欧州の双頭・BMWとダイムラーによる「リーチナウ」の可能性とは?

10億ユーロ投資し5分野でJV設立

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出典:BMWプレスリリース

独BMWグループとDaimler AG(ダイムラー)がモビリティサービスの領域で統合し、5つの合弁会社の設立を正式に発表した。10億ユーロ(約1260億円)以上を投資し、カーシェア、ライドヘイリング、パーキング、チャージング(充電)、マルチモダリティの各領域で両社が展開するサービスを連携・統合する。

既存のオンデマンドモビリティ製品を組み合わせて戦略的に拡張する計画で、革新的なモビリティサービスのリーディングプロバイダーを目指し、成長市場における競合他社との競争を勝ち抜く構えだ。

将来を見据えたMaaS(移動のサービス化)、そしてCASE (コネクテッド、自動運転、シェアリング・サービス、電気自動車)戦略を本格化させた両社の取り組みはどのようなものか。統合5社の事業に触れながら、その可能性を追ってみた。

■5分野の概要
REACH NOW(リーチナウ):オンデマンドプラットフォームを提供

さまざまな移動手段をつなぐマルチモーダル・オンデマンド・モビリティサービスを提供するプラットフォームを手掛ける、MaaSを象徴する事業領域だ。

利用者に対し、アプリでカーシェアやサイクルシェア、バスや電車といった公共交通機関などさまざまな選択肢を提示し、予約や決済サービスも提供する。

CHARGE NOW(チャージナウ):EV向け充電ステーションサービスを提供

電気自動車(EV)向けの公共充電ステーションの利用促進に向け、Digital Charging Solutions GmbHが手掛ける既存のサービスCharge Nowを強化していく構えで、10万を超える世界中の充電ステーションを網羅したネットワークを駆使し、決済を含めたさまざまなサービス展開を図っていく。

EVの利便性を高めて普及を促進し、移動方法にEVを容易に組み込むことができるような環境整備にも貢献していく。

なお、両社は独フォルクスワーゲングループ、米フォードモーターとともに共同出資会社「IONITY(イオニティ)」を2017年に立ち上げ、欧州各地で超急速充電ステーションの設置を進めている。欧州においてEV化の波は待ったなしの状況で、各社がEV開発に力を入れるとともに、インフラ整備が喫緊の課題となっているようだ。

PARK NOW(パークナウ):駐車場に関する総合サービスを提供

1000都市以上でデジタル・パーキング・ソリューションを提供しているBMWの子会社ParkNowやParkmobileなどのサービスを強化していく。

駐車場の検索や予約、キャッシュレス決済サービスをはじめ、路上を使ったオンストリート・パーキングサービスなどを行っており、よりかんたんに駐車場を見つけ、スマートに利用できるシステム開発を手掛けている。

駐車スペースを求めて走り回る走行時間を削減することで道路交通量を大幅削減し、都市部の交通環境の健全化などにも取り組んでいる。

FREE NOW(フリーナウ):タクシーをはじめとした配車サービスを提供

ダイムラー系のMytaxiやChauffeur Privé、Clever Taxiといった世界各地のライドヘイリングの配車サービスを手掛ける。タクシーや電動スクーター、運転手付きの送迎車などがあり、世界で2100万人以上の利用者と25万人以上のドライバーが登録している。一部では、タクシーを相乗りするライドシェアリングサービスも手掛けている。

Mytaxiなど既存サービスの名称がFREE NOWに統一される可能性もありそうだ。

SHARE NOW(シェアナウ):カーシェアリングサービスを提供

BMWのDriveNowやダイムラーのCar2Goといったオンデマンド・カーシェアリングサービスを手掛ける。両サービス合わせて400万人以上が世界の31都市で2万台の車両を使用しているという。

スマートフォンのアプリを使用することで、車の予約や支払いをかんたんに済ますことが可能なサービスだ。

■リーチナウに秘める可能性

リーチナウはもともとBMWが米国で展開するカーシェアリングサービスの名称(Reach Now)で、2018年からは配車サービスをはじめとした各種サービスの試験運用なども行っている。これと、ダイムラーが2015年に開始したMaaSプラットフォームサービス「moovel」を合わせるような形で、シームレスな移動の実現を図っていく見込みだ。現時点で、670万人を超えるユーザーがいるという。

このリーチナウがMaaSの中核となり、自動車や自転車、バス、電車などあらゆる交通手段をサービス化し、シームレスにつなぐ役割を担うことになるが、さらに、チャージナウの充電サービスやパークナウの駐車場サービス、フリーナウのライドヘイリングサービス、シェアナウのカーシェアサービスなど、他の4事業を統合するプラットフォームになり得る可能性とともに、これから誕生するであろうさまざまなコネクテッドサービスにも対応できる可能性がある。

ダイムラーは、独自動車部品大手のボッシュや米半導体大手のNVIDIAとともに2019年中に自動運転タクシーの開発・実証を進めることが報じられているが、実用化の際にリーチナウが絡んでくる可能性も十分考えられる。

このような新しいサービス展開に対応可能なプラットフォームになり得るかどうかが今後のカギで、ダイムラーが提唱するCASE戦略において重要な役割を果たすことになりそうだ。将来、ドライバーを必要としない自動運転車がコネクテッド=無線通信で常時接続されたとき、自家用車のみならず、各種シェアリングサービスをはじめとしたさまざまなサービスが誕生、進化することが予想されるが、こうしたサービスを統括する役目をリーチナウが担うことになれば、最重要プラットフォームとして重宝されることは間違いない。

CASEの中で最もマーケット規模が大きくなることが予想される分野であり、次世代の自動車産業の在り方を象徴するサービスになりそうだ。

【参考】BMWの自動運転戦略については「BMWの自動運転技術や戦略は? ADAS搭載車種や価格も紹介」も参照。

■自動車メーカー主導のプラットフォームサービスに注目

自動運転開発に力を入れつつも、早くからモビリティサービス分野に注目し、さまざまな事業展開を行ってきた両社。ドイツを本拠地とする自動車メーカーとしてライバル関係を維持しつつ、次世代のモビリティサービスに向けしっかりと握手を交わした格好だ。

次世代の分野においてはスタートアップをはじめとする新規参入組の台頭が著しく、既存の自動車メーカーが持つ優位性を発揮しにくい環境が構築されつつある。特にモビリティサービス分野におけるプラットフォームはIT系などが幅を利かせており、自動車メーカー主導によるリーチナウの動向には大きく注目していきたい。

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