道路交通法の改正により、2023年4月から自動走行ロボットの活用が始まる。ロボットの公道走行が解禁され、届出制のもと事業者らはロボットによる配送サービスなどを提供することが可能になる。
開発事業者やサービス提供事業者など、さまざまな主体が本格実用化に向け動き出すことが予想されるが、サービス提供に至るまでの過程はどのようなものなのか。
道交法や関連法規をはじめ、審査を担うデリバリーロボット協会の役割などを交えながら、自動走行ロボットの概要や実用化に向けた流れについて解説していく。
記事の目次
■改正法の概要
「自動配送ロボット=遠隔操作型小型車」として定義
道路交通法や施行規則の改正などにより、自動走行ロボットは「遠隔操作型小型車」と位置付けられ、新たに運行ルールが設けられた。
遠隔操作型小型車を使用する者は、走行エリアを管轄する都道府県公安委員会に対し通行場所や遠隔操作場所、連絡先、非常停止装置の位置、遠隔操作型小型車の仕様に関する事項などを事前に届け出ることが道交法に盛り込まれたほか、施行規則において走行ルールや届出の細目なども整備された。
機体サイズは電動車いす相当、非常停止装置の搭載義務化
遠隔操作型小型車の機体は、長さ120センチメートル以下、幅70センチメートル以下、高さ120センチメートル以下のサイズで、歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないことが求められる。
現行の電動車いすの基準と同等だ。なお、センサーやカメラなど周囲の状況を検知するための装置については高さ120センチを超えても問題ない。
車体の構造は、原動機として電動機を用いること、時速6キロメートルを超える速度を出すことができないことが求められる。
機体には、遠隔操作型小型車であることがわかる一定様式の標識を取り付けるほか、非常停止装置の搭載も義務付けられている。
非常停止装置は、車両の前方・後方から容易に操作可能な押しボタンで作動するもの、押しボタンとその周囲の部分との間に明度などで差をつけ、容易にボタンを識別できること、作動時にただちに原動機を停止させるものであることが求められる。
【参考】遠隔操作型小型車実用化に向けた改正法については「解禁!自動運転レベル4、道交法改正に伴う「法令改正案」概要」も参照。
■自動配送ロボットの届出
届出は都道府県公安委員会へ
届出は、運行を開始する日の一週間前までに都道府県公安委員会に届け出る。届出事項としては、大きさ、原動機の種類、構造上出すことができる最高の速度、届け出をする者の住民票の写しあるいは旅券など身分を証明する書類、法人の場合は登記事項証明書、業界の自主基準に適合することを証する書面、遠隔操作型小型車の構造及び性能を示す書面、通行させる場所の付近の見取図――などが定められている。
届出番号などは、機体の見やすい場所に明瞭に表示しなければならない。
業界の自主基準に適合することを証する書面は、遠隔操作型小型車が遠隔操作により安全に通行させることができることについて審査を行うことを目的に設立された一般社団法人または一般財団法人で、審査を行うのに必要かつ適切な組織かつ能力を有するものが実施する審査に合格したことを証する書面とされている。
この組織に該当するのが、後述する「一般社団法人ロボットデリバリー協会」だ。
型式認定制度も
遠隔操作型小型車に係る型式認定として、遠隔操作型小型車の製作または販売を業とする者は、製作・販売する遠隔操作型小型車の型式について国家公安委員会の認定を受けることができることも規定された。
認定においては、遠隔操作型小型車が遠隔操作により通行させることができ、定められた基準に該当するかどうか、また非常停止装置も同様に基準に該当するであるかどうかを判定する。
具体的な申請書類としては、以下としている。
- ①諸元・外観など当該型式の内容に関する事項
- ②製作方法、検査方法など当該型式の遠隔操作型小型車の製作における均一性を明らかにする事項
- ③国家公安委員会が指定した試験機関が行う当該型式についての試験の結果及びその意見
記載事項に変更があった場合は、速やかにその旨を国家公安委員会に届け出なければならない。また、認定を受けた型式の遠隔操作型小型車の製作における均一性が確保されていないと認められるときや虚偽の型式認定番号の表示をしたときは、認定を取り消される。
■自動配送ロボットの審査
ロボットデリバリー協会が適合審査を担う
各ロボットや遠隔操作システムなどの事前審査は、ロボットデリバリー協会が担い、業界における自主基準に適合しているか否かを判断する。
ロボットデリバリー協会は、自動配送ロボットを活用した配送サービス普及による利便性向上に向け2022年2月に設立された。
設立メンバーは川崎重工、ZMP、TIS、ティアフォー、日本郵便、パナソニック、本田技研工業、楽天グループで、2023年3月までに正会員23社、賛助会員8社まで増加している。
活動内容としては、以下を掲げている。
- ①ロボットデリバリーサービスの安全基準の制定と改訂
- ②ロボットデリバリーサービスの安全基準に基づく認証等の仕組みづくり
- ③ロボットデリバリーサービスに関係する行政機関や団体などとの連携
- ④ロボットデリバリーサービスに関する情報の収集と発信
安全基準やガイドラインの策定、審査制度体制の構築を三本柱に
2022年度末までに安全基準や適用ガイドラインの策定と、適合審査制度・審査体制の構築を行い、改正道交法施行までに審査合格証を出せる体制を整えることとしている。
安全基準は、ロボットだけでは安全を担保できないため、遠隔操作装置やそれらを合わせたシステム全体に分け、それぞれに対する要求事項を明示する。これが業界における自主基準となる。
例えば、1人が複数台を運用する場合、その上限台数を宣言することとし、審査においてはそのシステム設計における妥当性の説明を要求する予定としている。
このほか、気象条件や道路条件などロボットが走行できない環境の明確化や、衝突回避のための安全機能の信頼性レベルの定義とその遵守、通信遅延量の許容限度の明確化とそれを超えた場合に対する対応を要求する方針としている。
運用のガイドラインについては、安全な運行に必要な遠隔操作者の知識・技能、遠隔操作者1人あたりの運行台数といった適切な実施体制の確保に向けた事項を記載する。各事業者がサービス提供にあたって遵守すべき事項のとりまとめだ。
予定では、以下の8章立てとなる見込みだ。
- ①用語および定義
- ②適用範囲・対象
- ③安全確保の方針
- ④運行の方法及び実施体制
- ⑤遠隔操作者が必要知識・技能等及び使用する遠隔操作装置
- ⑥通行させようとする場所や時間帯に応じて交通の安全と円滑を確保するために必要な措置
- ⑦事故その他のトラブル発生により現場における対応が必要な場合の措置
- ⑧その他必要な事項
審査を通過すれば合格証を交付
ロボットデリバリーサービス事業者は、まずロボットデリバリー協会に審査を申し込む。仕様など機密情報を含むため、両者がNDA(秘密保持契約)を締結した上で、協会は前述した安全基準にのっとってロボットと遠隔操作装置の組み合せに対し審査を行い、問題がなければ合格証を交付する。この証書が「業界の自主基準に適合することを証する書面」となる。
なお、不合格の場合は資料修正などを依頼して差し戻し、再度審査を行う。構成部品や設計、使用環境、同時運行台数など運用方法を変える場合は、新規審査もしくは差分審査を行う。
ロボットデリバリーサービス事業者は、この合格証を添付して都道府県公安委員会に届出を行う。受理されれば、事業者は道路交通法などの法令とともに協会が策定したガイドラインに従い、遠隔操作型小型車を安全に運行させる――といった流れだ。
【参考】ロボットデリバリー協会については「自動配送ロボの普及に弾み!ロボットデリバリー協会、活動内容は?」も参照。
■【まとめ】国を挙げて社会実装を推進
自動配送ロボット実用化に向けては、比較的簡易な届出制にするなど国を挙げて社会実装を推し進めていく構えだ。
車道を走行する自動運転車などと比べれば比較的安全性を担保しやすいため、業界の自主基準に適合し、ガイドラインを順守すればOK――といったイメージだ。
改正法施行後、どの企業が取り組みを加速するのか。また、どのような事業者が新規参入を果たすのか。しばらくは実証と並行する形のサービス形態が続きそうだが、各社の取り組みに要注目だ。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
▼遠隔操作型小型車RDA安全基準等策定状況|経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosoko_robot/pdf/007_10_00.pdf
【参考】関連記事としては「人手不足に終止符!?物流業界歓迎の「自動運転レベル4」解禁へ」も参照。
【参考】関連記事としては「ついに4月「自動運転レベル4」解禁!進化した道交法、要点は?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)