トヨタ自動車は2018年11月、クルマとの新しい関係を提案するサブスクリプションサービス「KINTO」を発表し、既に本格的な事業展開とサービス提供を開始している。テレビCMやニュースでこの新サービスの存在を既に知っている人も少なくないはずだ。
KINTOの概要とともにサブスクリプションサービスの世界の動向を調べてみた。
ちなみにKINTOに関しては2019年12月のトヨタの会見でKINTOの利用実績が発表され、ラインナップの拡充などが急務であることに触れられている。また若年層を意識したサービスとして中古車版サービスの構想も明らかにされており、2020年1月下旬にトライアルが開始される予定であることが発表された。
【参考】関連記事としては「申込不調?トヨタの定額サービス「KINTO ONE」、ラインナップ拡充で利用者増へ」も参照。
記事の目次
■株式会社KINTOの会社概要
株式会社KINTO(キント)は、愛知県名古屋市西区に本社を構える。名前の由来は、必要な時にすぐに現れ、思いのままに移動できる「筋斗雲」をイメージしている。
資本金は18億円で、株主と出資比率は、トヨタファイナンシャルサービス株式会社が66.6%、住友三井オートサービス株式会社が33.4%となっている。
代表取締役社長はトヨタファイナンシャルサービス株式会社上級副社長の小寺信也氏が務めるほか、福留朗裕氏(トヨタファイナンシャルサービス株式会社社長)、長田准氏(トヨタ自動車株式会社国内販売事業本部副本部長)、加藤真一氏(住友商事株式会社自動車モビリティ事業本部長執行役員)、冨永政義氏(住友三井オートサービス株式会社取締役常務執行役員)がそれぞれ取締役に就任した。
事業内容は、自動車リース、自動車修理・点検、車両管理、中古車売買など、モビリティサービスに関わる一切の事業を行うこととしているが、やはり目玉は月々定額で新車を楽しめる「サブスクリプションサービス」だ。
■「KINTO」サービスの枠組み
頭金なしで、登録諸費用や毎年の自動車税、定期メンテナンス、任意保険などの手続きもすべてワンパッケージ化されており、店頭だけではなくネットからも申し込みや手続きが可能だ。メンテナンスや修理などのアフターサービスは、トヨタ・レクサスの正規販売店が実施してくれる。
サブスクリプションサービスには「KINTO ONE」と「KINTO FLEX」の2つの種類が用意されている。KINTO ONEについては公式サイトで「月々コミコミ定額で、3年間新車に乗れる」、KINTO SELECTについては「レクサスを1年毎にお乗り換え」と紹介されている。
ちなみにKINTOについては「公式YouTubeチャンネル」もあるので、参考にしてみてほしい。
以下でそれぞれのプランについて詳しく説明する。
【参考】KINTOについては「トヨタ、「株式会社KINTO」設立を発表 2種類の月額定額サブスク型サービスを提供」も参照。
■KINTO ONEについて
好きな車1台を3年間楽しめるプランで、気軽にカーライフを始めることが可能だ。頭金なしで、登録諸費用や税金、定期メンテナンス、任意保険などワンパッケージ化した月々定額制サービスとなっており、KINTOが厳選したオプションパッケージから好きなものを選ぶことができる。3年で乗り換えるため、ライフステージの変化に合わせて車種を選ぶことができるのが魅力だ。
ちなみにKINTO ONEに関しては、2020年5月8日から3年プランに加え、「5年プラン」と「7年プラン」が追加されることが発表されている。またレクサスブランド車を除き、契約期間中でも他の車種にお得に乗り換え可能な「のりかえGO」のサービスも開始している。
【参考】関連記事としては「トヨタサブスク「KINTO ONE」が進化!5年&7年プラン追加、より割安に利用可能に」も参照。
▼KINTO ONEのサービスページ
https://kinto-jp.com/kinto_one/
車種は?月額料金は?
KINTO ONEの月額料金は車両やオプション、車両保険を含む任意保険、メンテナンス・故障の修理、自賠責保険・重量税・登録手続きなどの諸費用が含まれた金額となる。この契約には月間走行距離制限があり、月間で1500キロ、3年間で5万4000キロまでとなる。
車種のラインナップは全部で21種類だ。コンパクトカーはトヨタが5種、セダンではトヨタとレクサスがともに3種、SUVはトヨタが4種でレクサスが2種。ミニバンはトヨタが2種、ワゴンはトヨタ、クーペがレクサスと1種ずつ用意されている。
最も月額料金が安いのはトヨタのコンパクトカー「パッソ」で月額3万2780円(税込)〜となっている。最も高いのはレクサスのSUV「LX」で月額19万8000円(税込)〜。全ラインナップと月額料金は以下の通りだ。
<コンパクト>
パッソ 3万2780円〜
ルーミー 3万9600円〜
タンク 3万9600円〜
ヤリス 3万9300円〜
アクア 4万3450円〜
<セダン>
カローラ 4万6750円〜
プリウス 5万710円〜
カムリ 7万4250円〜
=レクサス=
IS 10万8900円〜
ES 12万5400円〜
LS 23万6500円〜
<SUV>
RAIZE 3万9820円〜
C-HR 5万2800円〜
RAV4 6万3800円〜
ランドクルーザープラド 6万5780円〜
=レクサス=
UX 7万4800円〜
LX 19万8000円〜
<ミニバン>
アルファード 6万9850円〜
ヴェルファイア 6万9850円〜
<ワゴン>
カローラ ツーリング 4万7850円〜
<クーペ>
=レクサス=
RC 12万8700円〜
利用の流れ
続いてKINTO ONEを利用する際の流れを紹介していこう。
KINTO ONEの審査通過まではWEBサイト上の申込で全て完了する。まず、見積もりのシミュレーションページから、車種やオプションと車の受け取りやメンテナンスを受ける販売店を選択する。KINTOの利用規約に同意し、住所などの必要事項を入力すれば審査の申し込みが完了だ。審査結果は、3営業日以内を目安としてメールで連絡がくるという。
審査を通過したら、納車までの手続きは郵送と電話で進められる。審査通過後には「My KINTO」にログインし、月額利用料を支払うクレジットカードの入力・登録や利用規約への同意をする。この段階で契約が成立となり、車が発注される。この時点でキャンセルが不可となるため要注意だ。
その後は、指定した販売店と車両登録に関する書類のやりとりと納車日程の調整を行う。晴れて販売店から車を受け取ったら、My KINTOで「納車完了確認」のボタンを押せば手続きは完了だ。なお、契約満了の通知は4カ月前にくるという。
中途解約は、解約希望の30日前までにMy KINTOからの申し出れば可能だ。中途解約金は6ヶ月ごとの残利用料と追加精算金を足した金額になる。
■KINTO FLEXについて
KINTO FLEX(元々は「KINTO SELECT」という名称で展開されていた)は、レクサス6車種から好みの車両を選び、月額定額で3年間利用することが可能だ。
このKINTO FLEXには「3年6台プラン」と「3年3台プラン」の2つのプランがあり、「3年6台プラン」はその名称の通り3年間で6台のレクサスを乗り継いでいく形となり、「3年3台プラン」は3年間で3台のレクサスを乗り継いでいく形となる。
登録諸費用など月額料金に含まれるものはKINTO ONEと同じで、アフターサービスはレクサスの正規販売店が実施する。
▼KINTO FLEXのサービスページ
https://kinto-jp.com/kinto_flex/
車種は?月額料金は?
RX450h version L、ES300h version L、RC300h F SPORT、NX300h F SPORT、IS300h F SPORT、UX250h F SPORTの6車種。グレード、オプション、カラーはすべてKINTO指定のものになる。
車の名義(所有者)はKINTOだが、レクサスに関する質問や相談、緊急時のサポート・手配など24時間365日受けることができる「レクサスオーナーズデスク」を利用できる。
「3年6台プラン」の月額料金は19万8000円(税込)、「3年3台プラン」の月額料金は17万6000円(税込)となっている。契約者の条件は20歳以上70歳以下で運転免許証保持者で、契約者以外の運転も可能だ。
利用の流れ
KINTO FLEXの申込はWEBサイトか店舗に直接来店するかのどちらかで、契約手続きに関しては店舗で行うことになる。
WEBからの申込では、「3年6台プラン」か「3年3台プラン」、1台目に使用する希望車両、車の受け取りやメンテナンスを行ってもらう店舗を選ぶ。そして、利用規約に同意し、必要事項を入力すると審査の申込ができる。
審査が承認されてメールか電話で連絡をもらった後からは、店舗での手続きとなる。1台目の車両を最終決定し、契約書の作成が終われば納車を待つだけだ。店舗での手続きはこの一連の流れをセールススタッフとともに行っていく。
乗り換えのタイミングは、3年6台プランは約6カ月ごとに、3年3台プランは約1年ごととなる。KINTO FLEXの走行距離制限は、3年6台プランで9000キロ、3年3台プランで1万8000キロだ。
なお、KINTO FLEXの2つプランは、相互変更時の中途解約金は不要だという。
■他社のサブスクリプションサービスについて
サブスクリプションサービスの展開は近年急速に広がっており、その火付け役は米自動車メーカーだ。
欧米におけるサブスクリプションサービス
米ゼネラル・モーターズ(GM)が2017年初頭に傘下の高級ブランドであるキャデラックでサブスクリプションサービス「BOOK By Cadillac」の開始を発表すると、米フォードも同年5月に傘下のキャンバスでサービスを開始した。フォードはリース車を活用した低価格路線を開拓している。
その後、ドイツ勢も相次いで参入しており、2017年11月に独ポルシェが「Porsche Passport」を北米で開始しており、月額2000~3000ドル(約22~33万円)でボクスターやマカン、カイエン、911などに乗ることができる。
独BMWグループは2018年4月に「ACCESS by BMW」を英国で開始することを発表。現在は北米でも展開しており、それぞれ月額料金や利用可能な車種などは異なる。
独メルセデス・ベンツは2018年6月から「Mercedes-Benz Collection」を北米で開始しており、1095ドル(約12万円)から2995ドル(約33万円)の月額料金でメルセデスベンツやメルセデスAMGのラインナップからさまざまな車種を選択できる。
独アウディは2018年9月から北米で「Audi Select」を開始しており、月額定価1395ドル(約15万円)で、A4セダン、A5カブリオレ、アウディQ5、アウディQ7、S5クーペの乗ることができる。
このほか、スウェーデンのボルボ・カーが「Care by Volvo」、英ジャーガー・ランドローバーが英国で「Carpe」をそれぞれ展開している。レクサスも2018年3月に開催されたニューヨークモーターショーで、米国内において新型UXにサブスクリプション導入を試験的に行うことを発表している。イタリア・米国をまたにかけるFCAも、北米で月額制でFCAの車両を使用できるサブスクリプションサービスを2019年から開始する予定という。スタートアップの参入も相次いでいるようだ。
日本におけるサブスクリプションサービス
日本国内では、中古車販売大手のIDOM(旧ガリバーインターナショナル)が中古車を月額定額で利用できる「NOREL」サービスを2016年8月に開始し、2018年10月にはBMW日本法人との提携のもとラインナップにBMW・MINIの新車を加えている。
トヨタ以外の日本の自動車メーカーもサブスクサービスをスタートさせており、ホンダは最短1カ月から借りられることが特徴の「Honda Monthly Owner」、日産は「3年」「5年」「7年」の3パターンの契約期間から選べる「Click Mobi」を展開するなどしている。
【参考】関連記事としては「ホンダ、中古車サブスク「Monthly Owner」をスタート!先行するトヨタ追う」「日産のサブスク「NISSAN ClickMobi(クリックモビ)」とは?」も参照。
■【まとめ】サブスクリプションサービス多様化、新たな移動サービスへの進化も
中古車やエントリーモデルなどを活用した低価格路線や、あこがれの高級車に手軽に乗ることが可能な高価格路線、また数か月ごとに乗り換え可能なサービスや1年縛りなど、他社との差別化を図るべくさまざまなタイプのサービスが出揃ってきた。
日本国内における需要は読みにくいところだが、これまでの「自家用車は所有するもの」という概念を変えるものであり、今後、シェアリングサービスなどと融合して新たな移動サービスを生み出す可能性もある。
トヨタも「自動車をつくる会社からモビリティ・カンパニーにモデルチェンジする」と宣言し、モビリティサービスの領域に事業の軸を移しつつある。その一つの形がKINTOであり、今後、サブスクリプションサービスにとどまらない進化を遂げていくことに期待したい。
※KINTOについては、自動運転ラボは最新記事「KINTOを徹底解説!トヨタのサブスク、コミコミ定額で利用可能」を作成している。2019年から2021年にかけてサービス内容が拡充され、車両ラインナップも増えているため、最新情報については上記記事を参考にして欲しい。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)