中東が生んだ天才技術者…モービルアイ成功劇と自動運転 インテルなぜ買収?

アムノン・シャシュア氏の20年

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アムノン・シャシュア氏 © Ariel Einson クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際)

イスラエルには世界中の自動車メーカーから注目を浴びている天才技術者がいる。1兆円を超すお金を動かし、英国王室の視察も受けている。イスラエルで最も成功したエンジニアの一人であり、自動運転分野におけるキーマンの一人と称される人物。エルサレムのヘブライ大学教授で、高度なカメラ解析技術を持つモービルアイ社の創業者、アムノン・シャシュア(Amnon Shashua)氏だ。

■MITで脳・認識科学の博士号、1999年にモービルアイ起業

1960年イスラエルに生まれ、1985年にテルアビブ大学で数学とコンピュータサイエンスの修士号を取得。1989年にはワイツマン科学研究所でコンピュータ科学の修士号を取得し、1993年には、人工知能(AI)研究所で働いていたマサチューセッツ工科大学から脳と認知科学の博士号を受けている。

1996年からエルサレムのヘブライ大学の教員となり、1999年に高度なカメラ解析技術を持つモービルアイ社をジヴ・アヴィラム氏とともに共同創業した。2010年には、人工視力装置など視覚障害者のための支援技術デバイスを開発・製造するOrCam Technologies社も設立している。

2018年6月に英国王室のウィリアム王子が中東を訪問した際、このOrCam社のデモンストレーションを視察したことでも話題になった。

■モービルアイ創業期:未来見据えて車載向け単眼カメラ開発

1999年に創業した同社は、その後に訪れる自動運転の技術開発競争を見抜いているかのようにいち早く車載向け単眼カメラの開発に取り掛かる。単眼カメラはステレオタイプの二眼に比べコンパクトで価格も抑えられるが、カメラを利用した外部環境の認識には、立体視するため人間の目と同様に二つのカメラを使うのが一般的だった。しかし、アムノン氏は遠近法の原理を利用して距離を計算するなど技術力で単眼の弱点をカバーし、独自の画像処理アルゴリズムで精度を上げていった。

その技術力を支えているのが、創業間もない2000年から収集している膨大なデータだ。日本や米国、欧州の自動車メーカーらと連携し、舗装路や未舗装路、昼夜、晴天、雨天などあらゆる状況のデータを集め、その量は6000万キロメートル分に及ぶという。カメラの認識性能を検証するにはこういった地道なデータと作業が必要だが、人間の命を左右する自動車においてわずかな間違いも致命的になりかねず、同社はデータの蓄積と解析を今なお続けている。

■モービルアイ成長期:大手から得た信頼、そしてインテルが買収

技術開発力と地道な検証に裏付けられた同社の取り組み・製品は信頼性を高め、やがて高い評価に変わっていく。独BMW、米ゼネラルモーターズ(GM)、スウェーデンのボルボなど自動車メーカーへの採用が決まり、2014年にニューヨーク証券取引所に上場した同社の時価総額は約1兆円に達した。

2017年3月には、米インテル社による買収が発表された。買収金額は破格の153億ドル(約1兆7500億円)と言われており、同社の技術水準が世界最高レベルという評価を得るに至った。アムノン氏はインテルの上級副社長に就任し、子会社となったモービルアイの最高経営責任者(CEO)と最高技術責任者(CTO)を兼務している。

このほか、2016年には、自動走行用のマッピングテクノロジー「Road Experience Management(REM)」を発表。単眼カメラで収集した画像データをGM社の車載機システムを介して各車両からクラウドに上げて解析する仕組みで、従来の地図情報に比べデータ量が圧倒的に軽いという。2017年にはオランダの位置情報サービス大手HERE Technologies(ヒア・テクノロジーズ)と提携も結んでいる。

■モービルアイの今後:アムノン氏が見据える自動運転社会の姿は?

2016年の時点で同社の画像認識チップ「EyeQ」を採用している車両数は世界各国で1200万台と言われていたが、2018年5月には欧州に拠点を置く自動車メーカーの車両800万台に同社の自動運転技術を提供する大型の契約を獲得したことが報じられている。

また、2018年初頭に米ラスベガスで開催された総合展示会「CES2018」で、同社は複数の自動運転プロジェクトの立ち上げにも言及しており、インテルを母体にさまざまな自動運転関連企業との連携による事業はまだまだ続きそうだ。

先を見通すアムノン氏の頭の中には、すでに自動運転社会到来後の世界が浮かんでいるのかもしれない。

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