えます。
■自動運転に関連して3つの取り組みを展開
Q 自動車産業における新技術とも言える「自動運転」に関連しては、どんな取り組みを進めているのか教えて下さい。
大きく分けて3つあります。「大量のデータを管理するソリューション」「データマネジメント」「物理的なデータ移動をスマートにすること」です。
1つ目は、大量のデータを管理するソリューションです。自動運転においては扱うデータが大量になるので、従来とは全く違う次元のデータ管理が必要です。仮説としてですが、1台あたり1日8時間、250日走らせてテストすると、2000時間分の動画がたまります。
自動運転では1台につき5台ほどカメラを使用することもありますが、カメラの性能自体も上がっており、カメラのデータ量だけで1年あたり1PB(ペタバイト)使用することになります。そのほかのセンシングデータなども含めると、2PBほどになると推定しています。
従来とは規模の違うデータ量になりますので、そこでの最適なデータソリューションを提供することに力を入れています。
Q 「データマネジメント」と「物理的なデータ移動をスマートにすること」についてはいかがですか?
「データマネジメント」についてですが、まずなぜ前述したような大量のデータを取る必要があるのかというと、「自動運転レベル4(高度運転自動化)」などの開発フェーズにおいては、自動運転AIを賢くする必要があるためです。
【参考】自動運転レベル4については「自動運転レベル4の定義や導入状況を解説&まとめ 実現はいつから?|自動運転ラボ」も参照。
大量のデータを効率よくAIの学習に活用するには、データをカテゴライズして分類し、ピンポイントで活用できるように細分化する「インデクシング」という加工が必要です。ただデータを取得するだけでなく、加工するデータマネジメントにも力を入れています。
ちなみに自動運転を含む次世代自動車技術におけるAIの活用方法や課題などについては、弊社のホワイトペーパー「自動車業界のAI」でも詳しくまとめていますので、ご関心がある方はぜひご覧いただけましたらと思います。
続いて3つ目の「物理的なデータ移動をスマートにすること」ですが、車載側であるエッジで取得した大量のデータは、そこからクラウドに飛ばして、よりハイスペックな自社のサーバーに持っていって加工します。そしてそれを再度クラウドに戻す作業を「ラウンドトリップ」と言います。
つまり、データは物理的に場所の移動をします。自動運転のデータはラウンドトリップする特徴があるため、データの物理的な移動をスマートに短くできれば、結果的に低コスト化にもつながります。
自動運転のデータを活用する自動車メーカーや開発会社は、大量のデータを素早く取り出し、自由自在に好き放題にいじれ、欲しいデータだけを簡単に取り出し管理したい、というデータへの課題を持っています。
弊社はこうした自動運転特有の課題に対し、大量のデータを取得して活用しやすくマネジメントし、複合的なストレージをシームレスに組み合わせてデータの物理的な移動も容易にできるよう尽力しています。
■GDPRに則ってマスキング処理、AIで自動化
Q 自動運転車が実際に市販車として普通に走ることを想定すると、自動運転データは大量であるという特徴以外に、個人情報を含むセンシティブなものだとも言えます。このような点に対しては、どう向き合っているのですか?
欧州の個人情報保護の枠組みとして「GDPR」(General Data Protection Regulation ※日本語では「一般データ保護規則」)が2018年5月に施行されています。個人データを扱う事業者は情報を分類し、GDPRで保護の対象となるデータにはGDPRに則ってマスキング処理を施します。
保護すべきデータとそうでないデータを分類するため、取得した大量のデータをすべてチェックするのに手作業ではとても追いつかず、効率のいい分類が求められます。弊社は2年前にGDPRの分類ができる企業を買収したことによってAIを活用した自動化ツールを得て、ワンストップで自動分類できるようになりました。このような個人情報保護への対応力という点でも自動運転業界にお役に立てると考えています。
■スマートなOTAを実現、通信会社との協業も
Q 自動運転が普及していくと、クルマのOSをアップデートするOTA(Over The Air)が必然になるかと思います。そうなると再度エッジであるクルマ側にデータを転送する必要がありますよね。御社はOTAでの強みはありますか?
セキュリティに優れスピード感もあり、かつ必要なデータだけを抽出して転送させることで、スマートなOTAが実現できるよう取り組んでいます。データを預かるだけの会社ではなく、データを活用するために、転送の部分においても取り組んでおり、通信会社との協業など積極的に進めています。
【参考】関連記事としては「Over The Air(OTA)技術とは? 自動運転車やコネクテッドカーの鍵に」も参照。
■NetAppにとってクラウド大手は「協業する仲間」
Q トヨタがアマゾンのクラウドサービス「AWS」を採用したり、ソニーがAWSを活用してEV試作車「VISION-S」を開発したりと、ビッグデータを管理するという観点からするとビッグネームが幅をきかせていますが、御社はAWSとの差別化をどうお考えですか?
自動運転車では大量のデータを取得しますが、すべてをクラウドで預かるわけではありません。使いたいときにだけ使えるようにクラウドに置いておくものももちろんありますが、保管し続けておくデータは自社サーバー(オンプレミス)などの非クラウドで大量に保管します。
弊社はオンプレミスとクラウドを双方向に行き来しやすいようなワンストップソリューションを提供していますので、まさに冒頭お話した「ラウンドトリップ」の効率・スピード・コストを最適化できるのが強みです。そういう意味ではAWSさんとは協業する仲間でもあり、AWSさんを含めて、自動運転やMaaSに関するビッグデータ全体をマネージメントする立場でもあると自負しています。
弊社は総合データソリューションプロバイダとして自動運転データの特徴にフィットした企業で、そもそもAWSさんとは立っている土俵が違うという説明が分かりやすいのではないでしょうか。
■フリートマネージメント領域への参入と新たな働き方の提供
Q 自動運転はマーケットの広がりが無限に近く、自動車メーカーだけの市場ではないという性質もありますが、今後御社が力を入れていきたい領域はありますか?
1つ目は「フリートマネジメント」の領域に注力していきたいと思っています。
例えばタクシーはフリートマネジメントが必要な事業の代表例です。どの車がどこにいるかを運行管理するのがフリートマネジメントで、自動運転化してビッグデータをAIで分析することで、より効率良く収益を最適化することができます。これは宅配業者にも同じことが言えます。人や物を輸送するサービス会社は、今後ビッグデータの活用によるフリートマネジメントが肝となるため、そのような企業と一緒にビジネスをしていきます。
2つ目は自動車産業においての新しい働き方の提供です。
秘匿性の高いデータを扱う自動運転開発において、従来エンジニアは外から閉ざされた強靭に守られたサーバーセンターへのアクセス権のある専用のオフィスに出社し業務をこなしていました。そこで、弊社は「モダンワークプレイス」というバーチャルデスクトップサービスを用意しました。
最新のセキュリティの高い環境をクラウド下でも実現したことによってエンジニアのリモートワークが可能となりました。これまでは「エンジニアがデータのもとへやってくる時代」でしたが、今後は弊社のソリューションを通じて、「データがエンジニアのもとにやってくる時代」を実現していきます。
ウィズコロナ(With Corona)の状況が続く中、新しい働き方を提供することは弊社のミッションでもあると思っています。
■【取材を終えて】クラウドとエッジを包括したデータマネジメントを提供
インタビュ―を通じ、クラウドだけでなくオンプレミスやエッジ側も包括したデータマネジメントに取り組むNetAppの姿勢を感じた。総合データソリューションプロバイダであるNetAppが、今後日本市場や世界市場を舞台にどのように取り組んでいくのか、引き続き注目していきたい。
ちなみにNetApp社は「ウェビナー」でデータマネジメントに関する内容について分かりやすく触れられている。今回のインタビュー記事を合わせて、ぜひチェックしてみてほしい。
>>特集第1回:自動運転実証が国内外で活発化!データマネジメント上の課題は?
>>特集第2回:自動車会社はコネクテッドカーで集めたデータを、どう活用している?
>>特集第3回:自動運転AIとデータの関係性は?データマネジメントの重要性