サウジアラビアで、イスラム教徒の「ハッジ(大巡礼)」のために自動飛行の空飛ぶタクシー(エアタクシー)を実用化する計画が明らかになった。車両は中国製を使用。ハッジとは、世界中のイスラム教徒が年に1度サウジアラビア西部のメッカにある聖地を訪れる大巡礼のことだ。
この実用化にあたり、試験飛行が行われたという。巡礼のために空飛ぶタクシーを運航させ、しかも自動運転のエアタクシーということで、世界でもかなり革新的な取り組みと言える。
■巡礼のための自動運転エアタクシー
サウジアラビア当局は聖地巡礼の体験を向上させるため、自動運転エアタクシーを導入することを決めた。このプロジェクトは、サウジアラビアの運輸・物流サービス大臣と民間航空総局(GACA)の理事長が主導するもので、巡礼中の交通手段に革命を起こすことを目的としているという。
エアタクシーは2026年までに導入される計画で、巡礼者はサウジアラビア第2の都市であるジッダとイスラム教最大の聖地であるメッカを20分以内で移動できるようになる。なお通常この区間は、バスやタクシーの場合、約1時間〜1時間半を要する距離になる。
サウジアラビア国営通信社(SPA)によると、エアタクシーは聖地巡礼者の移動のほか、緊急医療対応の迅速化や、物資の配送を容易にするものだという。運輸・物流サービス大臣によると、こういった用途で用いられる航空機として、民間航空当局から認可を受けたのは世界初のようだ。
使用される機体は、中国EHang(イーハン)のeVTOL(電動垂直離着陸機)「EH216-S」だ。この機種は2人乗りで最高時速130キロ、航続距離は30キロとなっている。
試験飛行は2024年6月12日に行われ、運輸・物流サービス大臣のほか副大臣やGACA社長、関連団体の代表者などが見学した。
【参考】関連記事としては「eVTOLとは?「空飛ぶクルマ」の類型の一つ、開発盛んに」も参照。
■イスラム教の大巡礼「ハッジ」
今年のハッジは、6月14〜19日に行われている。1年に一度行われるハッジでは、毎年約200万人が聖地メッカへ巡礼する。
サウジアラビアでは、ハッジにより二酸化炭素の排出や大量の廃棄物、水やエネルギーの消費により、環境問題が深刻になっているという。
運輸・物流サービス大臣は、エアタクシーを就航させることは、AI(人工知能)を活用した最先端の輸送技術と環境に優しいモデルを統合するための幅広い取り組みの一環であると語っている。エアタクシーは電動のため、二酸化炭素排出量の削減には貢献するであろう。しかし定員2人ということを考えると、富裕層に限定されたサービスになりそうだ。どのように実用化されるのか気になるところだ。
■自動運転の実装に積極的な中東
サウジアラビアは、自動運転をはじめとする先進技術を積極的に取り入れている国として知られている。
中国の自動運転ベンチャーWeRide(文遠知行)は2022年9月に、中東で初の完全ドライバーレスでの自動運転バスの試乗会を、サウジアラビアの首都リヤドで行った。自動運転レベルは「4」であった。また空飛ぶクルマ開発の独Volocopter(ボロコプター)は2023年6月、サウジアラビアでのeVTOLの特別な飛行許可を得て、同国初の試験飛行を行っている。
そのほか、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでは米GM傘下のCruiseが自動運転タクシーをテスト走行させたり、WeRideがUAEから自動運転走行を認める国家ライセンスを付与されたりするなど、特に米中の企業が中東へ進出する取り組みが目立つ。
サウジアラビアでの巡礼に用いられる自動運転エアタクシーの実用化はいつになるのか、引き続き注目していきたい。
【参考】関連記事としては「自動運転、アメリカも中国も「中東」でセールス強化 オイルマネーに照準」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)