自動運転レベル4の車、歩行者にどう「意思」を伝達する?

外向けHMIが必須?伝達手段の開発が加速

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出典:mign公式動画

先端技術を活用したソフトウェア開発などを手掛ける株式会社mign(本社:東京都文京区/代表取締役:對間昌宏)=マイン=が、自動運転における外向けHMI(ヒューマンマシンインターフェース)となるAI(人工知能)コミュニケーションデバイス「nouto」をローンチした。自動運転車の意思(挙動)を歩行者など周囲の交通参加者に伝達する技術だ。

まもなくレベル4による自動運転時代が幕を開けるが、ドライバー不在の走行は、従来ドライバーと歩行者間などで行われていた柔軟なコミュニケーション手段が失われることにもなる。

こうした問題をどのように解決していくのか。mignの取り組みをはじめ、世界の動向に迫る。

■自動運転における外向けHMIの必要性
ドライバーは日常的に周囲とコミュニケーションを図っている

人間が運転する自動車は、日常的に歩行者をはじめとした他の交通参加者とコミュニケーションをとっている。

自動車の運転操作に伴うウインカーやクラクションなどは、周囲の交通参加者に自車両の挙動や注意などを伝達するために行う。ブレーキ操作によるブレーキランプの点灯も、後続車に減速を伝える役目を担っている。

道路交通法上正しいかはともかく、「サンキューハザード」のようにハザードで感謝の気持ちを示すドライバーも少なくない。また、ドライバーが車内で身振り手振りし、ジェスチャーで「お先にどうぞ」のようにコミュニケーションを図るケースも多い。

自動車は、道路交通法に沿った機械的な走行だけでなく、何らかの手段で周囲とのコミュニケーションを図ることでより円滑かつ安全な走行を行っているのだ。

自動運転車は柔軟なコミュニケーションが苦手

では、人間のドライバーが不在となるレベル4の自動運転においては、こうしたコミュニケーションはどうなるのか。

ウインカーやブレーキランプなどの装備・操作に関しては、道路交通法にのっとりシステムが正しく制御するため、従来と変わることはない。

しかし、サンキューハザードのようなイレギュラーな操作や、ドライバーによるジェスチャーのようなコミュニケーションを自動運転車が行うことはない。こうしたコミュニケーションは、自動運転システムが発揮すべき安全な道路走行における本質的な部分とは別の領域にあるためだ。

ただ、現実問題としてこうしたコミュニケーション手段が役立つケースは少なくない。例えば、信号機のない交差点や横断歩道における歩行者だ。

歩行者優先であることに変わりはないが、歩行者自身が横断をためらうケースは多い。こうした際、人間のドライバーであれば自車両をしっかりと停止し、歩行者と目線を交わしながら「どうぞ渡ってください」というジェスチャーを行う。

また、自動運転車特有のケースとしては、後続車の問題がある。日本で早期実用化を目指す多くの自動運転車は比較的低速なモデルが多く、安全優先で制限速度を下回って走行することも珍しくない。

一方、郊外の道路などでは、その道路を走行する車両の平均速度が制限速度を上回ることは日常茶飯事だ。こうした道路で低速走行を行うと後ろに長い車列ができ、ドライバーの反感を買いかねない。無理な追い越しを行うドライバーも出てくるだろう。

是非は置いておき、こうした際は素直に後続車に抜いてもらった方がよい。比較的安全に停車できそうな路肩に停車し、後続車に抜いてもらうのだ。こうした際にも、「お先にどうぞ」といったアナウンスを後続車に発することができれば円滑だ。

さらに言えば、走行中の段階で「まもなく路肩に停止します」とアナウンスできれば、後続車もゆとりをもって走行できるだろう。

このように、自動運転車も柔軟にコミュニケーションを図ることができたほうが良いのは明白だ。こうしたコミュニケーション手段、いわゆる「外向けHMI」実現に向け、各社はどのようなアプローチを行っているのか。以下、各社の動向を紹介する。

■開発各社の取り組み
AIが周囲の状況を判断し、車両の挙動などをディスプレイで通知
出典:mign公式動画

mignが開発したnoutoは、自動運転車などに搭載したカメラを活用してAIが歩行者や自動車を検知し、状況に応じたメッセージやアイコンをディスプレイに表示することができる。自動運転車に限定せず、マイクロモビリティや交通整理などにも応用可能という。

例えば、前方に歩行者を検知した際、「止まります」や「横断してください」といったアイコンやテキストを表示し、自動運転車の挙動を通知したり、歩行者にアクションを促したりする。自動運転車と周囲の人や車との不安全で非効率なコミュニケーションの解消に期待できる。

ニーズに合わせさまざまなカスタマイズが可能で、検知したい対象物に合わせ、メッセージやアイコンを表示するタイミングの設定やメッセージの代わりに音声やライトを出力することなども可能という。

フォードは車載ライトによるシグナル標準化に向け活動
出典:フォード社プレスリリース

フォードは2018年、車載ライトによるシグナルで自動運転車の挙動を周囲に知らせるサインの業界標準策定に向け、開発各社に参加を呼び掛けた。

白色光の高速点滅は「発進」、2つの白いライトが左右に動くと「停止」を表すなど、車載ライトの動きや点滅などのパターンによって車両の挙動を周囲に伝える内容だ。

【参考】フォードの取り組みについては「自動運転AIと歩行者の「意思疎通」規格、米フォードが統一化へ連携呼び掛け」も参照。

メルセデスベンツも同年、フロントガラスやルーフなどに設置したライトでシグナルを発し、車両の挙動を周囲に伝えるHMI技術の開発を進めていることを発表したほか、自動車部品メーカーの市光工業も東京モーターショー2019で同様のシステム「コミュニケーションライティング」を展示している。

標準化に向けたその後の動向は不明だが、こうしたシグナルは標準化しやすく、既存の手動運転車にも活用できる。交通参加者への周知に時間を要するのが難点だが、理解が広がれば道路交通における新たなコミュニケーション手段として有用なものとなりそうだ。

【参考】市光工業の取り組みについては「無人の自動運転車は「光」で歩行者と意思疎通 共通規格が必要に」も参照。

ジャガーや東京大学は自動運転車の「目」でアイコンタクトを実現
出典:ジャガー

ジャガーランドローバーは、英政府主導の自動運転開発プロジェクトの一環で車両前面にバーチャル・アイを搭載した自動運転車を開発していたようだ。2つの目で歩行者とアイコンタクトを行い、コミュニケーションを図る狙いだ。

車体に人間のような「目」を付けて歩行者と直接アイコンタクトを図る取り組みも世界で進められており、日本では東京大学大学院情報理工学系研究科の研究グループが2022年9月、実証の成果を発表している。

モーター駆動で視線を示す「目」を付けた実験車両を製作し、バーチャルリアリティー環境下の実験で視線を使った意図提示により歩行者による危険な道路横断を低減できる可能性を確認できたという。

SIPでも外向けHMIを検証

外向けHMIに関する研究は、国が主導するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)でも行われている。実験車両にLEDディスプレイを設置し、直接「とまります」「お先にどうぞ」「自動走行中」といった表示を行い意図・状態の伝達状況について検証を行っている。

外向けHMIを介して歩行者に停止意図や譲り意図を伝達することで横断判断時の確信を高められる一方、「自動走行中」と表示している場合は、歩行者の属性によっては横断判断時の確信が低くなったという。

外向けHMIにより、横断判断時における歩行者の確認行動を変容させ、周囲への視認を減少させる可能性なども指摘されており、外向けHMIに横断判断のすべてを依存させず、歩行者自身による確認行動を促せるような配慮が必要としている。

■【まとめ】ライトとディスプレイの併用が理想……?

外向けHMIは、ライトによるシグナルで挙動を通知する手法と、ディスプレイに文字などを表示して通知する手法に大別できそうだ。

前者は標準化しやすい一方、歩行者など広範に及ぶ交通参加者に理解が浸透するには時間がかかる。ディスプレイ表示は意図を明確に表示できるが、読み取るまでにわずかな時間が発生するほか、言語の問題などもある。

理想は、ライトによるシグナルの普及を図りつつ、ディスプレイ表示を併用することだろう。色や音なども合わせれば、より直感的に理解可能になりそうだ。

遅かれ早かれ無人運転時代は到来する。今のうちに規格化を進め、じっくりと新たなコミュニケーションルールの周知を図っていきたいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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