最近、自動車業界で頻繁に登場するキーワードがある。「CASE」だ。「コネクテッド」「自動運転」「シェアリング」「電動化」の頭文字をつなげた言葉で、業界の未来を表す象徴とも言える。この中の「シェアリング」に関しては、シェアサービスの代表格とも言える「カーシェア」への参入が日本国内でも相次いでおり、ユーザー獲得競争も活気づいてきている。
そんな中、「自動車業界の大物」が新たにカーシェア事業をスタートすることが発表された。中古車買取・販売店「ガリバー」を運営する株式会社IDOM(本社:東京都千代田区)だ。個人間カーシェアサービス「GO2GO」を2019年4月にスタートさせ、他社が既に先行するこの分野で業界ナンバーワンの座を狙う。
当初は東京や神奈川、大阪、埼玉、千葉でサービスを提供し、順次提供エリアを拡大していく。予約や決済は全てアプリ上で完結させるほか、借り手に自動車保険に加入してもらうシステムも導入するようだ。
自動運転ラボは、IDOM社のCaaSプラットフォーム推進責任者である天野博之氏にインタビューし、個人間カーシェア事業の展開や戦略のほか、既に展開している月額定額クルマ乗り換え放題サービス「NOREL(ノレル)」などについて聞いた。
記事の目次
【天野博之氏プロフィール】あまの・ひろゆき 1980年生まれ。大学卒業後、リクルート入社。マーケティング、新規事業開発、事業統括、事業企画マネージャーなどを経て、2015年株式会社カカクコムへ、食べログ事業の事業戦略部長を歴任し、2017年に株式会社IDOM入社。2018年より現職。国家資格キャリアコンサルタント保持。
■「二次流通の7000万台をどう料理するか」という視点
Q 自動車をもう個人で買わなくなるという時代がいつかは来ると思います。売買の市場がシュリンクしていく中で、御社としてはサービサー側に回っていかなくてはいけない気がしまして、実際そういうシナリオの中でのカーシェアサービスの展開だと思うのですが、いかがですか?
まさにおっしゃる通りですね。年間ショットで切ったときに新車だけで切り取れば、日本では年数百万台しか売れていません。ただ二次流通という視点では7000万台の乗用車が常にあり続けています。この「いけす」をどう料理していくのか、ということが我々のテーマです。
今までのように、売った、買ったみたいな話で考えてしまうと、それ以上でもそれ以下にもなりません。そこでGO2GOなんです。車を売りたい、買いたいという人との接点だけではなく、車を持っている人全員という風にターゲットを変えたときに、浮かび上がる一つがGO2GOということです。言葉を選ばずに言えば、7000万台の在庫が我々の在庫になり得ます。
また今までタッチできていなかった車を持っていない人、車を買う気もない人にタッチできることは「鎹(かすがい)」みたいなものです。ノレルやGO2GO、ガリバーフリマなどによるモビリティサービスプラットフォームができていくなかで、(こうしたサービスを利用する)車を持っていない層がガリバーの店舗にも来るような潤滑油としてのサービス、という考え方でも開発をしています。
■個人間取引(C2C)に介入して抵抗感を取り除く
Q では具体的にGO2GOのサービスの中身についてですが、展開において重視する点や障壁として感じていることなどはありますか?
いま多くの日本人は知らない人の車を使うことや知らない人に車を貸すことに抵抗感を持っています。GO2GOではそのカーシェアに対する障壁を取り除くことに重きを置き、事業展開を進めていきます。
具体的にはガリバーの店舗を活用するなどしてユーザー間に介入し、円滑な個人間(C2C)取引をサポートしていきます。このような観点がC2Cサービスと言えども必要になると考えています。
また、GO2GOは「安心、安全、簡単」というキャッチフレーズを掲げています。「安心、安全」というところでは、「貸した車に傷がついた」「いや傷はつけていない」などのユーザー間のトラブルを回避できるようにします。
具体的にはアプリ上で傷の確認をできるようにすれば、エビデンスも残る形になります。こうした点で、弊社の長年の自動車ビジネスの経験や知見を活かしていきたいと考えています。
■「見栄えが良い車」よりも「気軽に乗りやすい車」を
Q 他社のカーシェアサービスとのターゲット層の違いについて教えて下さい。
現時点で先行しているカーシェアサービスは、どちらかと言うと、車が身近にある方や車が好きな方のため、というものが多いと思われます。我々はそうではなく、ターゲットを幅広く一般化していきたいと思っています。
一般化のためにも、我々の店舗からの流入も考えています。また、中古車を購入する方は合理性を考える方も多いですし、今後カーシェアで貸すことを前提に車を購入する方も増えてくると予想しています。
また、合理性を考えて普段使いやすい中古車をユーザーが購入し、その車がGO2GOに登録されるようになれば、他社に比べて一般使いしやすい車がラインナップに増えていくと思います。「見栄えの良い車」よりも「気軽に乗りやすい車」ということを重視していく点も、他社さんと異なる部分かと思います。
Q 個人間カーシェアでは個人間をマッチングさせるために、登録台数(貸す側)を増やすPR戦略が必要かと思います。どのようなPR戦略を考えていますか?
今回のサービスローンチでは、「事前登録」という期間を長めに設定しながら、徐々にサービスの提供を始めていこうとしています。登録台数を増やすための戦略がまさにそれです。借りる側がアプリを開いた時に、(登録してある車が)潤沢にある状況を最初から作り出していきたいと考えています。
■安心・安全や利便性を担保するための手数料
Q 貸し手が支払うプラットフォーム手数料が20%と、他社(DeNAやdカーシェアやCaFoReは10%)よりも高めに設定しています。これからシェアを他社から削り取っていく段階でこのような強気な設定にしていることには、どのような理由がありますでしょうか?
グローバルな視点でみれば、(同じようなカーシェアサービスを行っている事業者の)手数料はもっと高いです。このような事業では安心や安全を担保させるためにも原資を集めなければいけません。また、利便性を高めていくためにもです。そのためにも、このサービスを一般化していくためには一定程度の高めの手数料は必要だと考え、あえて20%という数字を設定しています。
■自動車ビジネスの本流企業 vs IT系・通信系企業
日本における個人間カーシェアサービスでは、今年3周年を迎えたディー・エヌ・エー(DeNA)のカーシェア「Anyca(エニカ)」やNTTドコモの「dカーシェア」などが先行して事業を拡大させている。一方で自動車ビジネスを専業にしてきた企業が参入する例は目にせず、IDOMの参入で業界の勢力図がどう変わるのか注目が高まる。
【参考】関連記事としては「ガリバー運営会社のIDOM、個人間C2Cカーシェア事業に参入 2019年4月にサービス開始」も参照。