【資料解説】2019年度、国の「自動運転実証」の実績&今後の方針まとめ

中山間地域や空港、高速道路などで実施

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出典:首相官邸資料

改正道路交通法と改正道路運送車両法の施行日が2020年4月1日に決定し、いよいよ日本で「自動運転レベル3」(条件付き運転自動化)が解禁される。自動車メーカーもレベル3搭載車の開発に力を入れていくが、自動運転による移動サービスの実用化に向けた国や自治体の動きにも注目だ。

この記事では国が2019年度に取り組んだ自動運転実証の実績と、今後の取り組み方針についてを紹介していこう。具体的には「ラストマイル自動走行実証実験」「中山間地域における自動運転移動サービス」など5つの取り組みについて紹介する。

▼国の自動走行実証プロジェクト
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/dai10/sankou3.pdf

■ラストマイル自動走行実証実験

「ラストマイル自動走行実証実験」では、2019年度は福井県永平寺町と沖縄県北谷町をモデル地域として、実証実験や事業性の検討を行った。ラストマイル自動走行は無人での自動運転移動サービスを限定地域で実現することと、人件費の削減やドライバー不足の解消につなげることを目的としている。

福井県永平寺町では2019年4月25日から5月24日までの1カ月間と、2019年6月24日から12月20日までの約6カ月間の2回、沖縄県北谷町では2019年7月31日から2020年1月30日まで、それぞれ小型カートを使用した実証実験を行った。

2020年度は小型カートの遠隔監視・操作をさらに高度化させることに取り組み、福井県永平寺町では走行ルートや自家用有料旅客運送の適用も含めた事業性を検討し、沖縄県北谷町では地元交通ルールにより自動運転車両が走行できない場所などについて調整をしていくようだ。

このラストマイル自動走行の取り組みにおいては、2020年は中型自動運転バスでの実証実験も行う予定だ。すでに2019年10月にバス運行事業者を選定し、茨城県日立市、滋賀県大津市、神奈川県横浜市、兵庫県三田市、福岡県の北九州市・苅田町の5つの地域でそれぞれテーマを掲げ、実証実験を行う予定となっている。

【参考】関連記事としては「2020年度の中型自動運転バス実証、事業者5者と各テーマは?」も参照。

■中山間地域における自動運転移動サービス

高齢化が進む中山間地域では、買い物や病院に行くための生活の足や輸送手段の確保を目的として、「道の駅」などを拠点とした自動運転サービスの実証実験を行った。

この中山間地域の自動運転実証実験は2017年9月から開始されている。2019年度は、秋田県北秋田郡上小阿仁村と熊本県葦北郡芦北町、北海道広尾郡大樹町、茨城県常陸太田市、滋賀県東近江市の5つの地域で行われた。

秋田県上小阿仁村の道の駅「かみこあに」では自動運転運転サービスの商用化の第1弾として、2019年11月30日から自動運転による有償サービスも展開した。また熊本県芦北町の道の駅「芦北でこぽん」での実証では、地域住民の移動に加えて農作物の集荷や宅配、図書の返却などでも利用された。

この中山間地域におけるサービスは、2020年中に社会実装を目指す。

【参考】関連記事としては「国内初、定路線で自動運転バス!茨城県の境町、SBドライブと」も参照。

■ニュータウンにおける自動運転移動サービス

「ニュータウンにおける自動運転移動サービス」の実証実験は、東京都多摩市の諏訪・永山団地と兵庫県三木市の緑ヶ丘・青山地区で、自動運転技術を活用した公共交通サービスの導入を見据えて実施された。

この2つの地域はそれぞれ、昭和40年代から昭和50年代にかけて開発された「ニュータウン」で、高齢化が進んでいる。また丘陵地や急勾配が多い立地のため、高齢になると徒歩での移動に困難が伴う。またバスなどが無くなれば、車で移動しなくなった高齢者は一層移動が大変になる。

ただ、バスなどは人口減が進む地域では採算がとりにくい。そのため、自動運転技術を使った循環型移動サービスやシャトル移動サービスなど、人件費が掛かりにくいサービスの導入が効果的だとされている。

2019年度の実証実験では、歩行者や一般車との混在空間において手動介入が発生するなどの課題が洗い出された。今後は住民の移動ニーズに対応したルートや車両の選定を行うとしている。

■空港制限区域内における自動走行に係る実証実験

空港制限区域内における2019年度の実証実験は「物(手荷物・貨物)」の輸送を想定し、成田空港と九州佐賀国際空港でそれぞれ実施された。ちなみに2018年度に実施した実証実験では、「人」の輸送を想定したものだった。

成田空港では、乗客の手荷物や貨物などが積まれたコンテナの牽引車両を自動走行させる実証実験を、日本航空(JAL)が実施した。実証実験では、ソフトバンク子会社のSBドライブが開発する遠隔運行管理システム「Dispatcher」が活用された。

九州佐賀国際空港では、全日本空輸(ANA)がコンテナ輸送の自動化に向けたプロジェクトに取り組んだ。ANAは2020年度も中部国際空港セントレアで同様の実証実験を行う予定だ。

■高速道路におけるトラックの隊列走行実証実験

政府は「トラック隊列走行」の技術確立も目指している。トラック隊列走行は、後続トラックを自動運転化することで運転手1人あたりの配送効率を高めるための仕組みだ。現在は後続トラックが「有人」である場合と「無人」である場合の両ケースで、実証実験を行っている。

後続トラックが「無人」の実証実験は2019年6〜7月に新東名高速道路で実施され、勾配やトンネル、夜間の走行などの多様な環境で検証を行った。全走行距離は3585キロで、この実証実験における事故や「ヒヤリハット」はゼロだったという。

後続車が「無人」の隊列走行では今後、最高速度を時速70キロから80キロへ上げ、車間距離も縮めるなどし、実証内容を高度化していく。

■【まとめ】2020年度はさらにブラッシュアップ

2019年度に行われた実証実験の結果を受け、2020年度はさらにそれぞれの取り組みがブラッシュアップされることになりそうだ。高齢化や人材不足といった社会課題の解決には自動運転が有効だということが徐々に認知される中、今まで以上に国の取り組みにも注目が集まることが予想される。

【参考】関連記事としては「自動運転実証の誘致に意欲的な自治体10選」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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