米GM傘下のCruiseは2023年11月21日までに、人間同乗型での自動運転走行を一時停止することを発表した。同社は相次ぐトラブルや事故を受け、すでに米国全土でのドライバーレスの自動運転タクシーの運行を一時停止することを発表しており、自粛措置を拡大した形になる。
Cruiseに関しては、日本のホンダがGMとCruiseとともに、2026年から日本でドライバーレスの自動運転タクシーサービスを開始する計画を発表したばかり。今回のCruiseによる停止措置は、パートナーであるホンダにとっては最悪なタイミングになった。
またその後、CruiseのCEOであるカイル・ボグト氏の辞任も発表された。
■新会社設立による自動運転タクシー計画
ホンダとGM、Cruiseの3社は、自動運転タクシーサービスを開始する合弁会社の設立を目指す覚書を締結したことを2023年10月19日に発表した。2024年前半の新会社設立を目指しており、2026年初頭から日本国内で自動運転タクシーサービスを開始する計画となっている。
自動運転タクシーサービスでは、3社が共同開発した自動運転専用車両「Cruise Origin(クルーズ・オリジン)」を使用する。指定場所まで迎えに来るところから、目的地に到達するまで全て自動運転で行われ、配車から決済まで全てをスマホアプリで完結する配車サービスとなっている。
このサービスは、まずは東京都で数十台から開始してから、500台規模での運用を見込んでいるという。その後、順次台数を増加させ、サービス提供エリアの拡大を目指すようだ。
オリジンは自動運転専用に設計されており、ハンドルやアクセルなどの制御装置のほか、運転席も設けられていない。つまり、完全無人の自動運転で走行するというわけだ。米国ではすでにCruiseのほかGoogle系Waymoもドライバーレスの自動運転タクシーを商用化させているが、全て乗用車を改造した自動運転車を使用している。オリジンの「運転席なし」の車両での自動運転タクシーサービス開始のニュースは、大きな話題を呼んだ。
【参考】関連記事としては「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。
■自動運転車両の全面停止に至る経緯
ホンダとの自動運転タクシー開始計画が発表された5日後の10月24日、カリフォルニア州道路管理局(DMV)と同州公共事業委員会(CPUC)はCruiseに対し、同州内での営業停止と無人自動運転走行許可の停止を発表した。
これは、10月2日に発生したCruiseの車内無人の自動運転タクシーがサンフランシスコで走行中に、別の車両にはねられて飛んできた女性に衝突したという事故を受けてのものだ。衝突を検知したCruise車は一時停止し、路肩に緊急停車するため女性を引きずりながら移動し、女性に大けがを負わせた。リスクを最小化するため、一時停止した後に路肩に移動するのも安全策の1つだが、女性を引きずっていることを検知できなかったことが問題視されたようだ。
停止措置を受け、Cruiseはカリフォルニア州以外も含む全ての無人車両の走行を一時停止することを発表した。その後、11月8日に全米で自動運転車950台をリコールすることを発表している。
セーフティドライバーが同乗する自動運転車両は走行を継続していたが、今回セーフティドライバーが同乗して操作を行う方式での自動運転オペレーションも一時停止することになった。この一時停止は約70台の車両に影響を与えるという。
Cruiseは今回の一時停止について、安全性に関する審査を受けている間の社会的信頼を回復するためのさらなるステップだとしている。なお自動運転技術の向上のため、クローズドコースのトレーニング環境での走行は継続するという。
■オリジンの生産も一時停止
GMは、Cruiseによる自動運転タクシーの一時停止を受け、EV(電気自動車)専用工場「ファクトリー・ゼロ」でのオリジンの生産を一時停止することを11月6日に発表している。
Cruiseの自動運転タクシーによる人身事故後、カリフォルニア州での運行停止措置から始まり、同社による全米での運行一時停止、車両リコール、セーフティドライバー同乗での運行も一時停止と、めまぐるしく状況が悪化している。当局による調査やCruiseでの技術改善などが行われ、運行が復活するのはいつになるのだろうか。
いずれにしても、ホンダにとっては痛恨の事態だ。この逆境をどう乗り切るか、3社の動向に関心が集まる。
【参考】関連記事としては「自動運転タクシー、「Google一強時代」に逆戻り GMの全台リコールで」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)