Uber Eats Japanと三菱電機が日本国内でのロボットデリバリー事業に着手する。米スタートアップCartken(カートケン)のロボットを導入し、2024年3月中に東京都内の一部地域でサービスを開始する計画だ。
本家の米Uber Technologiesは、すでに米カリフォルニア州で無人配送ロボットを活用したデリバリーを展開しており、米Serve Roboticsと最大2,000台のロボットを導入する契約を交わすなど事業を加速している。
その一方、米国ではこうしたロボットが襲撃される事件などが相次いでいる。治安や民度に差があるにしろ、日本でも標的にされる可能性はある。
デリバリーロボットをめぐる事案を参照し、ロボットフレンドリーな社会構築に向けた課題に迫ってみよう。
記事の目次
■Uber Eats Japanと三菱電機の取り組み
3月中に東京都内でサービスローンチ
Uber Eats Japanと三菱電機は2024年2月、Cartkenとともに自動配送ロボットを活用したオンラインデリバリーサービス提供に向け業務提携したと発表した。
3社によるロボットデリバリーサービスは、3月中に東京都内の一部地域で開始する予定としている。Cartkenが開発・設計したデリバリーロボットを三菱電機が日本仕様に改良し、Uber Eatsアプリ上で運用する。
Uber Eatsがデリバリーロボットを導入するのは、米国に次いで日本が2カ国目になるという。
ロボット「Model C」は、長さ71センチ×幅46センチ×高さ60センチの機体に最大27リットル・20キログラムの荷物を積載することができる。最高速度は時速5.7キロメートルに制御し、道路交通法に定められる遠隔操作型小型車として歩道などを走行する。
■Cartkenの概要
楽天もパートナー、つくば市内などで実証やサービス経験
Cartkenは、グーグルのエンジニアらが2019年にカリフォルニア州オークランドで創業したスタートアップだ。ドイツのミュンヘンに開発チームの本拠地を置き、ミシガン州デトロイトに製造工場、メキシコのメキシコシティにリモートオペレーターセンターを置くなど、グローバル化を見据えた展開を図っている。
ロボットはModel Cのほか、最大80キロ積載可能なModel Eも開発・提供している。パートナー企業には、三菱電機などのほかサプライヤー大手のマグナや楽天、シカゴに本拠を構えるフードデリバリー企業のGrubhubなどが名を連ねている。
楽天は、茨城県つくば市内における定常的な配送サービスにおいてModel C、Model Eの双方を導入している。
三菱電機は、スタートアップとの共創活動を推進する米国の関連企業三菱電機オートモーティブ・アメリカがCartkenと関わりを持っており、その縁で2022年1月にCartkenのロボットを日本初導入し、イオンモールで商品配送サービスの実証に着手している。
米Uberは2022年12月にCartkenとのパートナーシップを発表している。マイアミデイド郡のデイドランド地域で一部加盟店の配送に導入し、2023年中にその他の都市へ拡大する予定としている。
【参考】イオンモールにおける実証については「シリコンバレー発Cartkenの自動配送ロボ、日本に初上陸!イオン内で実証実験」も参照。
■デリバリーロボットをめぐる事案
ロボット配送加速中
米国では、大学構内を主戦場に広域展開するStarship Technologiesをはじめ、セブン&アイ・ホールディングス傘下の米国法人7-Elevenをはじめとした小売各社がデリバリーロボットの導入を進めている。
Uber TechnologiesはCartkenのほか、Serve RoboticsやNuro、Motional、Waymoと無人配送に関するパートナーシップを交わしている。
Motionalとは2021年12月に提携し、自家用車ベースの自動運転車で配送を行う計画を発表した。Waymoとは2023年5月に提携し、アリゾナ州フェニックスで人の移動とともにUber Eatsにおける配送も行うこととしている。
Nuroとは2022年9月、複数年にわたる長期的な提携を発表した。ミニカー規格の車両でテキサス州ヒューストンとカリフォルニア州マウンテンビューで配達を行う内容だ。
Serve Roboticsは、Uber傘下のPostmatesから2021年に独立した自動配送ロボット開発スタートアップで、UberやNVIDIAなどがこれまでに出資している。Uberのほか、ピザハットや7-Elevenも同社製ロボットによるデリバリーを行っている。
2023年5月にUberとの提携を拡大し、Uber Eatsへ最大2,000台のロボットを提供することを発表している。同年8月には、公開企業Patricia Acquisitionと合併してSPAC上場する計画も発表している。
【参考】Uber Eatsの取り組みについては「ついにUber Eatsが無人宅配開始!自動運転車などで試験的に」も参照。
いたずらや窃盗の標的に
米国で拡大するデリバリーロボット市場だが、歩道を走行するロボットを対象とした犯罪行為も散見されるようになってきた。
配送中のロボットの進路を妨害するいたずらやロボットに腰掛ける人、けり倒す人、ふたをこじ開けて中身を強奪する人などが出始めているのだ。こうした犯罪はSNS上に動画でアップされている。
炎上系・迷惑系ユーチューバーのような軽いノリでいたずらを行う人や、周囲の目を気にせずロボットを破壊し中身を盗み出す人が後を絶たないようだ。こうした行為は営業妨害や器物損壊、窃盗などに問われることになるが、映像を見る限り悪びれる様子もなく犯罪行為を行っている。
日本では、あからさまにロボットを襲撃するような事案はめったに起こらないものと思われるが、頭のネジが数本抜けた迷惑系ユーチューバーや酔っ払いのような類はあちこちにいる。ロボットを見かけ、その進路を妨害したり触ったり、乗っかったりするような行為は米国同様発生する可能性が高い。けり倒す人も出てきそうだ。
ロボットの普及とともにこうした事案が多からず発生し、日本でもニュースとなる日はほぼ間違いなく訪れる。ロボットフレンドリーな社会構築には、まだまだ課題が多く残されていそうだ。
【参考】配送ロボットの襲撃については「セブンイレブンの自動運転ロボ、L.A.で襲撃される」も参照。
【参考】関連記事としては「Google自動運転車への襲撃、セブンイレブンも過去に類似の被害」も参照。
トラブルはごく一部ながら、損壊時の被害は大きなものに
米国のあるロボット開発企業は、何らかの事態に巻き込まれて配送を完了できなかった場合、飲食や小売店などのデリバリー元に商品代金を払い戻すという。デリバリー元としては大きな被害には至らないようだ。
また、Serve Roboticsは取材に対し、配達完了率は99.9%に達しているとし、現状の被害は深刻ではないとコメントしている。ただ、ロボットが損壊すれば数万~数百万円、場合によっては1千万円超の損害が発生することもあると思われる。対策は必至だ。
こうした多くのロボットは、トラブルに対応するための各種機能を搭載している。進路を塞がれればそれを避けるように通行し、それでも移動できなければ道を空けてもらえるようアナウンスを発する。
機体に想定外の衝撃が加わればアラームを発し、必要に応じて遠隔監視センターや警備会社、警察などに通報する。機体には360度を見渡すことができるカメラ(センサー)が搭載されており、ロボットに何が起こっているかを遠隔監視センターから確認・把握することができる。
搭載カメラの映像で犯人が逮捕された例も
各報道によると、Serve Roboticsのロボットがロサンゼルスで誘拐されかけた事案が発生したという。犯人がロボットをトラックに積み込もうとしたが、ロボットは自力で荷台から降り、逃げ延びたという。
荷台ラダーレールが取り付けられていたのかなど不明だが、ロボットは無事脱出したのだ。その後、搭載されたカメラ映像などが証拠となり、犯人が逮捕されたという。
ひき逃げ事案や歩行者に助けられることも
デリバリーロボット関連の事案では、ロボットがひき逃げされる事案も発生しているようだ。SNSでは、大学構内の交差点で青信号を渡ろうとしたロボットが右折車両に引っ掛けられる映像が投稿されている。車両はそのまま行ってしまった。
また、線路を横断しようとしていたロボットが列車にはねられる映像などもあった。まだまだ自動運転機能や走行性能は万全ではなく、事故に巻き込まれるケースも少なからずあるようだ。
段差につまずいて転ぶロボットや、積雪に対応できず立ち往生し、歩行者に助けられるロボットの姿なども確認できる。
警察の規制線をかいくぐるロボットも…
中には、警察を惑わすロボットもいるようだ。ロサンゼルスの銃撃事件の現場で警察による捜査が行われる場面に遭遇したロボット。現場は黄色いテープで規制が敷かれており、ロボットは立ち往生したという。しかし、周囲にいた人がテープを持ち上げると、ロボットはテープをくぐって現場に進入(侵入)し、戸惑う警察官を尻目に現場を堂々と走り抜けたという。
人ではないため、警察官も対応すべきか悩んだのではないか。しかし、意外と重大な案件だ。ロボットに搭載されたカメラが現場の極秘情報を記録する可能性があるためだ。
■【まとめ】日本も例外ではない?事故・事案防止に向けた抑止力が必要?
デリバリーロボットの導入が世界的に加速する中、さまざまな事故・事案が発生するのも世の常だ。日本も例外ではなく、特にいたずら系の事件が発生する可能性は極めて高いのではないだろうか。
「外食テロ」などと同様、こうした事案に対しては厳しく対応し、抑止力を働かせていかなければならないのかもしれない。
【参考】関連記事としては「自動配送ロボット事業で活用可能な助成・支援制度一覧」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)