パーク24グループ傘下の国内カーシェア事業最大手タイムズ24(本社:東京都千代田区/社長:西川光一)。巧みなビジネスモデルで急伸し、国内カーシェアの普及に大きく貢献するほか、次世代モビリティサービスを担う一社として大きな期待が持たれている。
同社のカーシェア事業とはどのようなものか。そして将来に向けどのようなモビリティ戦略を立てているのか。業界のリーディングランナーの足跡をたどってみた。
記事の目次
■パーク24(タイムズ24)の会社概要
パーク24は1971年、駐車場関連機器の製造や販売を手掛けるニシカワ商会をルーツとする。同社の駐車場の保守・運営管理部門を分離独立させる形で1985年にパーク24が設立され、駐車場事業を中心に規模を拡大していく。
2009年、マツダレンタカーを子会社化したことで転機が訪れ、事業を引き継ぐ形でレンタカー事業やカーシェア事業への参入を果たした。
2018年10月末時点における資本金は197億5400万円で、同年10月期(通期)における売上高は約2985億円。駐車場運営やカーシェアリングを手掛けるタイムズ24、レンタカー事業のタイムズモビリティネットワークスなど海外含めグループ13社を抱える。
■カーシェア事業の歴史
タイムズカープラスの誕生:マツダレンタカーの事業を継承
2009年にマツダレンタカーを子会社化し、レンタカー事業とともにマツダが2005年から行っていた「カーシェア24」を引き継ぎ、カーシェア事業に着手。翌年、名称を「タイムズプラス」に変更したほか、2011年に駐車場運営部門として独立したタイムズ24株式会社にカーシェア事業を移管した。
なお、名称は2013年にタイムズカープラスに変更され、2019年5月からは新たにタイムズカーシェアに変更される。
カーシェア事業の概要:効果的なビジネスモデルで急伸
駐車場事業と引き継いだレンタカー事業により各地に基盤と車両を備えることになった同社。2009年には車両数45台、ステーション数17カ所、会員数860人だったが、右肩上がりに数字を伸ばし、2012年に会員数10万、2015年に50万人を突破し、2018年6月には100万を突破した。同時点における車両数は2万1500台、ステーション数1万600カ所にのぼり、全都道府県を網羅している。
膨大なステーション数と、レンタカー事業や駐車場事業などとの連携サービスが魅力で、国内カーシェア業界では圧倒的な強さを誇る。
時間貸駐車場「タイムズ」にステーションを開設することで駐車場の稼働率向上やコストの抑制を図るビジネスモデルで、今後も伸びることが見込まれるカーシェア事業に対し「認知度の向上」「規模の拡大」「会員の獲得・利用の促進」の3つの戦略を掲げている。
なお2018年4月時点の会員構成比は、20代以下が22.1%、30代27.2%、40代27.7%、50代23%で、男女比は男性76.2%、女性23.8%、法人・個人比では法人39.2%、個人60.8%の状況となっている。
■タイムズカープラスの利用方法
利用方法はかんたんで、大きく①入会②予約③利用④返却——の4ステップに分けることができる。
タイムズカープラスに入会すると、会員カードが送られてくる。カード発行料として1550円必要。月額基本料金は1030円だが、カーシェア料金は月額1030円まで無料となるため、毎月利用することを前提に考えれば月額基本料金は実質無料となる。
予約はパソコンやスマートフォンから行う。利用するステーションを検索し、希望する車種の空き状況を確認する。あとは、車種と料金プラン、利用開始、返却日時を入力すれば完了となる。
車両は全てIT管理されており、利用時は、予約した車両に会員カードをかざすとドアが解錠されるので、助手席の前のグローブボックス内にあるキーボックスからクルマのキーを取り出して出発する。給油や洗車は、燃料計が半分程度に減った際に、車内に設置されている専用の給油・洗車カードで任意で給油・洗車する(自己負担なし)。給油・洗車を行うと、15分の料金割引などを受けることができる。
返却時は、所定の駐車スペースにクルマを停めてキー返却処理を行い、降車後に会員カードをかざして施錠する。精算は、登録したクレジットカードで行う。
シェア料金はベーシック車が15分206円、プレミアム車が同412円で、6時間パック4020円、60時間パック2万円、レイトナイトパック(24時~翌9時)2060円など各種パックメニューも用意されている。なお、料金には対人・対物補償や車両補償など一定の補償料金が含まれている。
■ほかのさまざまな取り組み
Times Car PLUS×Ha:mo:小型モビリティでワンウェイ型シェアリング実証
小型EVパーソナルモビリティ「TOYOTA i-ROAD」を活用したワンウェイ型シェアリングサービス「Times Car PLUS TOYOTA i-ROAD Drive」の実証実験を2015年にトヨタ自動車と東京都内で開始。回遊性・自由度に優れた1人乗りのEVを使用し、所定のステーションでワンウェイ(乗り捨て)型で利用することができるサービスで、以後「Times Car PLUS×Ha:mo」と名称を変えて実証実験を継続している。
車両は乗車定員1名で最高時速60キロ、1回の充電で約50キロメートル走行できる小型モビリティで、公共交通とのより良い連携を目指して厳選した23カ所のステーションで利用することができる。
なお、Ha:moはタイムズ24との取り組みのほか、多くの協力企業のもと愛知県豊田市や沖縄県、タイのバンコクでも観光地周遊や交通課題の解決に向け取り組みが進められている。
レール&カーシェア:交通系ICカードと連携し移動を便利に
カーシェアの普及を通じて鉄道の利便性向上と利用を促進する取り組みで、ラストワンマイルを担うMaaS(移動のサービス化)の一形態といえる。
「Suica」などの交通系ICカードでカーシェアリング車両のドアロック解除や料金優待などが受けられるサービスで、「Suica」(JR東日本)、「PASMO」(京急線・小田急線)、「ICOCA」(JR西日本)、「はやかけん」(福岡市交通局)、「icsca」(仙台市交通局)、「nimoca」(西鉄電車)、「EX-ICカード、プラスEXカード」(JR東海の東海道・山陽新幹線)が連携し、カーシェアと鉄道間の便利な移動に一役買っている。
このほか、高速バス&カーシェアやホテル&カーシェア、商業施設と連携したドライブチェックインサービスなど、移動サービス間の連携や利便性の向上を図る取り組みを促進しているようだ。
異常挙動を自動検知するセンサー導入 安心安全なシェア環境構築
会員が安心してサービスを利用できるよう、駐車に特化した「タイムズレッスン」の開催や、バックモニター・アラウンドビューモニター搭載車両の配備を進めるなど、運転経験の少ない人も利用しやすいようさまざまな取り組みを推進しており、2017年6月には、通常走行では発生しない衝撃を検知するセンサーを導入。車両の異常挙動を検知すると、カーナビの画面にドライバーの安全を確認する案内や、異常発生時の対処法を表示する。
また、カーシェア利用中の急減速・急加速の発生状況などを検知したデータを地図上にマッピングし、道路上の運転危険箇所の把握に活用するほか、センサーにより検知した衝撃の大きさや、発生場所に関するデータについても収集・分析し、交通安全対策を推進するためのビッグデータとして活用することも検討しているという。
世田谷区がタイムズカープラスを公用車に 自治体との連携進む
東京都世田谷区役所がタイムズカープラスを試験的に公用車として採用することが2018年10月に発表された。環境負荷低減の推進や今後の本庁舎などの整備における公用車削減、公用車の維持管理費の削減などを目的としている。
一部自治体では、タイムズカープラス車両を庁舎駐車場内に設置し、職員と地域住民が共用するなどカーシェアの特性を活かした取り組みも行われており、今後、自治体と連携した公用車への採用など公共的役割にも注目が集まりそうだ。
■今後の展開
新モビリティサービス「タイムズカー」導入へトライアル実施
無人サービスのカーシェアリングと有人サービスのレンタカーそれぞれの強みを組み合わせた新しい形のモビリティサービス「タイムズカー」の本格展開に向け、一部ステーションで2019年1月からトライアルを開始している。
チャイルドシートなどの充実したオプションや豊富な車両バリエーション、予約のしやすさなどレンタカーのメリットと、最短15分から利用可能なカーシェアのメリットなどを融合した新たなモビリティサービスで、レンタカー・カーシェアの需要を喚起していく。
今後、トライアルの中で実施サービスの検証・見直しを行い、本格サービス化に向けて準備を進め、2019年10月には1万台規模での提供を目指すこととしている。
【参考】新タイムズカーについては「パーク24、新たなモビリティサービス「タイムズカー」 カーシェアとレンタカーのいいとこ取り」も参照。
小田急MaaSでシームレスな移動と利便性を追求
小田急電鉄株式会社、、株式会社ヴァル研究所、株式会社ドコモ・バイクシェア、WHILL株式会社の4社と連携し、多様な交通・生活サービスなどを統合したアプリなどを含む「小田急MaaS」の実現に向け、システム開発やデータ連携、サービスの検討などを進めていくことを2018年12月に発表した。
計画では、ヴァル研究所の検索エンジンとアプリを連携し、小田急グループの鉄道やバスなどの交通データのほか、タイムズ24のカーシェアサービスのデータ表示、ドコモ・バイクシェアのサイクルポートのデータ表示を可能にするほか、公共交通機関を降りた後のラストワンマイルの移動手段として、WHILLのパーソナルモビリティとの連携も行う予定。
2019年末までに箱根エリアなどで実証実験を行うこととしており、各エリアの交通サービスの情報提供のほか、小田急グループの商業施設などとも連携し、おすすめ店舗や割引優待を提供するなど、公共交通機関の利用とともに商業施設などの利用促進も目指すこととしている。
【参考】小田急MaaSについては「「小田急MaaS」アプリ実現へ、2019年に実証実験実施」も参照。
カーシェアリング官民共創実証事業に着手
いわき市、JR東日本水戸支社、常磐興産株式会社とカーシェアリング官民共創実証事業を2019年3月27日から開始している。
シェアリングエコノミーの普及・促進や交通利便性の向上を図ることにより、交流人口の拡大や地域の活性化などにつなげることを目的としており、4者が連携し、いわき駅や湯本駅、スパリゾートハワイアンズといった交流拠点にカーシェアステーションを設置するほか、観光振興に向けたツーリズム企画など、さまざまな取り組みを実施して地方創生推進モデルの構築につなげていく構え。
■【まとめ】より高いレベルのMaaS連携やC2C型カーシェアへの対応に注目
将来的にマイカー所有率が下がり移動サービスとしての認識が強まると思われる自動車業界において、カーシェアは最有力のコンテンツであり、同社のような駐車場事業と連動・連携したビジネスモデルは、カーシェア事業にとって大きな強みといえるだろう。
また、近年は交通事業者との連携や自治体との連携など深め、MaaSやラストワンマイルを意識した取り組みにも大きく力を入れ始めており、カーシェアが有するポテンシャルをどんどん引き出している印象だ。
今後、個人間によるC2C型カーシェアへの対応や、MaaSの一環として他の交通事業者との決済面でのプラットフォーム化などを求められる可能性もあり、B2Cカーシェアの代表としてどのような手を打つのか、注目したい。
【参考】関連記事としては「カーシェアリングとは? メリットやデメリットは? MaaSの一端を担うサービス」も参照。