地域ライドシェアを「Uberアプリ」で配車!人口4,500人の町で独創的試み

観光客も利用可能、公共交通を代替

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出典:Uberプレスリリース

ライドシェアの代名詞的存在である米Uber。北米をはじめ世界各地でライドシェアサービスを展開する第一人者だ。しかし、日本ではマイカーを活用した有償ライドシェアは「白タク行為」とみなされるため、タクシー事業者と連携したタクシー配車機能に留まっているのが現状だ。

しかし、実は日本にもUberのプラットフォームを用いたライドシェアサービスを展開している地域が存在する。京都府京丹後市だ。同市の人口約4,500人の丹後町では、地域住民などを対象に自家用有償運送を実施しており、その配車にUberアプリを活用している。その利用形態は、まさにライドシェアそのものだ。

京丹後市の自家用有償運送はどのような仕組みで運営されているのか。その概要に迫る。

▼地域で支える地域の交通 ささえ合い交通 について
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/231106/local01_03.pdf

■京丹後市の概要
タクシー撤退などで交通空白地に

丹後町は2004年、周辺6町の合併により京丹後市となった。同市は全域が過疎地域に指定されており、人口は合併時の6万5,800人から5万1,400人と約20年で21.9%減少している。中でも、北端部に位置し市中心部から最も遠い丹後町は同35.4%減少するなど過疎化・高齢化が大きく進行している。

民間路線バスは幹線道路1本を1~3時間に1本ペースで走行しているが、2008年に町内の民間タクシー会社の営業所が廃止されるなど、交通空白化が進行していた。

出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
デマンドバスの経験生かし自家用有償運送にも着手

そこで市は2014年、「ささえ合い交通」施策の一環として前日予約型の市営デマンドバスサービスを開始した。NPO法人「気張る!ふるさと丹後町」が運行を委託し、住民がドライバーを務め既定路線をデマンド運行する形式だ。このデマンドサービスの経験がライドシェアに結びついたという。

その後、2015年に京丹後市とNPO、ウーバージャパンで「公共交通空白地有償運送(現交通空白地有償運送)」導入に向け検討を開始し、市地域公共交通会議で承認を得た後国交省へ申請した。実現までに、認定講習会やスマートフォン操作の研修、運輸支局による安全講習会などを行い、ドライバーの育成を図ったという。登録ドライバー18人のもと、2016年に正式にサービスを開始した。

導入後も、スマートフォンを持っていない高齢者などに代わって代理で配車可能な「代理配車制度」や、アプリのシステムを変更し現金払いも可能にするなど、利用者の声にこたえる形で改善を図っている。電話での配車も受け付けている。

導入1周年時のリリースによると、毎月平均60回以上の利用があり、累計走行距離は6,754キロに達したという。

■丹後町における自家用有償運送の概要
利用方法はUberライドシェアそのもの

丹後町におけるライドシェアは、タクシー配車サービスを提供している通常のUberアプリで利用することができる。アプリを開き、行き先入力・乗車場所を確定し、料金支払い方法を選択して配車を「依頼」する。

前出のデマンドバスサービスと異なり、路線に縛られることなくエリア内を自由に移動できるほか、即時配車される点がポイントだ。

マッチング後、乗車場所に配車される時間とともにドライバーの顔写真などが表示される。利用後は、ドライバーの評価を行うこともできる。まさに「ライドシェア」だ。

運賃は最初の1.5キロまで480円で、以後1キロごとに120円加算される。おおむねタクシー料金の半額という。観光客など地域住民以外も利用することができるが、丹後町区域外からの配車や乗車は受け付けず、また京丹後市域を越える運行を行わないこととしている。

安全運行に向け、毎朝運行管理者もしくは代行者が、当日運行するドライバーに対してアルコールチェックや健康状態の確認を行う。車両にはドライブレコーダーが完備されている。NPOは2種類の団体保険に加入し、ドライバーの個人保険に優先して補償する。

ドライバーは2023年7月時点で16人おり、このうち13人がNPO会員以外の一般住民という。ドライバーの年齢は36歳から71歳で、平均年齢63歳という。年齢制限(75歳)も設けている。

ドライバーアプリでオンラインとオフラインを切り替え、自分の空いている時間で対応する形態だ。

出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
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有償ライドシェア導入のメリット

ライドシェア導入により、地域住民はドア・ツー・ドアの移動を気兼ねなく行うことが可能になった。発熱などの緊急時も、ドライバーが近くにいるため病院へすぐ移送できる安心感があるという。

Uberアプリを使用するため電話受付やドライバー呼び出しにかかる人的負担がゼロで、日頃使われてない遊休資産となりがちなマイカーを有効活用することができる。行政も補助金を出すことなく負担ゼロで公共交通の増進を図ることができたという。

有償ライドシェアの課題

一方、課題としては丹後町外への往復運行が挙げられる。丹後町区域外からの配車や乗車は受け付けていないため、町外(市内)に出た帰りは利用できないのだ。現在、町外の弥栄病院からの帰りの運行も可能にするなど、徐々に対策を進めているようだ。

また、利用者からは運賃の高さを指摘する声もあるという。タクシーの半額程度でも高いという声があり、行政と連携した割引券などの緩和策継続と拡充が望まれるとしている。

観光客からは、隣接する市街観光地への運行要望も挙がっているそうだ。丹後半島北沿岸部は交通不便なため、観光ニーズの観点からこうした要望への対応も検討しなければならない。観光客向けに距離制の運賃設定ではない「時間貸し制」も追加し、併用しているという。

このほか、スマートフォンを持たない高齢者も多く、購入にかかるコストや通信費なども踏まえた保有普及策を講じる必要もあるとしている。

同市は、タクシーやバスといった事業者との調整が不可欠で、利用者目線を原点に、利用者とタクシー・バス事業者、運行主体など関係者がWin-Winとなるような制度の構築・支援が必要と結論付けている。

■自家用有償運送に関する取り組み
国内事例は80超に

国土交通省が2020年に取りまとめた「自家用有償旅客運送事例」には、公共交通空白地有償運送と福祉有償運送、市町村運営有償運送含め80の事例が掲載されている。おそらく掲載外の取り組みもあるため、導入エリアは80を超えるものと思われる。

群馬県桐生市では、NPO法人が高齢者の移動をボランティアでサポートしていたところから過疎地有償運送(当時)として2005年に正式登録し、運送を開始した。当初はスタッフの自家用車や保険、ガソリン代などを工面し赤字覚悟で実施していたが、現在では桐生市やみどり市からの支援を受け「地域の便利な足」として利用者に認知されているという。

東京都町田市では、2019年にグリーンスローモビリティを活用した自家用有償旅客運送が国内で初めて事業化されている。

愛知県春日井市では、自動運転カートを活用した自家用有償旅客運送サービスが2023年にスタートした。ヤマハ発動機製の電動ランドカーをベースにした自動運転カートで、当面は自動運転レベル2でオンデマンド型送迎サービスを提供するという。

【参考】春日井市の取り組みについては「国内初!白ナンバー(自家用車)で自動運転100円送迎」も参照。

民間では、博報堂がマイカー乗り合い交通「ノッカル」を展開している。「住民同士が支え合うMaaS」をコンセプトに2020年から実証を重ね、富山県朝日町では地域公共交通関連制度「事業者協力型自家用有償旅客運送」の国内初適用を受け2021年に本格運行を開始している。

富山県高岡市でも同様のサービス「ノッカル中田」が始まっており、横展開可能な取り組みとして注目されている。プラットフォームとしては、ノッカル専用のドライバーアプリや利用者予約LINEアプリを活用している。

【参考】博報堂のノッカルについては「博報堂が「日本版ライドシェア」!Uberはダメなのになぜ?」も参照。

■【まとめ】運用効率化図るシステム・サービス開発がカギ

こうしたサービスのメインターゲットは高齢者となる場合が多く、Uberアプリをはじめとしたスマホアプリの利用を前面に押し出す例はまだまだ少ない。しかし、運用面を考慮するといつまでも電話対応に終始するわけにもいかない。

博報堂による自家用有償運送のシステム化事業や自動運転車の導入など、イノベーションは徐々に進み始めている。高齢者でも容易に利用可能で、かつ運用コストを大幅低減可能なシステムを開発できれば、この分野に大きなイノベーションが到来し、ライドシェア導入議論にもプラスに働くものと思われる。

通信事業を手掛ける楽天あたりが事業化すれば面白そう(主観)だが 、今後、IT業界からの本格参入などがあるか、開発サイドの動向にも注目したいところだ。

【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?解禁時期は?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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