警察庁が設置する「自動運転の実現に向けた調査検討委員会」はこのほど、2021年度の検討結果報告書をまとめ、公表した。
自動運転技術の社会実装に向け、2021年度はどのような検討を進めてきたのか。この記事では、報告書の内容を解説していく。
▼令和3年度「自動運転の実現に向けた調査検討委員会」検討結果報告書|警察庁
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/3dai5kai.houkokusho.pdf
記事の目次
■自動運転の実現に向けた調査検討委員会の概要
自動運転に関する制度整備に向け2015年度から調査検討を継続
警察庁は、自動運転に関する制度整備に向け2015年度に調査検討委員会を設置し、遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る制度整備や、自動運転レベル3実現に向けた課題検討、ドライバーの存在を前提としないレベル4に相当する自動運転に関するルールの在り方などについて継続して協議を進めてきた。
2020年度は、限定地域での遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスを念頭に交通ルールの在り方や安全性の担保方策などの検討を進め、制度整備に向けた一定の方向性を得た。
具体的には、自動運転システムが自ら対応することが期待できない交通ルールに関しては、個別のケースに応じて地域ごとに交通ルール遵守の方策を柔軟に検討し、自動運転システムによる操作や人間による関与などの組み合せにより、全体として従来と同等以上の安全性を確保すること、また、自動運転移動サービスを提供する主体の審査などを行うことで、安全走行を担保する枠組みを整備すること――としている。
2021年度はドライバーレスのレベル4実現に向けた検討に本格着手
2021年度は、この方向性をもとに制度整備に向けたより具体的な検討を行うこととし、限定地域における遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスを念頭に、ドライバーレスのレベル4に関する交通ルールの在り方などについて検討を進めてきた。
検討の前提として、以下を挙げている。
- 従来ドライバーが遵守すべき交通ルールのうち、定型的・一般的なものを自動運転システムが代替すること
- 自動運転中でない場合は、従来のドライバーが存在するケースのルールで対応すること
- 自動運転移動サービスの提供に携わり、状況把握や連絡などの役割を果たす自然人の存在を想定すること
なお、同委員会の委員長は中央大学大学院法務研究科教授の藤原靜雄氏で、ほかの構成員は以下の通り(役職は2021年12月時点のもの。敬称略)。
- 朝倉康夫(東京工業大学環境・社会理工学院土木・環境工学系 教授)
- 天野肇(ITS Japan理事)
- 石田敏郎(早稲田大学名誉教授)
- 今井猛嘉(法政大学大学院法務研究科教授)
- 岩貞るみこ(自動車ジャーナリスト)
- 鹿野菜穂子(慶應義塾大学大学院法務研究科教授)
- 河合英直(自動車技術総合機構交通安全環境研究所 自動車安全研究部長)
- 木村光江(日本大学大学院法務研究科教授)
- 佐藤恵(法政大学キャリアデザイン学部教授・法政大学大学院キャリアデザイン学研究科教授)
- 須田義大(東京大学モビリティ・イノベーション連携研究機構長・生産技術研究所教授)
- 波多野邦道(一般社団法人日本自動車工業会自動運転部会部会長)
このほか、警察庁や内閣府、総務省、国交省、経産省の職員なども随時オブザーバーとして参加している。
■令和3年度の検討結果報告書の概要
2021年度は、論点としては以下を設定し、事業者などへのヒアリングを交えながら検討を重ねた。
- ①運転者の存在を前提としない自動運転システムの性能について
- ②認定による特例の適用について
- ③審査基準及び審査方法について
- ④関係者の理解と協力を得るための手段について
- ⑤行政処分の在り方について
レベル3道交法はレベル4にそのまま適用できない
①「運転者の存在を前提としない自動運転システムの性能について」では、レベル4相当のシステムの技術上の基準やODD(運行設計領域)がレベル3相当のものとどのように異なるのか、また道路交通法上、ドライバーの存在を前提としない自動運転が認められるシステムをどのように特定すべきかについて検討した。
委員からは、レベル3とレベル4の違いをクリアにする観点や、オペレーターが担う役割と自動運行装置が果たす役割の関係性を明確化すべきといった意見が出された。
取りまとめでは、レベル4においては、レベル3を想定した現行の道路交通法の規定をそのまま適用せず、ドライバーレスを前提とした自動運行装置に対応するルールを適用する必要があるとし、道路運送車両法の自動運行装置のうち、「自動車が整備不良車両に該当しないこと」「自動運行装置に係る使用条件を満たしていること」を満たさない場合において、「直ちにそのことを認知するとともに、ドライバーが引き継ぐことなく安全に停止することができるもの」の使用を前提とすることで、レベル4相当の自動運転システムを認めることができるとした。
自動運転に携わる者の知識や能力について要検討
②「認定による特例の適用について」及び③「審査基準及び審査方法について」に関しては。都道府県公安委員会の審査を経ることの効果や、計画の審査基準、申請者の要件、都道府県公安委員会による計画の審査方法などについて、「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」を参考に検討を進めてきた。
遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスを行う者に対して、自動運転システムだけでは履行できないドライバーの義務について、その趣旨を踏まえた対応を確実に行う措置を講じることを義務付け、その上で、都道府県公安委員会は以下のような措置を確実に講ずるための体制を設けているかなど審査すべきとした。
- 遠隔対応や一人で複数台の車両を対応する場合は、それらを踏まえた安全対策
- 自動的に停止した後、速やかに車両を安全に移動させるための方策
- ドライバー不在の自動運転中であることを車外に表示するための措置
- 自動運転に携わる者が必要な教育や訓練などを受けることを担保する方策
- 自動運転に携わる者が飲酒や過労により対応できない事態を防ぐための方策
また、2021年度の調査検討委員会において、自動運転に携わる者については運転免許などの一律の資格は不要とする方向性が示されたが、ドライバーの義務を代替する方策の一部を担うことを踏まえると、一定の知識や能力を保有することを求めることについて改めて検討が必要とした。
なお、委員からは「遠隔監視者は従来の運転免許を持たずとも責任が発生することから、一定の資格を保有している者である必要がある」「遠隔監視を行うための固有のスキルやトラブル発生時の対応などが必要になることから、認定の際に運行主体に求める教育・訓練等は非常に重要」といった意見が出されている。
自動運転の特性への理解醸成を
④「関係者の理解と協力を得るための手段について」では、既存の自動車と挙動が異なる点やドライバー不在といった新たな安全リスクに対して、地域の関係者や関係機関の理解と協力を得るための手段としてどのようなものが認められるかについて検討を行った。
自動運転車特有の挙動などに対する理解不足に起因して交通安全上のリスクが生じる恐れがあるが、理解を深めることでリスクの解消や低減が可能となる。このためには、地域において自動運転が受容されていることが前提となる。
また、事故時の救護義務などにおいて、ドライバーレスの無人自動運転移動サービスでは従来と大きく異なる対応方策がとられることなどについても、適切な形で地域住民の理解を得ることが適当としている。
こうした点を踏まえ、遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスの導入に当たっては、該当エリアで住民説明会などの方策を通じ、移動サービスを行おうとする者が地域の理解を得るとともに、その移動サービスが地域住民の生活に必要であることについて共通理解を得るべきとしている。
危険性の程度に応じて各種処分を
⑤「行政処分の在り方について」に関しては、遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスを行う者の適格性に問題が生じた場合の行政処分の内容や要件について検討を行った。
人が対応する部分については、あらかじめ計画に記載した事項を遵守していない場合など、将来の交通に危険を生じさせるおそれの程度に応じて、改善命令や停止命令、取消しなどの処分が可能となるよう意見の方向性を取りまとめた。
委員からは、「自動運転システムそのものに何らかの問題が生じた場合、そのシステムを使用する事業すべてが行政処分の対象になってしまうことが想定されるため、公共交通の継続性の観点から義務を履行していることの目安になるようなガイドラインの策定が望ましい」などの意見が出された。
■制度の方向性と今後の課題
検討結果を踏まえ、更に具体的な制度整備につなげるため、以下についても検討をよりいっそう深めるべきとしている。
- 自動運転に携わる者に求められる知識や能力の内容やその担保の在り方
- 都道府県公安委員会が審査を行う際、自動運行装置の性能について審査を行う国土交通省や、地域の共通理解形成時における市町村など関係機関との連携の在り方
- 遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスが導入された後における住民の意見の反映の在り方
- 無人自動運転の運行を緊急停止すべき場合における行政処分の在り方
■【まとめ】2022年度は取り組みがいっそう加速する年に
日本では、限定エリアにおける遠隔無人自動運転の実現に向け、法改正や新たな制度創設などが早ければ2022年度中に進められる予定だ。
廃線跡を利用するケースなど、公道以外を活用したレベル4実証はほぼ間違いなく進展するものと思われる。本格的な自動運転時代の幕開けに向け、2022年度は取り組みがいっそう加速する年になりそうだ。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「自動運転レベル4の自家用車「いつ実現できます?」 警察庁が事業者ヒアリング」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)