愛知県刈谷市で交通と教育をつなぐ「MaaS」の実証実験が始まる。交通に別の要素を掛け合わせた次世代モビリティサービスと言えるプロジェクトで、小学校や習い事先、自宅を相乗りタクシーでつなぐ。
刈谷市では保護者の約8割が習い事への送迎を負担に感じているという。「刈谷放課後子育てMaaSプロジェクト」の実証実験を行うのは、自動車部品大手のアイシンで、習い事送迎や教育プログラムのサービスを提供する。
この事業は、国土交通省の「地域交通共創モデル実証プロジェクト」に採択されていて、実証実験は刈谷市のスマートシティ推進の一環として行われる。
MaaSは「Mobility as a Service」の略だ。直訳すると「サービスとしてのモビリティ」となるが、MaaSというワードは使われるシーンによって若干意味する内容が異なってくる。今回の場合は「移動に『別な何か』を組み合わせたモビリティサービス」的なニュアンスが強いが、「鉄道・バス・タクシーなどのさまざまな公共交通機関を一元的に利用可能にするアプリ・サービス」といった意味でMaaSというワードが使われることも少なくない。
■子ども向けに相乗りタクシーサービスなどを提供
実証では、アイシンの支援システムを通じて、子ども向けのタクシー相乗りサービスや教育プログラムを提供する。
対象となるのは市の中心部にある2つの小学校で、児童クラブに登録している児童が利用できる。放課後児童クラブや習い事先、つながりステーション(産業振興センター)、自宅を相乗りタクシーで結び、カーナビ技術を応用することで最適な乗り合わせと経路を割り出し、子どもを送り届ける。習い事先は各学区から2キロ圏内を目安とする。
また、つながりステーションを交通と教育の拠点とし、宿題サポートやプログラミング教室など独自の教育プログラムを提供。同時に、習い事の時間まで子どもが待機する居場所としても機能する。この交通サービスと教育プログラムは、保護者が専用システムで予約する。
今回の実証は、2024年1月15日~2月16日の平日(2月5日・6日・14日を除く)に行われ、15時~19時に利用可能だ。利用料は、実証実験期間につき無料となっている。
■習い事の送迎、保護者の8割が負担に
刈谷放課後子育てMaaSプロジェクトを行う背景には、習い事の送迎が保護者の負担になっているという地域課題がある。刈谷市では児童の93%が習い事を行っているが、公共交通が不十分で保護者の送迎に依存している状況だ。
保護者の約8割が、送迎を負担に感じているという。送迎の負担が理由で子どもが望む習い事に通わせられないケースもあり、子育て世帯の市外への転出や、保護者が働きたくても働けない状況につながっている。
このプロジェクトは、送迎に関する課題を解決するとともに、より質の高い教育を受けさせたい、放課後の時間をより充実させたいというニーズに応えることを目的としている。
■市内全域での本格運用を目指す
アイシンはすでに岡崎市で同様の送迎サービス「のってこりん」の実証実験を行っており、2024年1月から一部有償化している。今回の刈谷市での取り組みを通じ、ニーズや実用性の確認を行い、市内全域での本格運用に向けて検討が進めていく予定となっている。
習い事の送迎が保護者の負担になっていることは多くの地域で課題となっており、今後、全国各地で同様の取り組みが促進されることが予想される。
また、今回の「交通×教育」以外にも、オンデマンドバスなどの「交通×まちづくり」や要介護者の外出を支援する「交通×福祉」など、さまざまな次世代モビリティサービスが生まれている。MaaSの可能性はますます広がっている。
【参考】関連記事としては「子どもの習い事にもMaaSを!変わる送迎のあり方」も参照。