【資料解説】空飛ぶクルマの試験飛行ガイドライン

申請手続きや航空法の適用範囲を網羅



出典:国土交通省

航空局はこのほど、試験飛行等に係る航空法の適用関係のガイドラインを発表した。飛行試験を行う際に必要となる要件や申請手続き関連の事項をとりまとめたもので、空飛ぶクルマの機体開発・実証を加速させる狙いだ。

この記事では、同ガイドラインの内容を解説する。


▼「空飛ぶクルマ」の試験飛行等に係る航空法の適用関係のガイドライン
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001472777.pdf

■ガイドラインの概要
ガイドラインの目的

ガイドラインは、空飛ぶクルマの試験飛行などに関する許可基準を明確化したもので、航空業界に新規参入する事業者や地方自治体へ情報を共有することで試験飛行などを支援・推進することを目的としている。試験飛行の実施にあたり、必要となる航空法上の許可に関する基準の概要や手続き、推奨事項などについて取りまとめたものだ。

航空法の適用範囲

「空飛ぶクルマ」に明確な定義はないが、同ガイドラインではドローンを大型化した形状のものを含む電動で自動操縦や垂直離着陸が可能な航空機を想定している。

機体の中に操縦者を乗り込ませることなく飛行することができる装置を有する航空機は「無操縦者航空機」となるが、この場合は、人が乗ることができるスペースの有無といった外形上の判断ではなく、人が乗って航空の用に供することができる構造、性能などを有するか否かについて最大離陸重量などを考慮した上で判断することになる。


例えば、遠隔操縦などが可能な従来のドローンは、総重量200グラム以上(2022年6月20日から100グラム以上)などの一定要件を満たすものは「無人航空機」として航空法が適用される。それ未満のものは小型無人機に分類され航空法の適用外となるが、代わりに小型無人機等飛行防止法が適用される。

また、試験飛行を行う環境が四方や上方をネットで囲まれた空間や屋内の場合、航空法の規制は及ばない。試験飛行の内容がエンジン単体のテストや地上から機体が離れない地上滑走試験なども同ガイドラインは適用されない。

機体の開発のため小型のテスト機体を飛行させる場合、航空機ではなく無人航空機として航空法の規制が適用される場合がある。

航空法上の航空機の分類と適用範囲=出典:国土交通省(※クリックorタップすると拡大できます)
試験飛行など

試験飛行には、空飛ぶクルマの開発や実証を目的として行うジャンプ飛行やホバリング、場周空域における飛行、実際のユースケースを想定して行う飛行、観客への展示を目的とした飛行などが含まれる。


試験飛行を行う際は、プログラム全体を管理する責任者(試験飛行等統括責任者)を設置する必要がある。試験飛行等統括責任者は、主担当操縦者(機長/PIC)やエンジニアなどを兼務することもできる。

手続き関連

試験飛行を実施する際は、一般的に複数の航空法上の許可が必要になるが、申請書の受け付けや許可手続き、許可書の送付などは航空局の次世代航空モビリティ企画室が一元的に行う。

出典:国土交通省(※クリックorタップすると拡大できます)
■飛行場所の選定

航空法上、航空機は原則として空港などから離着陸し、150メートル以上の高度を飛行することが求められるが、試験飛行においては、民間企業や公的な研究機関などのグラウンド、公園や海上などの開けた場所で実施されることが想定される。また、内容によっては飛行高度が基準以下となることも考えられる。

こうした際は、安全上必要な措置を講じた上で航空法上の許可を受けることが必要で、さらに開発中の機体であることを考慮し、試験実施区画に第三者が立ち入らないようにするなど追加の安全対策を講じることが求められる。

離着陸の場所や飛行高度

空港以外の場所で離着陸を行う場合は、周囲に離着陸の障害となる構造物がないかを確認し、場外離着陸場における離着陸の許可(航空法第79条ただし書許可)を受けなければならない。

離着陸時以外の巡航時における飛行高度が最低安全高度(原則150メートル)を下回る場合は、緊急時に機体が不時着陸地点に到達できるまでの経路と高度を確保した上で、最低安全高度以下の飛行の許可(航空法第81条ただし書許可)を受ける必要がある。

なお、規則第174条において「人又は家屋のない地域及び広い水面の上空における最低安全高度は、地上又は水上の人又は物件から150m以上の距離を保って飛行できる高度」とされており、何もない平野などで試験飛行を実施する場合は、150メートル以下の高度でも許可不要とすることができる。

場外離着陸場における離着陸許可基準(転移表面)の例=出典:国土交通省(※クリックorタップすると拡大できます)
試験実施区画の設定

試験飛行を行う機体は、一般的に開発途中で耐空性の証明が行われていないため、安全確保に向けた追加措置として、試験実施区画への人の立ち入りを制限する必要があると考えられる。試験実施区画への立ち入りの制限は、看板や標識の設置、監視員の配置といった方法がある。

試験実施区画は、試験飛行の内容や機体の性能、飛行高度や速度などさまざまな要因を踏まえて設定する。例えば、機体の操縦性能や反応速度などの諸元をもとに回復操作が可能な範囲などを算定する方法や、ある高さから一定の角度を仮定し落下物が飛散しうる範囲を算出し、マージンを考慮した上で設定する方法などがある。

見学者がいる場合の対応については、見学区画を制限し、ついたてなど第三者への危害を防止するための措置を講じたり、監視人員を配置したりするなどの安全対策を計画し、その旨を申請書に記載する。

■機体に関する安全性確認

機体の安全性に関して、航空機は原則、航空法第10条に基づき耐空証明を受けていなければ航空の用に供することができない。試験飛行にあたっては、同法第11条第1項ただし書きの許可を受ける必要がある。

ただし書きの許可に際しては、「自作航空機に関する試験飛行等の許可について(平成14年3月29日制定 国空機第1357号)」、型式証明活動の一環として社内試験の位置づけで試験飛行を行う場合は「国産航空機の型式証明等について(平成17年9月30日制定 国空機第5029号)」に基づく型式証明活動の中で「試験飛行等の許可について(平成13年3月30日制定 国空機第369号)」、国際民間航空条約の締約国である外国で型式証明された航空機を用いる場合は「試験飛行等の許可について(平成13年3月30日制定 国空機第369号)」のそれぞれに基づき、所要の措置がとられているかどうかを確認する。

■操縦者の技能・健康状態等

航空機に乗り込んで操縦を行うには、原則として航空従事者技能証明及び航空身体検査証明を受けていなければならない。ただし、試作機や研究開発機などの試験飛行等を行う場合は、航空機が型式証明を受けていないためこれらの技能証明等も受けられないため、航空法第28条第3項の許可を受けて試験飛行を行うこととなる。

操縦技能については、段階的な飛行計画を策定することで徐々に慣熟を図りながら試験飛行を進めること、開発中の機体に求められる技能を特定してそれらを段階的にクリアする方法などによって必要な飛行経験を積み、技能を確保することが望ましいとしている。

また、技能証明の有無に関わらず、設計・製造者のマニュアルにより飛行させる機体の特性について把握する必要がある。

■無操縦者航空機
遠隔操縦者の要件

操縦者を乗せずに飛行できる装置を有する航空機で、実際に操縦者を乗せずに飛行させる場合は航空法第87条の許可が必要となる。

遠隔操縦者は原則として18歳以上であり、通常の操縦者と同様に必要な飛行経験を積み、技能が確保されるよう努めるべきとしている。また、航空身体検査証明を有しない者が遠隔操縦を行う場合は、「超軽量動力機等に関する航空法第28条第3項の許可の手続き等について(平成8年10月1日制定 空乗第181号)」別紙2の超軽量動力機等操縦者健康診断判定基準に準じて、実施する試験飛行に必要な項目と基準を各自で設定し、健康診断を行うこととしている。

操縦に係る無線通信について

無線機器の利用にあたっては、電波法において必要となる無線局免許の取得や手続きを講じた上で、求められる運用条件を遵守の上使用する。

操縦に係る無線通信は、C2(Command & Control)リンク及び外部監視カメラのためのものを指す。無線局は、操縦の安全性に直結するやめシステム構成や使用周波数、使用機器のスペックなどを詳細に説明する。

携帯電話事業者の無線通信ネットワークを利用する場合は、携帯電話事業者が定める手続きを行った上で使用することとし、複数事業者を活用するなど通信系統の冗長化や飛行形態に応じた安全対策を講じる。

空撮映像の伝送やテレメータ用データなど操縦に直結しない操縦以外の無線通信については、操縦に係る無線通信とは明確に区別して申請書に記載する。

機長について

遠隔操縦者のうち1人を機長(PIC)とし、自動飛行や自律飛行を行う場合も飛行責任者を機長とする。

■小型のテスト機体の実験について

機体開発の際、小型の機体を試作して実験することもあり得る。通常、これらの機体は無人航空機に分類されるが、空港周辺などの空域で飛行する場合や夜間飛行など一定の方法で飛行させる場合は、航空法に基づく許可や承認が必要となる場合がある。

許可・承認の要否

航空法第132条に基づき、以下において無人航空機を飛行させる場合、あらかじめ国土交通大臣の許可を受ける必要がある。

  • (A)空港などの周辺の上空空域
  • (B)緊急用務空域
  • (C)地表または水面から150メートル以上の高さの空域
  • (D)人口集中地区の上空
無人航空機の飛行にあたり許可を必要とする空域=出典:国土交通省(※クリックorタップすると拡大できます)

また、同法第132条の2に基づき、以下については、国土交通大臣の承認を受けて行う必要がある。

  • ①夜間飛行
  • ②目視外飛行
  • ③人または物件からの距離が30メートル未満での飛行
  • ④多数の人が集まる催し場所上空の飛行
  • ⑤危険物輸送
  • ⑥物件投下
無人航空機の飛行にあたり承認を必要とする飛行の方法=出典:国土交通省(※クリックorタップすると拡大できます)

すでに研究開発目的で許可などを取得している無人航空機の改造を行う場合は、改造後の機体が、審査要領の基準への適合性に変更がない場合に限り、無人航空機の設計図または写真、及び取扱説明書などの変更に係る申請は不要となる。

■総合的な安全対策
実験に伴う特殊な飛行を行う場合の対応

物資輸送などの実験のため、編隊で飛行する場合には航空法第84条(編隊飛行)の規定を遵守する。

荷物輸送の際、輸送する物件が危険物輸送に関する規制にあたらないか確認し、危険物を輸送する必要がある場合は、規則第194条の規定に基づき必要な措置を講じる。

物件を曳航する実験を行う場合は同法第88条の基準の遵守に留意する。また、物件を投下する実験を行う場合は、同法第89条に従って事前に届出を行う。

実験機の飛行データ取得などのため実験機とは異なる無人航空機を近傍に並走させる場合は、実験機と無人航空機を十分(30メートル以上)離隔できる措置を講じた上で、双方の操縦者に①事前の十分な打合せ②互いの機体の目視監視――を徹底させる。

ガイドラインには、「付録5」として航空法各条の適用関係のチェックリストも用意されている。各条項の確認に活用するとともに、チェック欄にチェックを入れ必ず申請書に添付することとしている。

▼試験飛行等を実施する場合における航空法関連規定一覧
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001472717.pdf

■【まとめ】開発分野で相次ぐ新規参入者の実証をスムーズに

空飛ぶクルマの開発分野には、従来の航空業界以外からの新規参入が相次いでいる。航空分野の未経験者も参入する中、こうしたガイドラインの存在は大きな助けとなる。

空の移動革命に向けたロードマップにおいて、実現目標の大きな節目となる2025年の大阪・関西万博まであと3年。実証を加速し、世界の注目が集まる会場で大輪を咲かせたいところだ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説」でまとめて発信しています。

▼「空飛ぶクルマ」の試験飛行等に係る航空法の適用関係のガイドライン
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001472777.pdf

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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